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 いよいよ男子100m自由形、決勝が始まる。



 会場にホイッスルの音が響き渡り、選手全員が飛込み台の上に登る。




 飛び込むまでの、ほんの少しの間。


 この時間に見える水面が、飯塚は大好きだった。





「ピッ」





 無機質で洒落っ気のない電子音と共に、一斉に男たちがプールに飛び込んだ。


 頭から勢いよく水しぶきを上げ水面に潜り込む。


「さぁ選手一斉に飛び込んだ」


 実況の男の声が聞き取れるのは、いつも潜水している時のこの部分だけだ。


 水面に浮かんできたあとは水飛沫と自分の鼓動で、もう何も聞こえやしない。





 120%。120%出し切るんだ。





 腸の中が全部出てしまってもいい、ひっくり返ってしまってもいい、これで引退になってしまってもいい。




 尻から空気という空気をドンドン吹き出し、加速をつけ続けていく。





 50mのターン。歓声が一気に沸き起こる。





 一瞬、コーチの声が聞こえたような気がしたが、すぐに水飛沫と自分の鼓動でかき消された。





——残り25m。




「星座絵だと全然可愛くないけど」




——残り10m。



 



「私、夏の大三角よりもアルタイルのすぐ横にあるイルカ座が好き」






 そうだ、夏の大三角ってアルタイルとデネブと、なんだっけ?


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