第39話 運動会 第三戦 久朗VS良

 久朗くろうりょうの試合が始まった。


 どちらも攪乱かくらんやトラップを得意とするため、搦め手が戦いの中心になりそうだ。





「まずは小手調べに……『ビーク・スマッシャー』!」


 久朗の『レイヴン』が牽制の一撃を放つ。





「っと、あぶないあぶない!」


 余裕で良の機体『フレーダーマオス』が回避するが……そこからが本領発揮だ。





「打ちっぱなしではないのだぞ! これが避けられるか?」


 久朗がダーツで相手の動きを制約し、そこにビーク・スマッシャーに接続されているワイヤーを使って、良を絡めとろうとする。





「ちっ、このワイヤーは、簡単には切れそうにないな」


 良が大きくジャンプして、ワイヤーから逃れた。





「お返しだ。『ベア・トラップ』!」





 地面からいきなり、トラばさみが生まれて久朗に襲い掛かる。


 それを軽いステップで回避する久朗。





「かかったな! 『ピット・フォール』!」


 その回避した先に、落とし穴が生まれる。





「久朗! 背中の羽を使え!」


 僕が思わず、アドバイスしてしまう。





「そういえば、そんなものもついていたな――今まで一度も使っていなかったので、忘れていたぞ。結城ゆうき、感謝!」


 久朗が羽とバーニアを使い、落とし穴を回避する。





「なかなかいい感じだな。これで三次元機動ができそうだ」





 今の今まで、ついていたことを忘れていたというのが久朗らしいというか、何というか……。





「それでは早速使わせてもらおう!」





 良の機体の上方に飛翔し、そこからワイヤーとダーツ、更にもう一方の手に持たれた銃を使った連続攻撃を叩き込む。





「ふざけんなよ! いきなり空を飛ぶ相手になりやがって!」





 良の方も負けじとするが……罠というものは基本的に地上など、「設置する場所」を要求するものである。


 そのため空を飛ぶ相手とは、あまり相性が良くないのだ。





「こうなったら……『かすみ網』!」





 空中に無数の網目が生まれて、久朗の機体を捉える。


 そういえば、そんな罠もあったっけ……。





「もう逃しはしないぞ! 必殺『ビッグ・フット』!」





 巨大な足が空中から現れて、久朗の機体を踏みつぶす。


 そのままぐりぐりとえぐるように動き、更なる追加ダメージを与えてくる。





「うむ……レイヴンは装甲の薄さが弱点だな。今の攻撃は効いたぞ」





 網はビッグ・フットによって破られてしまったようで、久朗が立ち上がる。


 相当大きなダメージを受けたようで、ボディーの各所にひび割れが走ってしまっている。





「とどめだ! 奥義『サウザンド・スパイク』!」





 運動場全体を覆いつくすほどの、無数のとげが地面から生まれ出る。





「そして、『ゴールデン・ケージ』!」





 おまけに上からは、金色の巨大な鳥かごが落ちてくる。


 逃げ場のない状況で、とげによってとどめを刺すという構築のようだ。





「降参したほうが、身のためだぞ!」





 良の忠告ももっともだ。


 空に逃げることすら許されないこの状況は、明らかに「詰み」だと思うけれども……。





「ふむ。ではとっておきの情報を教えてやろう――良、よく聞くがいい!」





 久朗が良に対して、語り掛ける。


 この状況で一体、何をするのだろうか……? 





「実は……私は、結城と一緒にお風呂に入ったことがあるのだ!!」





 !? 


 いったい何を言い出すのか、僕にはまったく理解できない。





 それは会場にいた全員が同じだったようで、いきなり無音の空間が生まれる。





「結城の体はすごいぞ。すべすべで産毛もほとんどなく、まるで女性の肌のようで――」





 更に久朗が言葉を続ける。


 良がそれに聞き入ってしまい、動きが止まってしまった! 





「この瞬間を待っていた! アサルトコンバットパターン、スタート!」





 久朗の機体が赤く光る。


 これは、クロックアップの合図だ! 





「まずは牽制の一撃!」





 腰につけていたダーツと、手りゅう弾を良の機体に向けて投げつける。


 爆発が起き、良の視界が遮られる。





「そして、ビーク・スマッシャー!」





 わざわざ後ろから回り込むようにして、良の機体に直撃させる。


 くちばしの部分は開いており、良をついばむようにして動きを封じる。





「さらに、円の動きで追い込み、そこに集中砲火!」





 ケージが完全に閉じていなかったところをくぐり抜け、一気に良の機体に肉薄する。


 更に低空飛行でスパイクを回避しつつ、良の機体を中心とした回転するような動きを見せ、同時に両手に持った拳銃で無数の攻撃を叩き込む。


 あまりにも圧倒的な速度に、良は全く反応できていない。





「締めは中央を突破!」





 右手にナイフ、左手に拳銃を持った状態で、良の機体に突撃する。


 拳銃を連射しながら近づいていき……。





「行くぞ! 『プログレッシブ・ナイフ』!」





 ナイフを高速振動させ、切れ味を増す。


 その状態で切り裂かれた良の機体に、大きなひびが入る。





「これでとどめだ!」





 その切れ目に銃口を突き刺し、ゼロ距離からの乱射を行う。


 タクティカルフレームをまとっていても、この状態では内部に直接ダメージが通るはずだ。





 コンビネーション攻撃が終わり、崩れる良の機体。


 明らかに戦闘不能であることは、一目瞭然である。





「ふむ。この戦法を『φファイコンビネーション』と名付けることにしよう」





 久朗に新たな必殺技が加わった瞬間であった。


 この土壇場で、これだけのスペックを発揮する……やっぱり久朗はすごい! 





 ただし、使った方法は問題が大きい。


 後でじっくりと、問い詰めることにしようと思う。





「にゃ! 結城と久朗が一緒にお風呂……みなぎってきたにゃ~!!」





 みかんが何やら興奮しているようだ。





「これはもう、薄い本を作れと神様が言っているに違いないにゃ!」





 !? 


 みかんちゃんって…‥いわゆる、「腐」の子だったのか。


 何やらとんでもない燃料を、与えてしまったような気がする……。

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