第二章

第19話 奏との再会

 めあの事件から、数日が経過した。


 今のところ再びめあを狙う動きはなさそうで、その点では一安心している。





 そんなある日の放課後、僕たちは神無月奏かんなづきかなでと出会った。





「あ、結城ゆうきさん、久朗くろうさん。お久しぶりです」





 彼女の方から、声をかけてくれた。


 手には緑色のビニール袋が握られている。





「前にカラオケであって以来だな。元気そうで何よりだ」


 久朗が応える。





「そういえば、数日前はあちこちで事件があったようだけれども、神無月さんは大丈夫だったの?」


 気になって、僕は聞いてみた。





「あの日は……確かに、忙しかったです。私も駆り出されることになりました」


 やっぱり、ほかの学校のヒーローも大忙しだったようだ。





「立ち話もなんだな。どこかいい所は……そうだな、そろそろ中間テストだし、芙士西ふじにし図書館に向かわないか?」


 久朗が提案する。





 芙士西図書館は、芙士市交流プラザの一角に設けられている図書館である。


 この建物は軽食が食べられるブースもあり、談笑するのにも向いているのだ。





「う、テスト……忘れていたかった……」


 僕が頭を抱える。





 赤点を取るほどひどい成績ではないものの、平均かそれより少しだけ上くらいの僕の成績からすると、テストというのは嫌なものの代名詞の一つだ。


 逆に、普段はふざけている久朗の方が成績はよく、世の中の理不尽さを感じている。





「そうですね。私も一緒に勉強させてもらって、よろしいでしょうか?」


 神無月さんが、久朗の意見に賛同した。





「あ、それと神無月ではなく、奏と呼んでください。私の家族は人数が多くて、名前で呼ばれるほうが慣れていますので」


「分かったよ。か……なでさん」





 これは、彼女が心を開いてくれている証なのかもしれない。


 僕たちは喜んで、その提案を受け入れた。





 三人で芙士市交流プラザに到着する。


 先に軽食コーナーに向かい、そこで彼女が緑色の袋から取り出したのは……ベーグルとスコーンだ。





「この、ビジーベーグル&エスプレッソのベーグルは、私のお気に入りなんです。少し買いすぎてしまったので、よろしければ味見してください」





 彼女の言葉に甘えて、僕はWオレンジというベーグルを、久朗はブルーベリークリームチーズのベーグルを手に取った。


 奏さんはシンプルな、バニラ風味のスコーンを口に運んでいる。





 食べてみると……もっちりとした食感が、口いっぱいに広がる。


 噛み切るのに苦労するほどのしっかりした歯ごたえで、生地自体に織り込まれたオレンジの風味が絶妙だ。


 更にオレンジピールの味が加わって、とっても美味しい! 





「うむ。こちらの方も絶品だ――結城、もしよければ半分ずつ、味見してみないか?」


 久朗の提案に従って、分けて食べることにする。





 ブルーベリーの酸味、そしてクリームチーズの滑らかな口当たりが広がり、こちらも絶品。


 また、ちらっと原材料を見たけれども、余計な材料が一切入っていない点も安心して食べられるポイントだ。





「このスコーンも、しっとりしていて普通のスコーンと全く違うのです。私のお気に入りのお店なので、良かったら今度はお店で買ってみてください」





 美味しいものを口にしているためか、奏の表情も以前よりも少し明るい感じを受ける。


 つくりの良さもあって、思わず赤面してしまいそうなくらい、破壊力抜群だ。





 食事の後は、勉強だ。


 図書館に入り、本を手にする。





「ヒーロークラスだと、法律なんかの知識もあるので、結構大変なんだよね」


 僕が少し、ぼやいてしまう。





「まあ、それに見合うだけの稼ぎがあるのも事実だからな」


 久朗がそれに応える。





「私もあまり頭がよくないので、みんなで教えあいながら勉強しましょう」


 奏さんの提案に従って、三人で隅の方の席を借り、勉強することにした。





 基本的にはやはり、久朗が一番出来がいいようだ。


 奏さんは学校が違うため、多少戸惑いはあるものの、僕よりはしっかり問題を解けている様子である。





「ごめんなさい。久朗さん――あまり頭がよくないので、教えてもらってばかりですね」


 奏さんが久朗に対して、謝っている。





「いや、私も復習になるので、むしろ質問は大歓迎だぞ」


 久朗は全く気にしていないようだ。





「僕も久朗に頼っているけれども、少し安心したよ。――あと奏さん、こういう時はごめんなさいではなくて、ありがとうって言ったほうがいいんじゃないかな?」





 僕はそう提案する。


 彼女が謝っているのを見ていると、胸が締め付けられるような感覚を覚えるのだ。





「わかりました。なるべく謝らないように、努力します」


 奏さんが、少しだけ困ったような表情になりながら、僕たちに答えた。





 三人で勉強すると、一人で勉強しているよりもよっぽどはかどる。


 次の中間テストでは、もしかしたら今までよりも成績が上がるかもしれない……僕はそんな感覚になりながら、勉強を進めていった。

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