死神と白昼夢
陸一 じゅん
序
空気に漂う雨の名残りが、夏という季節で煮詰められている夜でした。脂肪が溶けだした煮凝りのように、ねっとりと粘ついておりました。
煩わしい蛙の求愛の声が、四方から攻め立てます。
黒々と大きな山の裾に向かって、前方には、はてしなく
着物と、髪と、蛙の嬌声が、じつに煩わしくまとわりつき、みじめなこの有様に爪を立て、山影を縁取る明るい星々の群れすらも、ひとりきりの私をあざ笑っています。
そのありさま、そのすべてに、私はあの人の青ざめた
やがて、ぽつねんと立つお地蔵が見えたので、そのかたわらで足が止まりました。
真新しいお地蔵でございました。
穏やかなお顔立ちはまだ断面が尖り、大きさといい、眠る赤子のようにも見えました。
アア……。
苦い……苦い……とても苦い涙の味が喉からせり上がり、声が漏れ。
目を閉じた暗闇ですら、煮詰められたように粘ついた熱さをしており……。
罪の一文字を思い出したのです。
その罪とは、今この夜に、この身が独りきりでいることなのだ。とそう私は痛感し、どうぞ、この命をどなたさまかあの世へお連れください……などと、目をつむったのでございました。
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