第37話 無視されたサイン
「お前に興味が出てきたよ」
目の間の少女は依然、怪訝そうにこちらを見ていた。
「アンテールがあの後どうなったか知ってるようだな」
「あ~そっかあ★ あいつのことが知りたいんだ?」
小悪魔的な笑みが再び戻ってくる。
「どうなったか知りたいー?」
「参考程度に聞いておいてやるよ」
「だ~め! ざこには教えられないもんねー★」
頭の痛みが再発してきた。さっさと目の前の
「ジャリヤ。お前、さっきこいつの対処法はなんだっていってた?」
「対処法……ってほどじゃないですよ。冗談ですし、分からせなんて」
「それだ」
俺の言葉の意図がよく分からないジャリヤは二の句が継げないでいた。
「おい、お前、殺そうと思うんなら出来るはずなのに攻撃してこないとはどういうことだ?」
「あなた達がざぁこだから、遊んであげようと――」
「お前の目的は“
少女の表情に少しばかり焦りが加わる。一方、ジャリヤを含めた四人は未だに俺の意図が汲めずに居た。俺は少女の方へと一歩ずつ近づいていく。
「お前の
「っ……!」
「コピー性能自体、剣がすぐ消えた時点で低いことが分かっている。お前は自分の全体的なステータスの低さを隠すためにはったりかますしかなかったってことだ」
少女はそれまで硬直していたが、自分の置かれた状況に気づいたのか後ずさりを始めた。しかし、逃さない。少女の後ろには
「アンテールが今どうなってんのか、教えたら無事に帰してやっても構わないんだが」
「絶対に分からせさせられてやるもん!!」
「それは無理だな、あいにくガキはタイプじゃないもんでな」
「ぐぅ……」
「どうしますか、勇者様」
「これ以上余計なことを言うようなら手足の一、二本くらい切断してしまえ。いくらコピーできるとはいえ、血の海で出血にもがき苦しみながら反撃なんて出来ないだろう。分かってるだろうが死にかけたら魔法で回復させてループだ。苦しむのは短いほうが良いだろう? 俺たちもそっちのほうが都合が良い」
少女の顔は完全に青ざめていた。後ろに立つシャーロットの顔色も悪いように見えるのは気の所為だろうか。少女は手を胸の前でわたわたさせながら言葉を探すように唇を動かした。
「話します!! 話すから痛いのはやめて!!!!」
「何を話すんだ」
「アンテールのことだよ!」
「奴は今何処で何をしているんだ」
「中央市街か、どっかをうろつい――ごヘッ!?」
腹に一発、打撃を加える。ひゅうと人の呼吸とは思えない空気の音が少女の口から漏れる。ふらふらとしながら、少女はその場に両手をついて倒れた。
「適当な事言うんじゃねえ……! あいつは自分のロマンやノスタルジーのために弱い者虐めに走った最低の人間だぞ、そんな奴を庇って恥ずかしくないのか」
「けほっけほっ……知らないよ……あいつの事情なんて……」
「仕方ねえ、性根まで腐ってんなら肩ぶった切って頭ン中の血ィ引っこ抜いてクレンジングしてやるよ!」
「ひッ……」
少女は引きつった顔を見せる。同時に剣を下ろすように指示する
「……何してんだ」
「やりすぎですわ、勇者様」
「あ?」
「勇者たるもの、正々堂々と戦うべきなんです」
「何だとてめえ……?」
シャーロットに意識を向けているといつの間に少女はいなくなっていた。大方逃げおおせたのだろう。もはや周りを見回しても、その姿は見えなかった。逃げられたことがはっきりと分かると同時にふつふつと怒りが湧いてきた。
「勇者はいたいけな少女を脅迫したり、拷問するべきじゃないんです」
「あいつがいたいけだと? てめえ、異世界側から勝手に呼び出しておいて説教とは良いご身分だな!」
「勝手に呼ばれたからと言って、その世界で横暴を為してもいいとでも言うんですか? それこそ最悪ですよ」
「何ィ?」
「勇者で想像していたものとあなたは全く違ってました。もはや勇者とも呼べない。今のあなたはチンピラ以下です」
「おい、俺の戦略は間違ってなかっただろう? あのままやれば錆鼠やら同盟の官吏への糸口だって掴めてたはずだ。なあ? そうだろう!?」
振り返って三人に問う。しかし、三人とも言いづらそうな顔で沈黙していた。
「ちっ、意味わかんねえ」
「私、このパーティーから降りさせてもらいますから」
「ああ‼ 勝手にしろ! 二度と戻ってくるな」
「言われなくとも」
シャーロットは一人で路地の出口の方へと歩き始めた。頭の中が怒りで混乱して投げかける声が見つからない。浮かんでくるのは非生産的な罵倒だけだ。背後を見るとジャリヤとアルセンは俺のことを直視してくれなかった。
最初に口を開いたのはアルセンからだった。
「私、アンテールを見つけるのは一人でやるわ」
「おい……お前もか!」
問いかけに彼女は答えなかった。アルセンは静かにシャーロットと別方向に歩みを進めていった。残ったのはヘイスベルトとジャリヤだけだ。二人共、白けたような顔でこちらを見つめていた。
「こんな時に仲間割れなんて何考えてんだ、馬鹿」
誰に言うでもないつぶやきは路地の暗がりに吸い込まれていった。
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