涼宮ハルヒと同じ名前なので 冗談で例の自己紹介をやったら ホントにSOS団をやることになったんだけど どうしよう?

神泉灯

1・自己紹介

 私の名前は涼宮ハルヒ。

 ラノベ作家、谷川流の出世作のライトノベル「涼宮ハルヒシリーズ」の主人公と同じ名前だ。

 そして私は当然、涼宮ハルヒが好きだ。

 私がハルヒのファンになったきっかけは、オタクの従兄からの薦めだった。

 私と同じ名前の主人公の女子高生の物語があると、従兄が持ってきたDVDを観たのだけど、すぐにハマッた。。

 そして小説を読み、映画も見た。

 TVゲームも従兄にやらせてもらった。

 そして数年が経過し、私は義務教育を終え、晴れて高校生となった。

 入学式を終え、そしてクラスでの自己紹介。

 私の自己紹介の台詞は決まっている。

 青春はちょっとイタい位がちょうどいいのよ。

 やるしかないでしょ。

「東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」



 静寂 到来。

「……」

「「「……」」」

「「「「「…………」」」」」

 みんな私に、

「何 言ってんだ こいつ?」

 という眼を向けていた。

 中にはカワイソーな人へと向ける眼もあった。

 明らかに元ネタを知っている人が誰もいなかった。

 というか、イタイ人に向ける視線が物理的なまでに痛かった。 

 やっちゃった?

 私はずしちゃった?!

 ……やばい……

 全身から嫌な汗が噴き出る。

 どうしよう?

 高校生活ずっとボッチ飯の自分の姿がありありと思い浮かぶ。

 涼宮ハルヒを話さないと。

 ちゃんと説明しないと!

 でないと青春ボッチ飯!!

「待って! みんな話を聞いて! 説明するから! お願い! せめて言い訳だけさせて!」



 パンパン!

 教壇にいる、痩せ気味の幸薄そうな四十歳の担任先生が、手を叩いて皆の注目を集めた。

「みんなー。先生が涼宮君の自己紹介の説明をしよう。

 涼宮ハルヒシリーズ。一作目、涼宮ハルヒの憂鬱から始まるライトノベルシリーズ。作者は谷川流。初版は2003年、角川スニーカー文庫から発刊。第八回スニーカー文庫大賞受賞作品。2005年にこのライトノベルがすごいにて作品部門第一位を獲得。2017年10月時点でシリーズ累計部数は2000万を突破。エキセントリックな女子高生、涼宮ハルヒが発足した学校非公式の部活、SOS団のメンバーを中心に物語が進む、ビミョーに非日常系学園ストーリー。物語は高校に進学した女子高生、涼宮ハルヒが自己紹介にこう発言したことから始まる。東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上。こんな突飛な自己紹介をした彼女は美少女だが、その性格、言動は変人そのもので、クラスの中で孤立していたんだ。しかし、そんなハルヒに好奇心で話しかけた、ただの人間である、キョンとだけは会話をするようになってね。ゴールデンウィークも過ぎたある日、校内に自分が楽しめる部活がないことを嘆いていたハルヒは、キョンの発言をきっかけに自分で新しい部活を作ることを思いつくんだ。キョンを引き連れて文芸部部室を占領し、また、唯一の文芸部員であった長門有希を巻き込み、メイド兼マスコットとして上級生の朝比奈みくるを任意同行と称し拉致。さらに5月という中途半端な時期に転校してきたという理由で古泉一樹、ハルヒ曰く謎の転校生を加入させ、宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶことを目的とした新クラブ、SOS団を発足させる。ところが団員として集まったキョン以外の3人は、それぞれ本物の宇宙人、未来人、超能力者であり、キョンはSOS団の結成と前後して、3人からそれぞれ正体を打ち明けられる。彼らが言うには、ありふれた日常に退屈し非日常を渇望しているハルヒこそ、彼らにとって解析不可能な超常現象を引き起こす原因となっている未知の存在なんだけど、ハルヒ本人にはその自覚がなく、彼らはそのことを彼女自身に悟られずに観察するため派遣されてきたのだという。当初は虚偽申告だと思っていたキョンも、間もなく実際に超常現象に巻き込まれて命の危険に晒されたことにより、彼らの言葉を信じざるを得なくなった。そしてキョンとSOS団の団員たちは、非日常を待ち望んでいるハルヒ本人に事実を悟られないように注意しつつ、ハルヒ自身が無自覚な発生源となっている超常現象を秘密裏に解決したり、宇宙人や未来人や超能力者たちの勢力の思惑に振り回されたり、ハルヒが気紛れで引き起こしたり持ち込んだりする日常的なトラブルに付き合ったりする日々を過ごすことになるんだ。

 出典はウィキペディアから。

 つまり涼宮君は、ライトノベル涼宮ハルヒの憂鬱の台詞を言ったんだよ」



 クラスは静まりかえっていた。

 ……

「……」

「「「……」」」

「「「「「…………」」」」」

 なんだろう。

 私は自分でも自分の顔に一切の表情がなくなっているのを自覚していた。

 そして私はその表情のまま先生に、

「先生、涼宮ハルヒのファンなんですか?」

「涼宮ハルヒは先生の青春だった」

 やりきった感 満載の表情の先生。

「……そうですか……」

 私って、みんなからはああいう風に見えるんだ。

 涼宮ハルヒのファン、やめよっかな……

 しかし先生はそのまま続けて、

「文芸部の顧問は僕なんだ。早速 校長と掛け合ってSOS団発足の認可をもらってくる」

「え? いえ、あの、先生 ちょっと待ってください」

 私、自己紹介で言ってみたかっただけで、SOS団を作るとまで言ってません。

 その説明しようとしたけど、先生はそれを遮って、

「いいからいいから、先生に任せて。あと涼宮君の前にいる君」

 先生は私の前の席の男子生徒に話しかける。

「はい? 俺ですか?」

「そう、君だ。君は名前も似ているし、あだ名はキョンに決定だ。

 じゃあ、そういうことで 先生は早速、校長室へ行ってくる。

 そうそう、言い忘れるところだった。涼宮君、文芸部室は旧校舎の二階、階段を上がって二つ目の教室だ。

 それじゃ、先生は校長先生に掛け合ってくるから。まかせなさい。必ずSOS団を発足させてみせるよ。それじゃ」

 といって先生は教室を出て行ってしまった。



 ……どうしよう。

 先生がものすごくやる気になっている。



 その後、私はクラスメイトに囲まれた。

「なぁんだ。小説の台詞だったんだ」

「主人公と同じ名前だから言ってみたかったんだね」

「びっくりしたよ。いったいどんな電波人間かと思った」

 みんなアレが冗談だと理解してくれた。

 よかった。

 アレを言った時の皆の視線。

 正直、高校生活ずっとボッチ飯になるのを覚悟した。

 ちょっとイタい青春じゃなくて、マジで痛い青春になると、本気で怖かった。

 クラスメイトの女子が、

「でもさー、先生 どうするの? 完全にやる気になってたよ」

「あの目の輝き。涼宮さんにものすごい期待してたわ」

「過ぎ去った青春時代を取り戻す気 満々ね」

 私は皆に、

「まあ、先生にはあとでなんとか言ってごまかすよ。それに校長先生も、SOS団なんて意味不明の部活の発足に認可なんて出さないだろうし」

 前の席の男子、先生があだ名をキョンと命名した、八坂やさかきょうくんが私に、

「涼宮さん、そのSOS団っての作らないのか? 俺、ちょっと期待したんだけどな。楽しい高校生活になりそうで」

 そして、ニコッと素敵な笑顔を私に向けた。

 その笑顔に私は胸がキュンとなった。

 だって八坂くん、すっごい美少年なんだもん。

 かっこいいイケメンっていうより、中性的で爽やかな感じの美少年で、キョンとは全然違うタイプ。

 私、リアルじゃこういうのがタイプみたい。

「え、えっと、八坂くんがそういうならSOS団を作ってもいいかなー、なんて」

 皆はそれを聞くと、一斉に笑い出した。

「アハハハー、涼宮さん、八坂くんに気があるんだー」

 私はうろたえた。

「え? いや、その、あの」

 みんなの笑顔は微笑ましい者を見る笑顔だ。

 八坂くんも笑っている。

 その笑顔が本当に素敵で、私の胸の奥がドキドキしている。

 楽しい高校生活が始まる予感がした。



 そんなことを考えていると、先生が満面の笑顔で教室に戻ってきた。

「涼宮君。校長から認可が下りた。文芸部は今日からSOS団となったよ。さあ これで好きなだけ不思議探索ができる。いや、その前に先ずメンバーを揃えないとね。大丈夫、先生に心当たりがあるから。今からでも声をかけてくるよ」

 私はそんな先生に笑顔で、

「もー、先生ったら、ホントに認可取ってきたんですかー? 自己紹介のアレ、冗談に決まってるじゃないですかー。本気にしないでくださいよー」

「……」

 先生の顔から表情がストンと落ちるように消えた。

 え? なに? どうしたの?

「……冗談?」

「冗談です」

「……冗談だったんだ」

「あたりまえじゃないですか」

「……」

 先生はしばらく沈黙していたが、

「ううぅ……ううぅうううぅ……」

 滂沱の如く涙を流し始めた。

「うわ! なんですか いきなり泣き出して!? 先生 そんなに過ぎ去った青春を取り戻したかったんですか?!」

「うううぅ……

 そうだよね。本気でSOS団を作ろうだなんてことするイタい女子高生がリアルに存在するわけないよね。

 良いんだ。先生、ちょっと夢を見てたみたいだ。どこかになくした青春の夢を生徒から見せてもらおうだなんて、教師がそんなこと考えちゃいけなかったんだ。

 ……ううぅ……ふぐぅうううううぅ……」

 マジ泣きだ。

 本気で泣くと書いてマジ泣きだ。

 鬱陶しい。

 マジ泣きってこんなにも鬱陶しいの。

「わかりました! 先生 わかりましたから! やります! 私 SOS団をやりますから 泣かないでください!」

 先生はとたん満面の笑顔となった。

「涼宮君、本当かい? SOS団の団長をやってくれるのかい?」

「やってやるから鼻水をふけ!」



 こうして、私はSOS団の団長をやることになった。

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