第五章

第55話 警察署防衛ミッション 開始前

文化祭が終わり、数日が経過した。





「そろそろ、ヒーローとしてのミッションを行うことになる」


 まもる先生が、僕たちに告げる。





 ヒーローの義務として、様々なミッションを行う必要がある。


 学校側で用意するものなので、そこまでひどいものにはならないと思うけれども……。





「今回のミッションは、警察署の防衛任務だ」


 何やら少し、雲行きが怪しくなってきた。





「最近、警察署を狙った犯罪が数件発生している。また手口から、ダークヒーローの関与が想定されているようだ」


 そうなると確かに、普通の警察官では荷が重い。


 警察署にはヒーローも配置されているはずだが、それでもほかの事件で出撃していたりすると手薄になることがあり……そういう時には警察署といえども、ダークヒーローの襲撃に対しては無防備に近い状態になってしまう。





「そこで、ヒーローの出番となる。今回は芙士ふじ警察署ということだ」





 芙士市の市街地から少し外れたところにある、大型の警察署である。





「今回はほかのヒーローも参加する。あくまでも我々はサポートとしての活動を求められていることに留意してほしい」





 どうやら僕たちは、巡回などのような役目を任せられるようである。


 そして何かあったら報告を行い、熟練のヒーローが駆け付けるまでの時間稼ぎを行うのが仕事のようだ。





「今年の一年生は、優秀であるということが体育祭で知れ渡ってしまったからな……少しハードな任務になるかもしれないが、了解してほしい」





 どうやら体育祭で、少し頑張りすぎてしまったようである。


 まあ、二年生たちに勝利してしまったのであるから、当然の期待なのかもしれないが……。





「巡回では、ペアを作って行動することになる。結城ゆうき久朗くろうはもともとペアだからいいのだが……残りの三人をどうするか、だな」





 僕たちはペアで確定らしい。


 確かに信頼関係でいえば、久朗とは長年の付き合いであり、組むのは納得できるけれども……。





「にゃ。ペアではなく、三人で行動する形にしたい。れんはヒーラーだし、私は近接戦に持ち込まれたら弱いから」


 みかんが提案する。





「まあ、まだ正ヒーローになって数か月だからな。そのくらいの配慮はして当然か」


 守先生も了承し、彼女たちは三人で行動することになった。





「ミッションの時間だが……基本的に夜となる。本当は高校生に、夜勤なんてさせたくないのだが……今までの傾向で夜間に襲撃が起きていることを考えると、やむを得ないという判断だ」


 守先生が少し苦い顔をして、僕たちに告げた。





「そのため、ミッション終了後には一日休暇を与える。そこでしっかり眠って、体をリセットしてほしい」


 こういう特別な配慮があるため、ヒーロークラスはほかの学部とは独立せざるを得ないのだ。





「質問です。襲撃者がどのくらいの規模なのか、わからないのですが……」





 漣が質問を行う。


 学生の僕たちまで駆り出されるくらいなので、相当事態は深刻なのだと思われるのだけれども……。





「襲撃者自体は、それほど多くないようだ。とはいえアプレンティスに搭乗しているため、一般の警察官では荷が重いらしい」





 アプレンティスを使った襲撃……少し前にあった、めあを狙った教団の事件を思わせる。





「どうやら結城は気づいたようだな。襲撃者の機体からは、人形しか出てこなかったようだ」





 久遠くおんと名乗っていた、教団所属のゾディアックの少女。


 彼女が襲撃に関与しているのは、間違いなさそうである。





「どこの警察署が狙われるのかわからないため、ヒーロー全体に声がかかっているようだ。ほかの警察署にも熟練のヒーローが配置されているが、一番規模の大きい芙士警察署はとにかく人数が欲しいということで、学校側に依頼することにしたらしい」





 守先生が事情を説明する。


 かなり大規模な作戦になりそうで、少し気が重い。





「今回は少しハードな任務となる。その代わりといっては何だが、それなりに報酬は期待できるらしいぞ」





 それを聞いて、久朗が目を輝かせた。





「今月は少し使いすぎたからな。それはありがたい」





 久朗の部屋、また片づける必要がありそうだ。


 買ったものを次々と重ねていくことは、「片づける」とは言わない。





「いったい何に使ったの?」





 僕が一応聞いてみる。





「うむ。好きなゲームのコンプリートボックスが出たため、つい購入してしまった。3万円もしたが、いい買い物だったと思う」





 3万円もするゲーム……想像するだけで、くらっとしてしまう。


 久朗の金銭感覚は少しおかしいと思うのは、僕だけだろうか……? 





「まあ、動機はどうだっていい。しっかり任務をこなしてくれ」





 締めの言葉を述べて、守先生が退出する。





「しっかし、警察を狙った犯行か……大胆不敵というか、なんというか……」





 あきらがため息をつく。


 警察署にもヒーローが配置されているので、普通は狙う対象としては悪手でしかない。


 それなのにあえて警察署を狙うということは、よほどの自信と戦力を有しているということになる。





「あまり事件になっていないのは……身内の恥を隠したいという、警察側の意向でしょうね」





 漣がニュースのアプリを起動して、チェックした。


 どうやら警察の方は、内々に事件を処理したいようだ。


 襲撃といっても、マスコミが騒ぐほどの規模にはなっていないのかもしれない。





「にゃ。今月は食費がピンチだったので、ミッションは助かる――頑張らないと」





 みかんもどうやら、財布の中身が危ういようだ。





「芙士美高の模擬店全制覇は、さすがにやりすぎだったにゃ……」





 そんなことをしていたら、確かにお金がいくらあっても足りなくなるわけだ。


 確かにさきちゃんの模擬店につられて、ほかの模擬店も結構頑張っていたとはいえ……やはり実力の差は大きく、圧倒的な差で咲ちゃんのクラスの模擬店が、勝利したようである。


 料理研究会が、かなり悔しがっていると風のうわさに聞いた。





「まあ、我々は与えられた任務をこなすだけだ。精一杯頑張ることにしよう」





 久朗の言葉に、みんなうなづいた。


 今回は夜ということもあり少しハードな任務だけれども、これもヒーローの仕事の一つ。


 体調管理を万全にして、ミッションに挑むことにする。

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