ちるはな 2

まぐ

第1話

 みつばちゃんの髪の毛が好きだ。色素が薄くて、先に行くほど細くなって、ぱさぱさして、柔らかくなる髪。睫毛も好きだ。細くまっすぐ伸びて、毛先で少しだけ上にあがる。鼻が好きだ。小鼻ははっきりしていなくて、でも鼻筋が通っていて、ちょん、と乗っかるような白い鼻。くちびるが好きだ。上唇も下唇も、同じ太さですぅっと伸びて、端できゅっと結ばれる。鎖骨が好きだ。少し汗ばんでしっとりして、溝のところに深い影を落としている。


「…なに見てるの~?」

「ぅあっ!えっと……」

突然話しかけられるとさすがに戸惑う。しかも、下から見上げてくるいたずらっぽい目に、むにゅっと押し上げられたあの口。…私が見つめてたこと、ばれてるな。あぁもう、そんな顔も可愛い。


「みつばー!」

あ、みつばちゃんの幼馴染み。

「はーい!」

みつばちゃんは、律儀にちょっと待っててね、と私に声をかけ、幼馴染みのもとへ小走りで向かった。


 …みつばちゃんは普通の女の子だ。やっぱり恋愛をするなら男の子なんだろうか。そんなことを考えると、急にあの幼馴染みが憎くなってきた。教室の扉の影の、見えるか見えないかのところでみつばちゃんと話している。…みつばって呼んでた。呼び捨てしてた。いいなぁ。私なんかあだ名ですら呼んでないのに。みつばって呼びたい。呼んだら、みつばちゃんはどんな顔をするだろう?


「おまたせ!」

みつばちゃんは帰ってくるときも小走りだった。歩幅がちいさくて、ちょこちょこ歩いているつもりなのかも知れないが、走っているように見える。

「みつば!」

距離のわりに大きな声で、みつばちゃんを呼んだ。

「はーい」

端的に言えば、反応は何の面白味もなかった。悲しいくらいだ。本当は、私が「みつば」って呼びたいんじゃなくて、みつばちゃんに「もえ」って呼んでほしいだけなんだ。何とかして会話をそこまで持っていこうとしたのに、結果はあまりにもあっけなかった。

「どうしたのー?」

あ、いけない。呼んだくせになんにも話してなかった。そうだ、こういうときは…

「呼んでみただけ!」

口角をあげ、目を細めて涙袋をつくる。えくぼは沈みすぎないように力を抜いて。最後にちょっと首をかしげて…。

「も~!」

みつばちゃんは笑った。きゃは、という彼女の笑いかたが、空虚になった私の心に沁みた。


私は器用なことで、今までずっと得ばかりしてきた。これからもきっとそうなんだろう。でも…、わたしはちょっと、そう、ほんのちょっとだけ、器用すぎた。

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