第12話 見たこともない数字が出た

 台風一過、

 帰宅した九門はソファに寝転がっていた。


「あーー、疲れた…」


 誰もいない部屋で、ひとりボソッとつぶやく。


 ブログの管理画面を見てその数字に興奮し、仕事が手につかなくなった。簡単な誤字脱字が4か所もあった。久々に編集長にこっぴどく叱られた。どっと疲れた。


「ふぅ~」

 1度深呼吸をした九門は、ソファから立ち上がり、ノートPCを立ち上げ、ブログ管理画面を開いた。


 訪問者数は1万を突破していた。そして、ページビューは20万を超えていた。見たこともない数字である。これまでの7か月間の累計ページビュー数よりも、今日1日の数字のほうが圧倒的に多いのだ。


 つまり、今日1日で1万人が俺のラノベを読んだってことだよな。

 これ、どこまで伸びていくんだ?


 またヘンに怖くなってしまい、管理画面を閉じた。ノートPCを畳み、もう一度ソファに戻った。


 天井を眺めるカタチで寝転がり、目を瞑る。真っ暗な世界のなかで、数字が慌ただしく動いている。どうにもあの光景が脳裏から離れない。


 なんなんだろう、この異常な興奮状態は。

 全然眠れないや、これ。

 こんなんじゃ明日起きられねえよ。 


 あ、

 そういえば…!

 

 パチッと目を開いた。もうひとつ気になることがあることを思い出した。体を起こし、テーブルの上のスマホを手に取り、管理画面を開いた。そしてコメント欄を確認した。


 ドクン!!


 再び胸が高鳴り、汗が噴き出した。


 今日1日で500以上のコメントが書きこまれている。これまた見たこともない数字だ。これまで1日のコメント数が10を超えた日はなかった。それがいきなり500である。


「これ面白い!!」

「夏木選手のtwitterから来ました!!」

「全部読みました!また来ます!」


 最新10件ほどを読んで、管理画面を閉じた。


 興奮の度合いはさらに高まってしまった。再びあのラジオの時のソワソワ感が九門は襲いはじめる。


 スマホを弄る。気を紛らわせるために、5ちゃんまとめサイトを開き、適当に読んでみる。まったくアタマに入ってこない。ブラウザを閉じる。


 今度はたまにプレイしているパズルゲームを起動した。思うように指が動かない。アタマも同様に動かない。わずか5分で体力ゲージがゼロになった。もちろん延長のための課金などしない。いま課金してもドブに捨てて終わりなのは分かり切っている。


 あー、だめだ、何も手につかない。

 落ち着かない。


 いまの状況を自分のなかで処理しきれない。誰かに話さずにはいられない。


 ガバッ。


 九門は体を起こし、上着をとった。靴の踵をふんだまま玄関のドアを開けた。外に出た。蕎麦屋へ向かった。


 時計の針は午前0時を回ったところだった。

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