第14話 ディスられた

 ピピピピピ……。


 スマホのアラーム音で九門は目を覚ました。


 曲が流れても九門は目が覚めない。単純な電子音だと目が覚める。理由は分からない。ともあれ、ここ3年ほどアラームは「ピピピ」のやつだ。


 昨夜、店長の店を出たのが深夜2時過ぎ。家に着いたのが2時半頃で、即就寝。

いま8時ということは、5時間近くは寝た計算である。


 昨日は店長のところに行ってよかった。

 あのままソワソワしてたら、多分一睡もできなかっただろうな。


 九門は店長に感謝しつつ、


 あんなに遅くまでいて、店長には悪いことしちゃったな。

 もうランチの仕込みとかやってんのかな。

 店長、たぶんほとんど寝てないよな……。


 申し訳ないとも思いつつ。


 九門はノートPCを立ち上げた。いまなら落ち着いて管理画面を開ける。歯磨きをしながら、画面の数字を確認した。


 昨日の数字は、訪問者1万1000、ページビュー23万、コメント500件。そして0時からカウントが切り替わり、今日の数字は朝8時の時点で、訪問者4800、ページビュー13万、コメント70件。


 今までとは世界が随分変わっちゃったな。

 

 もう昨日のような恐怖感はなく、冷静に受け止めることが出来た。洗面台に歩き、歯磨き粉まみれの口をゆすいだ。


 九門の編集部は、朝10時始業。自宅からオフィスまでは、9:30発の電車で十分間に合う距離。この時間ならそこまで混んでおらず、シートに座れる日も少なくない。そして、今日も座れた。


 通勤の電車のなか、スマホで管理画面を見た。あの大量のコメントが気になったのだ。


「これ面白い!!」

「夏木選手のtwitterから来ました!!」

「全部読みました!また来ます!」


 以前読んだ幾つかのコメント。こんなにポジティブだと、さすがに気分もよくなる。電車で座れてコメントも良くていい朝だ、と上機嫌で画面をスクロールしていく。


「まだダンクせんのかーーい!!」

「こんなの俺ならソッコーで自慢するわ」

「ダンクを見せられた後のコーチの顔が見もの」


 想定通りのコメントが入っている。


 そう、すぐにダンクシュートをしない主人公。

 そこで読者はちょっとイライラするんだ。

 自分の計算通りだ。


 九門はニヤッと笑ってしまった。


 っと、イカン、イカン、いまは電車の中だ。


 が、5秒後、九門の表情は全く真逆なものに変わる。


「つまんねえ」

「こんなのを絶賛した夏木はア〇」

「期待外れとはまさにこのこと」


 こんなネガティブなコメントが幾つか入っていた。


「……。」


 コメントは、おおよそ9割以上が好意的なもの。批判的な内容は圧倒的に少ない。だが、合計で500を超えるコメント群である。割合的には数パーセントだが、それでも母数が母数だけに、ネガティブな内容は30件ほどになる。470回以上褒められたが、ディスられた30回のダメージがことのほか大きい。


 雑誌編集部で働いていれば、こういう意見をもらうことは、ままある。だが、雑誌の編集部は「チーム」だ。基本的に自分ひとりが被弾するわけではない(ひとりで被弾するのは編集長くらい)。


 一方、この「異世界バスケ」は、すべてが九門が書いたもの。全弾が九門に命中した。


 編集長に怒られた昨日以上に、九門は朝から疲れた。

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