小説のような日記
愛零
第1話 今夜思い付いた戯言は暗闇の話だった
私は今何も抱えているわけではない。これは抱えているのではない。背負っているのでもない。押し潰されそうになっているのだ。
私の上に今被さっているこの大きな岩は、少しずつ私を押し潰していく。私はたまに自分の前に出した片方の足になんとか背筋を伸ばそうと姿勢を整えようとたまに力を籠めるが、それは叶わず少し背の上の岩を削るだけで終わる。そしてまた私への重みの浸食が始まる。
この岩が私の上から退いて落ち、私が背筋を伸ばすには、まだまだ時間と私自身の体力と知力と経験と希望と未来と笑顔と愛らしさと憧れが。
足りないようであった。
どれだけ足りないのかというと、私が生まれるずっと前から今までの私が作り上げられていく時間と神か運命かの何者かの労力の積み重ねをもう一度しても足りるかどうかという年月の間積み重なるほどのようである。
この大きくてとても堅く砕けば自分ごと道連れにされそうな暗い色の岩は、少しずつ大きく育ち私の背を前に進めないほどに曲げていった。立っていることが困難になってきた私にもう成す術は殆どなく、時折思い出したように体を痙攣させるだけである。そこには小さな光が見えていた私の最後の足掻きがあったのだ。確か。だがそれが、数年を費やし長短あれど何度も何度も同じように細い光の糸に縋らせ私に培わせるものは、他でもない更なる絶望である。つまりは回数を重ねる度、年月を経る程、その絶望を濃くしていくのである。少しでもこの状態の体躯を動かせる気力があることを誉めてほしいものだ。笑ってくれていい、後に残ったのはやっぱり駄目だったじゃないか、私にはもう無理だという確信だけである。
とうとう立ち上がれなくなる私はきっとその身を少しずつ壊していく。岩の重みによって少しずつひびが入っていく。まるで繊細に作られたよくできたガラス細工のように飛び散ることなく静かにそこで息をひそめたままぱらぱらと崩れ落ちていく。もうそうであってしまえとさえ思ってしまうほどに麻痺しているのか苦しいのかも自分でわからない。
私は岩と一緒に壊れていく。誰も修復はしてくれない。今更誰かが気づいたところで、私はもう地中の奥深く光も届かないところにいて、助けようにも自分も落ちるしかない。それをわかっている私は助けを呼ぶほどの元気も傲慢さも持ち合わせてはいないのである。私を全て砕き割る岩と一緒に、私は一人静かに壊れていくのである。
もうその時、涙しないのではないかと私は思っている。
この駄文を読み涙してしまうような共感を得てしまうような人が、もしいたなら、それは私にとってごく幸運だと見える。そのような人がここに辿り着くこと、その分岐点を幾つも追ってみる限り可能性はごく僅かであることが見て取れるだろう。だがその人がここに記された内容によってほんの小さな救いを得たなら、それは私にとっての奇跡である。
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