カクレミノ

@araki

第1話

コップに入った一杯の水。そこに一滴のミルクを垂らしても、白く染まることはない。霧散して、間もなく消えてしまうだけだろう。

だから、私は重ねることにした。

髪は短く、明るい色に染めた。

化粧を覚え、ワンピースを好んで着るようにした。

口調を変えて、笑顔を作ることにした。

そうしてできた私が今、鏡の前に映っている。

ーーやっぱ似るもんだね。

思わず苦笑する。同じ日に生まれたというのは伊達ではなかったらしい。

外身は恐らく大丈夫。あとは立ち振舞いさえ気を付ければ問題ないだろう。

「……よし」

私は化粧室を離れ、目的地へ向かう。

やがて辿り着いた病院の一室、その扉を開けた。

彼は窓辺で景色を眺めている。

「陽、お見舞いに来たよ」

できる限り軽やかに、気負わずに。それが今の私のはずだ。

彼がこちらを向く。そして言った。

「おはよう、梓」

口にしたのは姉の名前。私は胸を撫で下ろした。

これなら、しばらくは傍にいられそうだ。

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