春色の君と秋色な僕と

海松藍 雅貴

第1話 桜の香りと君の声

車窓からは綺麗な桜並木がみえる。耳に突っ込んだイヤホンカラは陳腐な歌詞が流れ込む。こんな出来事、実際には起こるはずがない。百万回愛をつたえてたら日が暮れてしまうし、僕には前世なんて分からない。愛はどこからもやってこない。僕は新学期に胸を全く膨らませずに電車に揺られていた。今度は目立たないように、何も起こらないように、ただそれだけでよかった。普通に過ごせるように家から遠く離れた学校を選んだのだから。そんな事を考えているうちにもう最寄駅に着いていた。入学式にはまだかなり時間がある。余裕を持たせすぎた。よくいえば自然豊かな所にある学校だから、目の前にはそこそこ広い公園があった。校門はまだ空いていない。少しベンチでも座って待とうかと思っていた。池を囲うようにあるベンチに腰をかけ、またイヤホンを突っ込む。しかし音がならない。また充電してくるのを忘れた。諦めて池を眺めることにしよう。いつぶりだろう、こんなにも時の流れがゆっくりと感じられたのは。ただただ池で遊ぶかもの子供を眺めると少し心が安らいだ。そのとき、背後から歌声が聞こえた。こんな朝から歌ってる馬鹿がいるのかと思ったが、何故か自然と足が動く。彼女は光の差し込む芝生の上に寝転がって、童謡ばかり歌っていた。つまらない歌詞だ、そろそろ校門も開く頃だしもう学校へ戻ろうと思った。しかし足は動かない。春風のように優しく美しい声に聴き入ってしまいその場から離れることが出来ない。その場に立ち尽くしていると、君は歌うのをやめて、「その制服、そこの学校だよね。私と一緒だね。君、名前は?」と僕に言ったが、歌うのをやめてしまったことに少しガッカリしでフリーズしてしまった。「おーい、大丈夫、死んでるの?」 僕はハッとして「ごめん、僕は月見 葉月。君は?」 彼女は眩しい笑顔で「私は春宮 早希。よろしくね。」僕は嬉しかった。この歌声が学校でも聴けるかもしれない。 「ねぇ、葉月くん、時間わかる?今日時計忘れちゃったんだよね。」と言われ腕時計に目線をずらすと入学式の始まる5分前だった。この公園から学校まで走っても3分かかる。僕達は焦って走り出した。 こんな出会いがあるのかと思った。陳腐な歌詞みたいだ。そう思っていたら校門が見えた。指定の席に着いたのは始まる1分前。ギリギリだった。僕は初めてこれからの学校生活に胸を弾ませていた。

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