第31話 さわやかでの昼食
そして、中間テストが終了した。
「おわったみゃ……何もかも」
どうやら別の意味で終了した子もいるようであるが、おおむね問題ないんじゃないかな? と思う。
そして週末を迎えた。
今日はめあちゃんと
「僕の方は出かける準備ができたよ。
「こちらも大丈夫だ……おや
ふざけたことを言い出した久朗の頭に、思いっきりさやに入った刀を叩き付ける。
がっつんという、かなりいい音がした。
「ちょっとふざけただけなのに……痛い……」
「言っておくけれど、完全に自業自得だからね」
両親に外食することを告げて、僕たちは家を出た。
今回選んだ場所は、「さわやか」という名前のチェーン店だ。
これは静丘限定のチェーン店で、わざわざほかの県から食べにくる人がいるくらい、絶大な人気を誇っているお店。
少し早めに行って、並ばないと入れなくなってしまうくらいなのだ。
「もちろんお目当ては、げんこつハンバーグだよな?」
久朗が当然のことを聞く。
「おにぎりハンバーグだと、ちょっと物足りないからね」
このチェーン店の目玉商品が、げんこつハンバーグである。
鉄板に乗って提供されるジューシーなハンバーグの美味しさは、筆舌に尽くしがたい。
お店に向かって進んでいると、メールが届いた。
奏さんからのメール、実は初めてだったりする。
『お待たせしました。今、三人でお店の方に向かっています』
僕たちが行く店舗は、芙士錦店だ。
ここは隣に農協が隣接していて、食べた後はそこで野菜もチェックするつもりである。
お店の前にたどり着くと、ほどなく三人もやってきた。
まず奏さんは、長袖のシャツとパンツスタイルだ。
少し汗ばむ陽気ではあるが、日焼けするのが嫌なのだと思われる。
次に咲ちゃんは、レースのついた薄い長そでの服と、紺色のスカートを組み合わせている。
ふわっとした感じになっていて、かわいらしい雰囲気だ。
そしてめあちゃんは、青く少しゴシックロリータっぽい、エプロンドレスを着用している。
なんだか「不思議の国のアリス」の世界から、そのまま飛び出したような格好だ。
かわいらしいめあちゃんには、非常によく似あっている。
「よかったです。まだあまりお客さんが並んでいないので、最初のグループで食べられそうですね」
奏さんがほっとしたように、語りかけてきた。
「ここのオニオンソース、真似しようと努力しているのですが……あと一歩のところで及ばないのです」
咲ちゃんが悔しそうに口にするけれども……それって、あと一歩で追いついてしまうってこと!?
むしろそのことの方が、恐ろしいと思う。
「めあ、今回おこずかいをたくさんもらったの。わりかんでも大丈夫なの!」
「いや、そのお金は取っておいたほうがいいぞ……ある意味デートなのだから、男性陣におごらせてくれ」
久朗の声に、咲ちゃんが不思議そうな顔をする。
「男性陣って……久朗さん一人に負担をかけるのは、さすがに悪いですよ」
そういえば、以前あったときには僕の性別のこと、言っていなかったっけ……。
「僕、男性です」
「え、本当なのですか――驚きました。私は男性が少し苦手なのですが、全く気づきませんでしたよ」
咲ちゃんが驚きを口にする。
「男性だと分かりましたが、結城さんはいい人のようなので大丈夫そうです」
その言葉に僕も、ホッとした。
お店の中に入り、テーブルに案内される。
めあちゃんだけおにぎりハンバーグで、僕たちはげんこつハンバーグを注文した。
あと、ポテトも追加注文。
ステーキ皿から油が飛び散るため、それを防ぐペーパーが各自に配られる。
そこにはさわやかの創業からの歴史が記載されていて、見ていると結構時間つぶしになる。
「そういえば、文化祭の準備は順調なのか?」
久朗が奏さんたちに問いかける。
「ほぼ順調です……私は裏方に回ることになったため、ホッとしました」
奏さんはあまり、目立ちたくないらしい。
この美貌なのだから、ウエイトレスになったらさぞお客さんが殺到すると思うんだけれども……。
「私は厨房担当ですね。さすがにナンの手作りまでは手が回らなかったので、市販のものを使うことにしました」
話を聞くと、提供されるのはナンとご飯、そしてカレーが4種類にラッシーというヨーグルトの飲み物、とどめにマンゴーとカスタードを混ぜたデザートまで……もはや完全に、専門店のレベルに達している。
恐らく伝説に残る模擬店になるのではないだろうか?
「めあも、とっても楽しみなの!」
わりとめあちゃんは、お祭りごとが好きなようである。
「そういえば結城たちも、体育祭があったはずなの」
ちなみに
主にヒーローの活躍を見るのが目的で、スカウトの人も来るらしい。
「そちらも、とっても楽しみなの――行っていいよね?」
めあちゃんが見に来るとなったら、無様な戦いは見せられない。
改めて善戦することを、心に誓った。
「お待たせしました。げんこつハンバーグになります。鉄板が熱いので十分ご注意ください」
店員がステーキ皿に入ったハンバーグを、持ってきてくれた。
そして、目の前で半分にカットしてくれる。
断面は赤いレアで、自分の好みの焼き加減で食べるというシステムなのだ。
「おや? 咲さんは、デミグラスソースも注文したのか?」
久朗が目ざとくチェックする。
「はい。こちらの味の方は、ほぼ再現できているので――確認を兼ねて、です」
こんなレベルの子が作る、本格派インドカレー……まずくなるはずがない。
文化祭に行くのが、楽しみになってきた。
ナイフで切り分けて、口に運ぶ。
ほかのファミレスのハンバーグとは全く異なる、ジューシーで肉汁たっぷり、かつしっかりと肉の質感が感じられるこの味は、静丘に住んでいる人間の特権の一つかもしれない。
値段も千円を切るレベルでありながら、ステーキ専門店のハンバーグを凌駕するほどのおいしさに、会話する余裕すらなく僕たちは、夢中で口に運んでいく。
ちなみに言い忘れていたけれども、オニオンソースを選ぶのが鉄則である。
デミグラスソースだけで食べるのは邪道で、ハーフか追加料金で食べるのならばギリギリ許容範囲内というくらいに、オニオンソースの味が際だっているのだ。
「ちなみにこのお店では、ビビンバなども美味しいそうですよ」
食べ終わり、追加のポテトも口に運んだあとで、咲ちゃんがアドバイスしてくれた。
「私も参考に食べたことがあるのですが、焼肉屋のものよりもレベルが高いと感じました。ぜひ再現したいと思っています」
咲ちゃんの料理に対する情熱は、半端ではないようだ。
「ごちそうさまなの。ライ麦パンも、とっても美味しかったの~!」
めあちゃんはライスではなく、パンを選んだようだ。
「このパンもレベルが高いのです……ホームベーカリーではさすがに難しいですね」
だから咲ちゃん、いったいどこまでのレベルを目指しているのだろうか?
意気投合したので、僕たちは咲ちゃんともアドレスの交換を行った。
体育祭に向けて頑張らないといけないけれども、芙士美高の文化祭も、とっても楽しみだ!
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