6月19日(水)
次の日、淳子は学校を休んだ。
教師は「風邪で休むと連絡があった」と言っていたが、正直信用できる情報ではない。
朝のホームルーム後、クラスではここぞとばかりに「噂」が話題のトレンドになり、みんな大声で情報交換を始めた。
「本当は日本人じゃないらしいよ」
「お母さんが来年刑務所から出てくるらしいよ」
「大人や教師にもあの可愛さと体を使って取り入ってるらしい」
各々好き放題に尾ひれはひれを楽しんでるようで、その表情は恍惚とし狂気さえ感じる。
耐えきれなくなった僕は、前席の佐々木の肩を叩いた。
「な、なんでございましょう」
「あのさ、この噂って佐々木はどう思う?」
佐々木はうーん、と一呼吸考えてゆっくり言った。
「最初に聞いた時はびっくりしたけど、本人から聞いてないしわからないよね。どっちにしても、佐伯さんとオレの関係は変わらないし」
知ったかぶらないのが佐々木の美徳だ。これが僕の友人だ。
お前と淳子にどんな関係があるのか、と一瞬口走りそうになったがグッと飲み込み、僕はカバンの中からコーラを持って立ち上がり、とりあえず教卓を思いっきり横に倒した。
「ドン」と威勢の良い音が響き、噂は一瞬、影も形も無くなった。
「本当ごめん」
佐々木に向かって小さく囁き、彼の頭の上に浮かぶクエスチョンマークの上から、コーラをぶっかけた。
「なぜっ!?ばぁばば!なぜっ!?」
パニックになる佐々木の頭からコーラが流れ落ち、寝癖を次々に直していく。
悲鳴と意味不明の歓声が響く中、僕は教室をあとにした。
佐々木には本当に悪いことをしたが、これで当面、「噂」の中に「大竹が狂った、あいつもアブないぞ」というトピックが追加されるはずだ。
今度ラーメンでもアニメのブルーレイでも、佐々木が望むものはなんでもおごってやろう。
そのまま僕は、「お決まり」の時間がくるまで公園でじっと一人待つ事にした。
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