第33話 プロになった
1月10日、
世間が成人式の話題でワイワイと賑わうなか、名古屋でひっそりと、ひとりのプロブロガー(でありプロ作家)が誕生した。
何千万もの月間ページビューを誇る人気ブロガー(でありラノベ作家)で、13万ものtwitterフォロワーを持つ男、「鬼面ライター」こと九門大地である(そう考えると、ひっそりと誕生、ではないか)。
契約書を取り交わした結果、1月10日のアクセス分から報酬の計算が始まることとなった。最初の入金は翌月末である。
1月4日の夜に立ち上げたtwitterアカウントは、翌朝までに6万人のフォロワーを獲得し、そこから約1週間で、前述のとおりその数字を13万にまで伸ばしていた。芸能人や有名スポーツ選手には敵わないが、これはもう普通の人ではない。さしあたって、自分の会社にこれ以上のフォロワーを持つ人間はひとりもいないだろう。
今まであまり自覚はなかったが、twitterのこの数字を見ると、これはちょっとした有名人のようなものかも、とさすがに思う。わりと少なくない人にとって、自分が興味の対象になっているということだ。
ここで、九門はブログ開設時に思い描いていたことを思い出した。
―― ラノベが支持を得たとして、そこからチラッと日記も読んでもらえたら、いずれ自分自身に興味を持つ読者が現れるかもしれない。そうすれば評論家みたいなこともできるかも。
そうそう、ラノベを書きながらそういうことにもチャレンジしたかったんだ。
そういえば昨日バスケットボールの天皇杯があったばかりじゃないか。
あの試合の感想でも書いてみようか。
そう、ちょっと評論家チックに。
カタカタカタカタ……。
九門はキーボードを叩いた。ラノベと違い、自分で物語を生み出す作業ではないので、思いのほか筆は走った。自分は新聞でもテレビでもない。出版社に勤めてはいるが、それはWEB上では明かしていない。いまはただの個人だ。何も気にせずドンドン書いてみた。
・〇〇選手の動きがよかった。優勝の立役者は彼だ
・開始早々の〇〇のプレーで試合の流れが決まった
・あまり目立たなかったが、〇〇のディフェンスもキーポイント
おおよそ、この手の記事ではよくあるタイプの内容だ。「あまり目立たなかったが~~」的なことを書き「自分はわりと目が肥えていますよ」のアピールも忘れない。そういうのをちょっとやってみたかったのだ。
そして、ズバッとこんなことも書いてみた。
・第4クォーターの〇〇選手のファウルが勝敗の分かれ目だった
・あれは不要なファウル。終盤に感情的になってしまった〇〇選手の完全なミス
九門は記事を発信し、そしてtwitterでも呟いてみた。
反応は予想以上だった。
九門の書いた記事は一気に拡散され、同記事のページビューはあれよあれよと10万を突破。twitterのリツイート数は瞬く間に1000を超え、いまも増え続けている。
バスケの記事でこんなことになるとは、想定外。
なんというか、自分の書いたものが世間の会話に影響を与えているような感じがして、九門の気分は高揚し始めた。
出版社の雑誌編集部で働く編集者である。メディアの人間として「影響力を持ちたい」という願望はいつも持っていた。仕事と別の場所ではあるが、それが少し叶ったような気がしたのだ。
というか、これはウチの雑誌より影響力があるんじゃないのか?
こんなリツイート数、ウチの雑誌のアカウントでもそうそう出るもんじゃないぞ?
自分が手にした「影響力」というパワーを、九門は自覚し始めた。
そして翌朝、
その影響力はさらに大きなものだということを九門は知る。
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