第46話 チカとの出会い

「お、どうやらチカ、こちらに来るようだぜ」





 カイムが僕たちに声をかけた。


 遠くから、何かの機械の駆動音が近づいてくる。





「チカ様は、足が不自由なのです……そのことについては、触れないであげてください」





 オリビアが説明してくれた。


 なるほど、だから玄関にはスロープがあり、廊下には手すりが付いていたのか……納得。





 現れたのは、電動車椅子に乗った一人の少女であった。


 やや痩せ気味ではあるものの、なかなか美人である。





「紹介するぞ。彼女が今回のネットダイブを担当する、横山よこやまチカだ」





 まもる先生が、僕達に説明する。





「彼女は芙士高ふじこうの、特殊学級二年という扱いになっている。実際には学校には通っていないが、課題をこなすことで通っている生徒と同じように進級するという制度を利用しているんだ」





 学校で見たことがないと思ったら、そういう事だったのか。





「彼女は人見知りだからな。学校という場所は辛いんだよ」





 みのるが補足説明をしてくれた。





「「よろしくお願いします」」





 僕たちは、声をそろえて挨拶する。





「よ、よろしく……」





 チカさんが、か細い声でそれに答えた。


 どうやら重度の人見知りというのは、本当のようだ。





「こいつらはいいやつだ。お前を傷つけたりしない。俺が保証する」





 実がチカに、安心させるように声をかける。


 それによって少しだけ、安堵したようだ。





「それでは、ダイブ用の部屋に移動するぞ――オリビア、前みたいに散らかっていないよな?」


 守先生がメイドのオリビアに、声をかける。





「大丈夫です。昨日掃除したばかりなので……チカ様やカイムが散らかすにしても、限度があると思いますから」


 オリビアがそれにこたえる……って、何やら少し、怪しい雰囲気が……。





「あ、わりい! 食べたスナック菓子の袋、そのままだった!」


 カイムがぺろりと舌を出しながら、白状する。





「申し訳ありません。5分だけ待っていただけますか。ざっと片づけを行います……カイム、あとで話がありますので、逃げないでくださいね」





 メイドとして、汚れた部屋を見せるのは我慢ならないようだ。


 僕たちは素直に了承する。





「それにしても、また少し痩せたんじゃないか……ちゃんと飯、食べているのか?」


 実がチカに質問する。





「最近は、無理やり食べさせられている……私は食べるよりも、ネットに潜っていたいのに」


 どうやらチカは、重度のネット中毒のようだ。





「定期的にLANケーブルをぶっこ抜いて、無理やり意識を取り戻させているからな」





 カイムが補足する。


 そうしないと食事すらとらずに、ネットに一日中潜ったままになってしまうらしい。





「正直、俺やオリビアがいなかったら、三日で命を落とすだろうな」


 ネット中毒にしても、凄まじい話である。





「お待たせいたしました。どうぞこちらにお越しください」





 オリビアの掃除が終わったようだ。


 僕たちは部屋に向かうことにする。





 その部屋は……一言で説明すると、「電子の要塞」であった。


 パソコンは大型の筐体が5つ連結されており、モニターは3画面。


 そして僕たちが参加できるように、折り畳みの椅子が人数分そろっていた。


 10畳くらいある大きな部屋なのだが、椅子やパソコンで占領されており、かなり手狭な感じを受ける。





「それでは、ネットダイブの講義を始める」





 守先生が、授業の開始を宣告した。


 ネット空間とは、いったいどんなところなのだろう……少し、緊張が高まってきた。

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