爆発
第10話 事件が起きた
秋のある日、
事件が起きた。
ついに大きな風がやってきた。いや、大きな風どころではない。それはもはや暴風、台風であった。
そのとき、九門は編集部で原稿をチェックしていた。
ライターが入れてくれた原稿を1文字1文字しっかり読みながら、必要な際はアカ(添削・校正の俗称)を入れる。編集者の基本作業。デジタル化(という表現すらもう古いが)が進むこの時代にあっても、九門は原稿チェックは紙とペンだった。一旦出力してから原稿を読む。そしてペンでアカを入れる。
こういうクセって抜けないよな。
でも紙の方が読みやすいんだよな。
やっぱり「アカ」は紙に赤ペンだよな。
あ、そういや、昨日の「イセバス」ちゃんと書けてたかな。
眠かったから読み直してなかったんだよな。
古きよきスタイルで原稿にアカを入れているうちに、ふと自分のラノベが気になり始めた。他人の原稿を読んでいたら、急に自分の原稿もチェックしたくなったのだ。あの日店長に褒められ、またちょっとヤル気になりつつある「異世界バスケ」の執筆活動。再開するとやっぱりチョクチョク気になり始める。
「ふぅ~~」とひと息つき、出力した原稿を机に置く。「ちょっと休憩。こういうのも大事」と自分を納得させ、ノートPCを起動し「雲の筆」の管理画面を開いた。
そして、事件に気付いた。
「え……!!?」
思わず声が出た。
突然の暴風警報。
管理画面に表示されている訪問者数の数字がいつもと全然違うのだ。いつも100なのが、200や300になった、とかいうレベルではない。いわゆる「ゼロの数が1個違う」の世界。
そこに表示されていたのは「8514」という数字だった。
ドクン……!!
胸の鼓動が急激に高鳴る。そして、ヘンな汗が出始める。
なにこれ?
8500? どういうことだ……!?
あのとき以来だった。中学生のころ、自分がラジオ番組に出したハガキが読まれたとき。
妙にソワソワし始める。なぜだかわからないが、PCを閉じて、九門は席を立った。
そして、トイレの個室に入った。今度はスマホで管理画面を開く。
「9030」
数字はさらに増えていた。
ゾクッ……!!
今度は鳥肌が立った。そしてさらに汗が噴き出した。
どうなっているんだ……?
何が起きたんだ……?
鼓動が止まらない。
「ふぅ~」
一旦深呼吸して落ち着こうと決めた。といって、すぐ落ち着けるものでもなかった。胸の鼓動は一向に止まない。気持ち悪い汗も一向に止まらない。
九門は考えた。
こういうことが起きた時って、どうしてたっけ。
編集部ではどうしてたっけ。
そうだ。
あれだ。
九門はtwitterを立ち上げた。初めてエゴサーチをしてみた。
暴風の発生原因が分かった。
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