第63話 真意

 待機していたヒーローたちと、バグとの戦闘が何とか終結した。


 ヒーローたちの戦闘能力が高かったため、バグたちとも渡り合うことができたのであるが……予想以上に消耗が激しく、連戦となると厳しい状況であった。





 また、ネットワークの方では、セキュリティーホールが確認された。


 どうやらカニ型のウイルスの攻撃によって、一か所穴が開けられてしまっていたらしい。





 その時、新島にいじまの悲鳴が上がった。


 何事かと問うと……警察署の中で、殺人事件が起きていたということであった。


 殺されたのは室井むろいで、小型の刃物によってめった刺しにされていたとのことである。





 普段であれば、警察内部の事として処理されるのであろうが……今回防衛任務に失敗したという証拠が必要という久朗くろうの説得に応じ、状況の説明がされることになった。





「これが、監視カメラの画像だ」





 永瀬ながせが、廊下が映った画像を見せる。


 そこに一体の人形が、通り過ぎていった。





「うえ……ホラーかよ。俺そういうのは苦手なんだよな……」


 小早川こばやかわがぼやく。





「いや、違う。これは『久遠くおん』というダークヒーローの力だ」





 久朗が口にする。


 その情報は警察にもなかったらしく、詳しい状況の説明が求められた。


 以前めあを助けるために行動した件と、その際に出会ったダークヒーローの能力である『人形を操る力』について、簡潔に述べた。





「なるほど。ネットワークのセキュリティーホールは、彼女が能力を使うために解放されたものということなのだろうな」


 永瀬の分析は、おそらく正しいであろう。





 その後、室井の部屋をノックする人形。


 ドアが無造作に開き、誰もいないことに訝しむ室井の姿。


 そしてドアの死角から、刃物を手にした人形が襲い掛かり――。





「これ以上は、刺激が強すぎると思われますが」


 中村なかむらの指示で、映像はそこでストップされた。





「この人形、一体どこから入ってきたのだろう?」


 僕が素直に疑問を口にする。





「警察の遺失物管理課から、出てきたそうです――その時点では単なる落とし物として、処理されていたようですね」


 新島が確認し、それに答えた。





「また、室井の体には手紙が縫い留められていました――それによると、彼は以前自分の身内が起こした事件をもみ消したことがあるらしく、今回の犯行はそれに対する報復であるということでした」





 新島が追加説明を行う。


 それに対して、永瀬が問いかける。





「それはまた――らしいと言えばらしいが、該当するような事件はあったのか?」


「はい――強姦事件で、いつどこで起きたのかとか、もみ消した後の証拠の所在に至るまで、事細かに記されていました」





 新島と永瀬の会話が正しいとすれば――室井という奴は、度し難い外道だったようである。


 元々不快な印象を抱いていたが、むしろ殺されて正解だったのでは? と、少し考えてしまった。





「これで、教団側の『ゾディアック』は三人――人形遣いの『ふたご座』と、バグ使いの『さそり座』、そしてネットワークのトラップ使いの『かに座』か」


 久朗が確認する。





「そっちでは、かに座が出てきたのか――それだけの戦力をもって、やったのは室井を殺すことだけ、明らかにやったことの規模に比べて小さすぎるんじゃねえか?」


 あきらが疑問を呈する。





「それは私も感じました。今回は顔見せだけということも強調していましたし――もしかしたら『教団きょうだん』、そして『ゾディアック』という存在の宣伝も、目的だったのかもしれません」


 漣れんがそれに加えて、意見を述べた。





「にゃ。その割にはかに座の少女は、名乗りも機体名も言わなかったけれどにゃ」


 みかんが疑問を呈する。





「おそらく、単に忘れただけではないか? なんとなくやる気がなさそうな感じの少女だったし」





 久朗が意見を述べる。


 忘れ物の天才である久朗の口から耳にすると、非常に説得力がある意見のように感じられる。





「防衛任務としては失敗扱いになってしまうが――今回は特殊な事態が多すぎた。ペナルティは可能な限り低く抑えるよう、上申させてもらうことにする」





 永瀬の言葉は、本当にありがたい。


 高校生のうちにブロンズに昇格するためには、失敗を可能な限り少なくする必要があり――今回のこれはおそらく、評価の対象外になるであろうという説明も同時になされた。





 ゾディアック、そして教団の持つ力は、警察でも手玉に取られるほど――全体ではどれだけなのかと想像するだけで、身震いがする。


 何しろたった3人が全力を出しただけで、これだったのだから。


 芙士ふじ市にとんでもないことが起きようとしているような、そんな予感に僕たちは囚われた。

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