猫と少女の実験

鳩ノ木まぐれ

第1話 林乃倫子の才能

林乃倫子という絵本作家は子供達にとても人気があり、時折、家族団らんの中でもその名を耳にすることがある程度の人物だ。




彼女は絵本という媒体を用いて、絵で、平仮名で。平和な現代ではなかなか学ぶことの少ない倫理観や道徳心の裏側を見せることができる。




その才能が特に表れている作品が


「ゴミ捨て場の正義」




この作品は町中でゴミを散らかす猫やカラスを近所の人達に代わって一人の少年が退治するという話だ。この話の面白い所は、退治のやり方が実に子供らしいということだ。




「ところで僕は、『天性の才能』ってものを信じていない。それらには必ず、原点があり、そこから成長し、到達するものだからだ。


......でも、この話は別だ。ここまでリアルな話ってことは元ネタがあるんじゃないか? 乃倫子」




そう言って、昔からの友達の哲也が名探偵でも赤面したくなるようなキメ顔をしながら聞いてくる。




「それを聞いてどうするつもり? 私だけ大物になったことへの腹いせにジャーナリストに唯一の友達を売り込みに行くの?」




「なっ、友達ぐらい他にもいるわ! アパートの大家さんは毎日顔を合わせるし、ゴミ捨てに行けば近所のママ友と話す......し」




「あ、数えることをやめたね」




ちなみに哲也のアパートの大家さんは、哲也がなかなか家賃を払わないから仕方なく会いに来ているのであって出来ることならアパートの住人とはあまり干渉したくないのだろう。


そしてこいつは独身で子供もいないから、いくらママ友の会話の中に入ろうともママ友の「友の字」には含まれないことになる。




「なんか......。お前の人間関係って絶妙に微妙だよね」




「あーー! くそっ! 言い返せねぇ、覚えてろ! 今に大物作家になって人気者になってそして、お前を見返してやる!」




そう言って哲也は私の部屋から慌てて出て行った。




「私、今、そこそこ大物だけど、哲也が大物になったところで私を見返せなくない?」

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