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「今日は飲め飲め食え食え!いくらでも焼いて食え!全部俺がおごってやる!」
顔を真っ赤にし涙目で酔っ払ったコーチが飯塚の肩を抱き寄せながら、酒臭い息を鼻に押し付けて叫んだ。
普段なら最悪な気分だが、今日だけは気にならない。むしろ最高の気分だ。
「もう誰にも『無冠の飯塚』なんて呼ばせねェぞ!」
あの瞬間、飯塚は自分がゴールしたことにも気づかず、強く叩きすぎた右手の痛みでやっとタッチを決めていた事を理解したくらい夢中だった。
47.82秒。
煩すぎる歓声の意味が、遅れて理解できた。
「日本新!飯塚隆が日本新を塗り替えました!」
一番だ。一番自由な場所で一番になったんだ。
飯塚は未だ夢見心地ではあるが、ひしひしと達成感を嚙みしめつつ、その時の光景を思い出し少しだけ酔いしれた。
「こりゃー、オリンピック出場どころかオリンピックで金メダルまで獲れるぜ!がっはっはっは!」
いつになく饒舌なコーチは周り人物の誰彼に構わず肩を抱き、そう言いながら笑っては泣いていた。
確かに、このままタイムが上がり続けていけば世界新も夢では無いかもしれない。
——ポコポコッ
スマホにラインが届いた。そういえばすっかり同窓会の返事を返さないままだった。
親からのおめでとうのメッセージは一度スルーして、同窓会の返事を返す。
「いきます、連絡ありがとう」
それだけ打ち込んで、飯塚は食事に戻った。
断食以降、5日ぶりに食べる肉はどれも最高に美味しく、コーチが焼き続ける焼肉をお酒もそこそこに次々と平らげた。
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