オーバーワーク・ディフェンサーズ

キャラ&シイ

序章・行き過ぎた護衛任務につき....。

さて、どうしますかねぇ?)


チロルは後方からの追撃者達の動きを見守りつつ、小さく溜め息をつきながら対処を模索する。


諜報活動を担当しているアズキの報告によると追撃部隊の人数はおよそ三千。


しかも戦車やら騎馬やらが混じっている事から考えても、熟練者特有の空気がヒシヒシと伝わってきた。


だが、確かにそれらの大軍は間違いなく脅威と言えるが、実の所それ自体は然程、重大な問題点という訳ではない。


では、何が問題なのかと言えばーー。


「ククク、今日もたっぷりと切り刻めそうだ....心踊るなぁ、キョロ副隊長殿?」


「いや、俺は不安で心が押し潰されそうなんだけど?

君と一緒にしないでくれるかなヒィロくん?」


鋭い刃のような笑みを浮かべ赤黒いこんばっナイフを嬉しそうに見詰めながら、クレイジー高揚感に対する共感を、ヒィロに求められチロル顔をしかめながら言う。


だが、その直後、ある者より更なる一言が発せられた。


その一言を放った者とは、どす黒い二本の太刀を携えた大男、ジンセイである。


ジンセイは和風の太刀に不似合いな西洋風の外套と革鎧を、纏うと姿で真顔のまま言う。


「うむ、キョロ殿の言う通りだな、何と野蛮な物言いよ。

これだから、イカれ軍人はーー。」


「何だと!?

ならば貴様はどう違うというのだ、この肉ダルマが!!」


ジンセイの一言に苛立ちヒィロが、激昂する。


しかし、ジンセイは余裕の笑みを浮かべながら言い放った。


「仇なす愚かしき者共を斬り飛ばし、血と肉と骨の山を築いてみせようぞ!

どうだ分かったかイカれポンチよ、これが品格というものだ!」


(いやいやいや、それを品格とは言わないよ、ジンセイくん!?

むしろヒィロのより悪化してるからね!)


チロルは青ざめた顔でジンセイの方を凝視する。


だが、そんな中、次なる狂人が名乗りを上げた。


「ふふっ、脳筋野郎が考えそうな事だぜ。

よーく、考えてみろよ、その言葉の何処に品性があるっていうんだ?」


巨大な刃を有する薙刀を携えた危険ギラギラした眼差しのイケメンが、不敵に笑う。


その男の名はチクタク。


その別名を血塗れのチクタクと言い見た目以上に危険な薙刀使いである。


だが、ジンセイはそんな危険な男チクタクの一言に、物怖じする事なく言い放つ。


「ほう‥‥‥長物使い如きが随分、大口を叩くではないか?

ならば聞いてやろう、貴様の戯言をな。」


「ふふん、ならば、その思考力不足の脳味噌にしっかりと詰め込んでおけ、教えてやろう品性のなんたるかお!

雄穴惨殺、牝穴挿入あぁ‥‥穴よろし。

どうよ、これぞ風流、風情ある品性の極みよ!」


当然言うまでもなく、その場の全員が沈黙する。


(ちょ‥‥‥まさかの色ボケ発言!?)


誰もが何も言えずに、黙り込む。


ヒィロなどは、チクタクを憐れみを含む瞳で静かに見詰めている始末だ。


だが、そんな状況にあって、何とも言えぬ空気を打ち破らんと、勇者たる者が口を開く。


「ふっ......それを風情や品性だと言うのか?

世迷い言も大概にして欲しいものだな?」


そう切り出したのは、黒衣の美少女....もとい美少年ピラフである。


だが当然ながら、その一言はチクタクの癇に障ることとなった。


故にチクタクは怒りに満ちた眼で、ピラフを睨みながら静かに告げる。


「ほう? 

ならば貴様如き男女には理解できるというのだな、風情や品性というものが!?」


「至極当然の事を聞くね、発情期の獣チクタクくん?

その色ボケた瞳をよーく見開いてみたまえ。

あの後方の追ってには、どう見ても女性の姿は皆無だよ?」


「な....なんだとバ、バカな!?

あの人数だぞ、全員が男性だと何故言いきれる!?」


「ふふん、理由は簡単さ。

するんだよ男特有のフェロモン臭がね?」


(ちょっ....!?

男特有のフェロモンって汗臭い異臭しか思い付かないんだけど!?!)


チロルは頬をひきつらせながら、視線をチクタクの方へと移す。


しかし、チクタクはそんな強烈な一言に臆する事なく、ピラフを問い詰める。


「ふん、どうせ妄想を膨らませ過ぎて、適当な事を言っているんだろ!?」


だがしかし、ピラフはチクタクからの手痛い一言に動じる事なく言う。


「ふふん、何を言うかと思えば。

こんな汗臭くて、ヌメッとした嗅ぐわしき男性フェロモンを、嗅ぎ間違う筈ある訳ないじゃん?」


「汗臭くて....ヌメッとしたフェロモン臭だと....?」


ピラフの嫌な想像しか印象に残らない独特な表現力に、流石のチクタクも顔をしかめる。


だが、そんな発言が発せられた直後、ピラフはチクタクの反応など御構い無しに話出す。


「うん、そうなのだよ、ねっとりとした男臭いフェロモン臭が実に堪らない。

あの香りを嗅ぐとついつい皆、男の娘にしたくなっちゃうんだよね?


ソウサ....ダンコンヲ切リ落トシテ皆....皆....男ノ娘ニシテヤラナキャネ?

ウヒヒ....ウヒヒヒヒヒヒィ......。」


双眸(そうぼう)を光らせながら、興奮した口調で不気味に笑うピラフ。


(くっ....こいつ間違いなく壊れてやがる!?)


そんな近寄りがたい異常性を垣間見たチクタクとチロル、そしてその他全員は何とも言い難い強張った面持ちで、笑い続けるピラフを呆然と見詰める。


そして、流石のチクタクも緊張感を纏いし表情を浮かべながら、ピラフに向け静かな口調で告げた。


「うん、まぁあれだ....何か俺が悪かったわ、お前はお前の正しさを貫いてくれ....。

まぁ、それはそれとしてーー。」


チクタクが続く言葉を言いかけた直後、チロルがその瞬間を逃すまいと、即座にその隙間へと割って入る。


「あー、分かってるとは思うけど間違っても全滅とかさせないように。

俺達の役目は殲滅ではなく、護衛だからね。」


「何故だ?

殲滅させた方が後々、面倒にならないと思うのだが?」


ジンセイはチロルの言葉に対し、不思議そうに首を傾げた。


「いやいやいや、かえって面倒になるから!

たかだか数人に三千人規模の正規軍が、全滅させられたら、帝国軍の面目丸潰れでしょ!?

それこそ、無駄に火種を増やすだけだからね!!」


「ふむ....成る程。

つまり、火種にならねば問題ないということですか?」


チロルの言葉に、ヒィロは深く頷く。


そして、チクタクが続けざまに言う。


「ふっ....つまり反撃したくなるくらい完膚なきまでに潰してしまえば良いってことか?」


「確かにそれが道理であろうな。」


チクタクの言葉にジンセイは、納得しながら頷く。


しかしーー


「ちょっと待て、君達ちゃんと話し聞いてた!?

お願いだから殲滅前提で考えるの止めて護衛任務に集中してくれないか?」


チロルは四人の部下達に向けて、必死に訴えかける。


だが‥‥。


「うふふ、つまり証人が居なければ万事丸く収まるって事だよね?

そう、一人も残さず全殺しにすれば証人なんていなくなるしね?」


その直後、ピラフが口元から零れ落ちる涎を拭いながら、冷た笑みを浮かべた。


「えっ‥‥‥?

証人を一人も残さず全殺しって‥‥?」


チロルは悪い予感に思わず身を振るわせる。


(ちょっと待った‥‥!

証人を一人も残さず全殺しってことは、まさか護衛対象であるラバル・ケルド少尉と、その一行も含んでいるのか?)


チロルの脳裏にふと、そんな最悪の可能性が過った。


それは普通ならば、あり得ない事‥‥。


いや、あってはならない事である。


しかしーー。


「ふむ、やはり実力を示してこその言葉よな。

ならば誰が一番多くキル出来るかで正しさを競わねばなるまいな?」


「ちょっ、何言ってくれちゃっているのかなヒィロくん!?」


「ふふふ、そうだのう。

やはり能力社会だからな言葉より実力行使こそ、この場には相応しいな?」


「なっ!

何を煽ってくれちゃってるのジンセイさん!?」


チロルは慌てて、二人に対して突っ込みを入れた。


だが最早、この負の連鎖を止める術は既になく‥‥。


「ふっ、そいつは正論だな。

たまにはマトモな事を言うじゃないか、お二人さん?

そうともバレなきゃ犯罪にはならない、そしてバレなきゃ任務に失敗はない!」


「いやいやいや、何を言ってるか良く分からないけど、バレなくてもラバル・ケルド少尉に何かあったら間違いなく任務失敗だからね、チクタクくーん?」


「くくく、ダイジョウブ、ダイジョウブ、奴ラニ手ヲクダサセレバ、僕タチノ仕業ダトハ分カラナイカラ、完全犯罪成立ですからね?」


(ちょっと待てや!?

こいつまさかラバル・ケルド少尉を事故に見せかけて殺そうとしているのか??)


明らかに悪い予感しかしない。


チロルはこの状況に不味いものを感じ、即座に四人へと制止する。


「ちょいと待ちたまえ君達!

君達は護衛の任務をーーっておい!?」


しかし、チロルの言葉は既に彼らの耳には届いてはいなかった。


「よっしゃー、俺が一番乗りだぜ!」


「抜け駆けはさせぬぞ、ヒィロよ!

一番乗りの誉れはこのジンセイにこそ相応しいわ!」


「ふざけんな!

ファーストアタックは、このチクタク様にしか似合わねぇ、テメェら三下は二番目に甘んじてやがれ!!」


「ふっ、醜いな君たちは‥‥全く品性の欠片もない。

君たちのような、男の娘になる資格すらなきものは、僕の後ろで華麗なる技の数々を眺めているがいい!」


そしてーー。


「待てって!?

ちょっと待てや、お前らぁぁぁぁぁぁ!!」


血飛沫が戦場を赤く染め上げる中、チロルの声が虚しく響き渡った。

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