けだものどものダイアログ
古新野 ま~ち
第1話
「あぁあー、働かずにたらふく食べて、その上で金がほしいなぁ」
幹人がテレビにうつる芸能人のセレブ妻に中指を立てながら呟いた。女は膝までしかないスカートだった。同居人の倫太郎は煙をはいて生あくびをしながらこたえた。
「ふぁたらかざるもの食うべからずやで」
「ふぁたらきたくない」
「真似すんなや」
「働かざるもの食うべからずとか格言めいたことを言うなら、しっかり万人に伝わる言い方をしろよ。働かざるもの飢えて死ねって」
「そこまで言ってないで」
「言ったも同然なんだよ」
一番高いのは何ですか? という質問に女は結婚指輪ですと答えた。セレブ妻の左手の薬指がお笑い芸人のリポーターの誘導により画面いっぱいにうつった。ええっと、と女はもったいぶったあげく、ピヨピヨピヨと音のモザイクとともに値段を言ったようだ。すると男の芸人は大袈裟に驚いた。
「茶番だねぇ」
「そだな」と倫太郎が画面に向かって、セレブ妻の顔が大写しになったタイミングで、煙をはいた。幹人はもう一度、中指を立てた。
「ヒアルロン酸注入顔だ。ミセスデトックス、体内から老廃物を流して美のために産廃物を身体に取り込む妖怪水素水だ」倫太郎はケラケラとして酒を飲んだ。
「金持ちが何してようと勝手だろ」
「その辺のさ、まぁ女子大生とか見てみろよ。あんなに顔がテカってないやん」
幹人はこのセレブ妻が中指を立てられても仕方がない存在だが、どうも、倫太郎の悪し様な罵りには苛立った。働かざるもの食うべからずが、それほど、自分の心に響いたらしい。ふぅんとだけ答えた。すると倫太郎は気をよくして滔々とセレブ妻の悪口を連ねていった。
「今は廃れたかな。美魔女ブームってあったじゃん、あれの生き残りかな」
「魔女裁判の生き残りか?」
「裁判? そんなの無かっただろ?」
「公衆の面前で、顔と人生をさらして人に裁定されるんだ。似たようなもんだろ」
「それはさ」倫太郎は水滴をたらすハイボール缶をテーブルにおいて新しい煙草に火をつけた。「あの人たちがそれで金を稼いだんだよ。名誉の換わりに金を稼いだんだ」
「名誉ねぇ」幹人はノースリーブのため露出しているセレブ妻の二の腕を見て自分の腕に触れた。俺の方が痩せているなと内心でほくそ笑んだ。
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