第62話 ネットワークとかに座

~side 久朗~





 結城ゆうきたちがさそり座の少女と邂逅していたころ、ネットワークでは別の事件が起きていた。





 最初に気づいたのは、新島にいじまであった。





「警察外部から、何かしらのファイアーウォールへの攻撃が確認されています。至急ネットワーク班は、原因究明をお願いします」





 ネットワークの担当である永瀬ながせ中村なかむら久朗くろう、みかんはそれぞれ探索する。


 こちらは相手の油断を誘う必要が無いため、永瀬と中村、久朗とみかんのタッグで行動することにした。





 そして、それを発見したのはみかんであった。





「にゃ? なんか、ファイアーウォールに対してとりついている奴がいるにゃ。『サーチドローン』射出」





 偵察に特化した、新たなドローンを使って偵察する。


 小型かつ高感度のカメラを搭載したタイプであり、戦闘能力こそ有しないものの、秘匿性に優れているという特徴があるのだ。





「画像解析……なんだか、カニみたいな生き物がファイアーウォールに対して、はさみを使って切り裂こうとしているみたいにゃ」


「カニ……それはスパイダーとは異なるタイプのウイルスということだろうな。データベースとの照合はできるのか?」





 久朗がみかんに確認をとり、同時に永瀬たちの班に対して連絡を入れる。





「新島から連絡があったにゃ。このタイプはファイアウォールへの攻撃に特化したタイプみたいにゃ。撃破しても大丈夫なタイプだけれども……ボールネット、射出!」





 バズーカから、大型のボールが発射された。


 そのボールは途中でほどけるように広がり、大型の網となって相手を絡めとる。





「なんだ、生け捕りにするのか――もしかしてこれから、焼いて食べるのか?」





 久朗が思わずといった感じで、口を開いた。


 みかんの食欲を考えると、ある意味仕方ない意見ではあるが……。





「にゃ! いくら私でもやらないにゃ! カニでも毒をもつものがいることくらい知っているし――それに今回捕らえたのは、作成者を割り出すためにゃ」


 どうやらウイルスを直接分析して、作成したものを特定するためにあえて生け捕りを選んだようである。





――その時、新たな相手から声をかけられた――





「その必要はない。作ったのは私」





 赤いタクティカルフレームが、二人の前に姿を現した。





「その子たちを離してほしい。痛い目にはあいたくないはず」





 どうやらやる気満々のようである。





「にゃ、この子たちはこれからカニ鍋にするにゃ。逃がす気は毛頭ないにゃ」





 食べないと言っていたみかんだが、挑発に使えると判断したようで、あえて相手の気持ちを逆なでするような発言を行う。





「そもそも作成者ということであれば、お前自身も捕らえる必要があるからな」


 久朗がビークを構え、戦闘準備に入る。





「仕方ない――ウニ爆弾、投てき」





 彼女がとげのついた物体を、こちらに向けて投げつけてくる。


 激しく爆発したその音が、戦闘開始の合図となった。





 彼女は次々と、ウニ爆弾と呼ばれるものを投げつけてくる。


 タクティカルフレームの装甲に対しては、あまり効果がないのだが……関節部などのような柔軟性を確保するための部分に針が刺さったら、痛いでは済まされないだろう。





「苛立つ――くそくらえ」





 さらに足元に魔法陣が発生し、泥状の物体が発生する。


 嫌なにおいを放っていることからして、何らかの動物の排せつ物であることが想像される。


 大量に発生するそれをよけるために徐々に行動範囲が狭められていき、追い詰められていく。





「動きを封じて――これでとどめ」





 上空から巨大な何かが、二人めがけて落下してきた。


 回避しようにも足元の排せつ物を踏まない限り、避けられない状態である。





「みかん、しっかりつかまっていろ!」





 久朗がビーク・スマッシャーを上空の物体にめがけて射出する。


 表面に突き刺さるが、破壊するには到底及ばない。





「よし、これでいい――一気に行くぞ!」





 その突き刺さった部分を支点として、振り子のような動きを見せる。


 ウイングの補助もあり、一気に吹き飛び……排せつ物のゾーンを超えて、ホームページの地面に降り立つことができた。


 落下物を見てみると、巨大なうすのような形状をしている。





「まさかとは思うが……彼女の正体は『かに座』なのか!?」





 久朗が言葉を放つ。





「正解――今まで一度も正解した人はいなかった。かに座というと装甲が硬いだけのイメージが強すぎて、こういう戦い方をするなんて考えもしないみたい」





 彼女がそれに答える。





「にゃ、なぜかに座?」





 みかんが首をかしげる。





「カニはカニでも……おそらく、『さるかに合戦』のカニなのだろうな――そう考えれば使ってきた技も、納得できる」





 ビークを回収しながら、久朗が答えた。





「ネットに入ったこの子たちは回収させてもらったし――今回はこれで許してあげる」





 彼女が立ち去るそぶりを見せる。


 その手の中には、ネットに入ったカニたちがおり――久朗たちから奪っていったようだ。





「そこまでだ! 武器を捨てろ!」





 永瀬と中村の二人が、そこに駆けつけた。





「やだ、めんどい――それよりも、警察の中が大変なことになっているようだけれども、リアルの方で確認してみたら?」





 彼女がそれに答える。


 リアルの方と永瀬が新島と連絡を取り――事態の悪化に、驚きの声を上げた。





「わたしを逃がさないつもりならば、さそり座に連絡してバグたちを大暴れさせるよ――果たしてどれだけの被害が出ると思う?」





 この状況において、彼女を捕えようとするのは悪手としか言いようがない。


 遠くに向けて飛んでいく彼女を、四人ともただ見送るしかなかった――。







――? 「あ、名乗りと機体名をいうのを忘れていた。まあいいや」――

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