悪魔との口論の末(7月)

…さて。あとは四季が目覚めるのを待つか、先生が来るのを待つか………ん?



『聞こえますか…?聞こえますか…?』


…え?……気のせい、だよな?


『おーい!聞こえるー?』


誰だ!?…振り返っても、声の主は見つからない。


『ねえってばー、そ・こ・の!男子ー!』

「…誰?」

『あ!やーっと反応してくれた!やったー!』

「疲れてんのかな…」

『そんなことないよー!現実だってば!』

「!?」

『いいね!その反応!とっても子供っぽくて!』

「………」

『ちょっと!無視しないでよ!』

「………」




俺はこの正体不明の声に半ば混乱していた。しかし、次の一言でもっと混乱することになる。


『じゃあさ、単刀直入に言うけど、四季ちゃんよりスマホやパソコンの中の彼女の方が好きなんでしょ?』

「っ!お前は誰だ!」

『さては、図星なんでしょ~?ま、四季ちゃんは君のこと好きでも嫌いでもないから』


こいつ…四季とどんな関係性があるかはわからないけど、それにしたってさっきから調子に乗りすぎだ。


「そんなことない!っつーか、誰なんだよ!」

そういうと、謎の声はふふふと不気味に笑いながら

『僕の名前はジャック・オ・レンタン!今は契約してないから、力が不安定だけど、四季ちゃんの身に宿ったれっきとした悪魔だよ?よろしくね★』


…は?悪魔?それに契約だって?


「何が悪魔だ!ふざけるなよ!」

『ふざけてないよ!僕は至って真面目だよ?』

「どこが真面目なんだよ!ったく、調子狂うんだけど…」


さっきからこの声に翻弄されっぱなしだ。くそっ。


『じゃあ、僕から質問~★君はどうして四季ちゃんを心配するのかな?』


!?こいつ…。


「ばっ…、それは…」

『え~?答えられないの~?もしかしてぇ、やましいことがあるんじゃないの~?』

「うっせえ!お前にそんなこと言われる筋合いはねーから!」


俺の逆鱗に触れながら悪魔はうるさく喋りだす。


『それとぉ、お前じゃなくてレンタンって呼んでほしいなぁ』


ぶちっ。

頭の中で何かが切れた。

天井を見上げると、確かに悪魔らしきものがカーテンレールの上に乗っかっている。


「お前本当いい加減にしろよ!そんなところにいなければとっくにっ…!」

『あ~、これだから最近の子はやだね~。短気は損気って言葉知らない?カルシウム採った方がいいよ?』


こいつ…、俺をおちょくって、何がしたいんだ…。

目的がさっぱりわからない。


『そ・れ・で!なーんで四季ちゃんのことを心配するのさ。他人のくせに~』

「あのなぁ…、そんなの、見ず知らずのお前に話せると思うか?」

『でも、僕が座ってるこのカーテンレールの下のベッドにはー、四季ちゃんが眠っているわけでぇー…、今の話ぜーんぶ聞いちゃってると思うよ?』

「!!!」

俺はわかりやすく動揺してしまった。



『あっ!今、動揺したよね?ね?』

「うるせー!だから何なんだよ!」

恥ずかしさのあまり、怒りを上空の悪魔に向ける。



次の悪魔の口から放たれた言葉は予想もしないことだった。

『あーもう、じれったいなぁ…。四季ちゃんに対する本音を言えよ!少年!!!』


悪魔はしびれを切らしたようにこう切り出したのだ。

こいつは一体…、悪魔だといっていたが何者なんだ?と頭の中で?が渦巻いた。


正直言って悪魔が怒る要素が分からないが、俺は一瞬目を見開き、こう答えた。

「俺は…俺は四季のことが好きなんだよ!」

『……おおおおおぉぉぉぉ!!!』


おそらく顔を真っ赤にして叫んだと思う。そして、四季と言うのも初めてだ。

今までこんな感情あっただろうか?

…いや、無い。



『いーちゃった、言っちゃったー★ あぁ、でも安心して。四季ちゃん、今一時的に眠りについたみたいだから』

「何だよ…、何なんだよっ、くそっ」

俺は、恥ずかしさと悔しさと情けなさで涙が出そうになるのを必死にこらえながら、キッと悪魔に向かって一言

「もう、知らねぇ!消えろ!このクソ悪魔!」

と言って廊下に出た。

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