第82話 1円を笑う者は1円に泣く

 1日の終わりになるといつも、考えるともなく考えてしまう。


 円熟の技と呼ばれ調子に乗って、自分でもすっかりその気になっている。


 をいをい、と仲間が突っ込みを入れて来るのが目に浮かぶようだ。


 笑わば笑え、と開き直ることもできるが、本当はそれは違うことを知っている。


 うねうねと曲がりくねった、道とも呼べぬような道を切り開き、自分は歩いて来たろうか。


 者どもおれに続け、死ぬ気でついて来いと、言える何かを持っているだろうか。


 はぐらかし、皮肉めかして、責任を負うことなく、のらりくらりと生きて来たのではないか。


 1位になることをめざすような生き方を鼻先でせせら笑って生きて来たのでは。


 円窓から見える景色は完璧な形で切り取られた宇宙の一部にして全宇宙そのものに他ならない。


 にわかにおれは思い知らされる、宇宙はどんな細部も手抜きなく宇宙なのだと。


 泣いているのは誰だ? おれの心の中で声をかみ殺しすすり泣いているのは。


 くやしかったら、と円窓の中の宇宙が言う、細部でうならせてみせろ、と。


(「1円を笑う者は1円に泣く」ordered by さんぽ-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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