第2話 小型バグとの戦闘
バグの発生地点に向けて、走る僕たち。
スマートフォンのマップには、バグの発生地点が表示されるようになっている。
「どうやら、数体同時に発生したようだな」
「マップを見る限りだと、反応は7体みたいだよ」
「真ん中の一体はあまり動いていないようなので、動き回っている奴らから倒していこう」
久朗の作戦を、採用することにする。
まずは、近くにある反応のところに駆けつけることにした。
「いた、あそこだ!」
二人の目の前に、『コクーン』という防御装置に入った中年男性と、それを攻撃する二体の奇妙な生命体が飛び込んできた。
形状は「アリ」をポリゴンで作ったような形で、とげとげしい。
大きさは人間を横にしたくらいで、かなり威圧感がある。
これが小型のバグ、『アント』だ。
十数年くらい前から、この世界で確認されるようになった、人間の敵。
しかも厄介なことに通常兵器の効きが悪く、倒すためにはヒーローの力がないとどうにもならないという存在だ。
それが分かるまでに、軍隊などで挑んだ他国はかなりの被害を出しており、今ではそのことは常識となっている。
「早く動いている奴らを蹴散らして、発生の中心点に行くぞ!」
「分かった!」
僕――
『フェイズシフト!』
体が、光に覆われていく。
バグと戦うために人間が開発したマシン、『タクティカルフレーム』(通称TF)が装着される前触れだ。
タクティカルフレームとは、ヒーローを支援するために作られた、3メートルほどのパワードスーツである。
パンタグラフの原理をベースとし、人間の動きに完全に追随することを重視して作られたもので、緊急時においてアプリを通じて「呼び出す」ことができる。
原理としては『魔法』が使われているらしいのだが、詳しいことは高校の授業の過程で教わるので、今は後回し。
二人は、白いフォルムのタクティカルフレームに変化した。
準ヒーローの練習用の機体『アプレンティス』だ。
ちなみにその時に、腰に下げている刀も巨大化している。
これを『マテリアライズ』と呼び、そのためにヒーローは武器を携帯することを許されているのだ。
「結城は右、俺は左だ!」
「分かった!」
このタイプであれば、何度も倒したことがある。
もちろん、油断すれば死という結果が待っているわけではあるが、緊張するような相手ではない。
ギギッ!
前足を上げ、こちらに向けて突き出そうとするアント。
余裕をもって、持っている刀ではじき返す。
「せいっ!」
態勢が崩れたアントに向けて、思いっきり刀を叩き付ける。
それだけで、頭の部分に大きな亀裂が入る。
「これで終わりだ!」
そこから横に一薙ぎ。
あっさりと頭部が切り裂かれ、粒子になって消えていくアント。
横を見ると、久朗の方は少し苦戦しているようだ。
頭部にへこみはあるものの、まだ倒せていない。
「なにやっているの!?」
「いや、今終わるところだ」
腰の部分からナイフを取り出して、頭に叩き付ける久朗。
それでとどめになったようで、結城のアントと同じように、粒子になって消えていく。
「ふう。一時は焦った」
「何かあったのか?」
普段は苦戦するような相手ではないため、少しイラッとした声になる。
「いや、ホルスターに入れてあった銃の弾が、訓練用の時のままだったんだ」
「おい!」
久朗は、こういうところがある。
どことなく抜けているというか、おっちょこちょいというか……。
「ありがとう! 助かった!」
コクーンの中から、声が聞こえる。
僕たちは軽く手を振って、それに応えた。
「とにかく、今は先を急ごう!」
「だな!」
タクティカルフレームには、ARゴーグルという装置が搭載されている。
これによってスマートフォンのモニターと同じように、マップやダメージの度合いなどを表示することができるシステムになっている。
マップとバグの位置を確認し次に向かったのは、4体がまとまっているところだ。
「久朗はダーツで援護して。僕がメインになるから!」
「了解!」
まず、久朗が四体のアントに向けて、次々とダーツを放つ。
そのうち三つが的中し、耳障りな悲鳴を上げるアントたち。
「でえぃ!」
走る勢いをそのまま、アントに叩き付ける。
狙ったのは、一番ダメージの大きなアントだ。
ほとんど抵抗なく切り裂かれ、粒子に変わっていく。
「薙ぎ……払う!」
更に大きく、目の前のアントたちに攻撃を叩き付ける。
あっという間に、残りのアントたちも最初の一体の後を追うことになった。
「後は、あまり動いていない一体だけだ!」
「結城よ……動いていない一体だが、嫌な予感がする」
久朗が難しそうな声を出す。
こういう時の久朗のカンは、意外とバカにできない。
「だからと言って、ここで引き下がるわけにはいかないだろう?」
「そうだな」
僕たちは、中心部の光点に向けて走り出した。
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