フォーの聖所
ikaru_sakae
エピソード 1
世界は変わり始めているのだろうか?
昨日までは目の前にあったものが、今朝にはもう、ない。
昨日まで正しかったもの。昨日までは真実だったもの。
それが今日、どれだけ正しく、どこまで真実なのだろう。わたしには、よくわからない。世界のどこもかしこもが、わたしの知らぬ間に、大きく変わろうとしている。その響きが、わたしは鼓膜の端に、ほんの少しだけ届き始めている。そのような感覚が、近ごろわたしの中にある。そしてその感覚は、少しずつ、少しずつ、日増しに強くなっていくようだ。
だからその朝わたしを捉えたその出来事も、
大きな変わり始めた世界の片隅の、ごくごく小さな波のひとつに過ぎない――
そうなのかもしれない。
でもわからない、まだわたしには。
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【 ユーラシア大陸東方海域
日本共和国 トウキョウ市 】
『元気? こっちはまあまあ、元気よ。まあ、いっかい死んだのに元気って言うのも、ちょっとあれだけどさ――』
死んだ姉のまりあからメッセージが届いたのは九月の雨降りの午後だった。アタマも体もだるくて何もやる気が起らない重い灰色の午後で、わたしはコスプレカフェのバイトを無断欠勤して、もう半年以上も洗濯してないキルトを頭までかぶり、うす暗い部屋でひとりで寝ていた。聞こえるのは雨の音だけ。その時とどいたダイレクト・メッセージ。
『こっちはいま、ある島にいます。良かったら、いちど会いに来て。いろいろあんたに話したいこと、あったりもする。事情があって、こっちからは島の外に出られない。でも、そっちからはたぶん、入れる。面会は許可するって、あのヒトも言ってるから。その島の場所は――』
それまでの気だるい眠気が一気に吹き飛んだ。わたしはいきなり瞬時に覚醒し、キルトを遠くに払いのけて―― それから読んだ。全力で読んだ。あんなに集中して文字を読んだの、たぶん生まれて初めてだ。自分の心臓の鼓動を、自分でも自覚した。時間が止まったようだった。雨の音も何もかもが一瞬にして消えた。
まりあ――
おねえ、ちゃん――
生きて―― いるの?
なぜ。どうして。どこで、どうやって――
百万の疑問が一気にアタマの中で湧き立つ。
やがてその奇妙なメッセージを読み終えたわたし―― そして直後に、わたし・神奈倉カナナ(16)が、その島行きの決断を下すまでに、一億分の一秒すら必要としなかったのだ。
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その島の名前は、メ・リフェ島。パフィン海の最北部、「デトセリヴェ群島」と呼ばれる、帯状に連なる小さな島々のひとつ。ネットで調べてそれはすぐにわかったのだが。わたしが何より面食らったのは、その、冬には凍てつく最果ての島の奇妙な名前そのものではなく、むしろその島の位置―― なにしろその島が存在する、その位置は、現実のこの世界の海上ではなかったのだ。
海外を中心に、一部で熱狂的な支持を得ているフルダイブRPG「ロード・オブ・ソウルズ」のワールドマップの中。メ・リフェ島は、そのマップ上の最北端にある。つまりその島自体が、実際には存在しない架空の島。バーチャルにしか存在しない、デジタルデータが作り出す島なのだ。時間をかけてネットでどれだけ調べてみても、「メ・リフェ島」という名前は、そのほかのどこにも存在しなかった。リアルにおいても、バーチャルにおいても。
しかしともかく、死んだ姉の名を語るそのダイレクト・メッセージには、シンプルにその島の名前が書かれていた。メ・リフェ島。そこであなたを待っている、と。
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姉のまりあは、その年の二月に死んだ。
死因は水死で、他殺か自殺か、警察も判断しかねていたが、最終的には自殺という線に落ち着いた。姉のベッドの上に、アイライン用のペンシルで殴り書かれた一枚のメモが置かれていた、と。それが事実上、決定打になった。というか、たぶんそれしか証拠がなかったのだろう。そのメモを見つけたのはもちろんわたしで、そこには「ごめんね」という四つの文字が書かれていた。
それはある種の遺書のようなもの、なのだろうと。おそらく警察は解釈し、それ以上の捜査は、たぶん、行われなかった。想像するに、警察としても、18歳で風俗店勤務。という、明らかにネガティブな肩書きを持つひとりの若い女の不審死に、特にそれ以上深く関わりたくもなかったのだろう。
姉の身体は、その朝、わたしの街から少し南に離れたハヤマ市の海岸で見つかった。まりあは夜中にその海で溺れ死に、朝までには、近くの浜に打ち上げられた。発見が早かったために、腐敗や痛みはほとんどなかった。死因は水死。そして遺体の血液からは、かなりの濃度の睡眠薬の成分が検出された、らしい。
もし、本当に殺されたのではないとして、ではなぜ、姉がわざわざハヤマに行ったのか。なぜそこを最後の場所に選んだのか。理由はもう、死んだ本人にしかわからない。ずっとずっと昔、母親がわたしたち姉妹を捨てて蒸発してしまう、それより前の時期に―― 当時はまだ壊れきっていなかったわたしたち家族三人で、いちどそこまで、潮干狩りに行った。かすかに記憶に残っている。わたしは三歳とか、それくらいだったはずだ。潮の匂い。波の音。海鳥の声、そして海のずっとむこうにいくつもの帯になって降る―― 空から降りる光の記憶。
あるいは姉も、そのおぼろげな遠い日の海の記憶に、最後はすがって、そこにもう一度、その、もう今では無くなってしまった遠い家族の記憶の風景の中に、あと一度だけ、身を置きたいと―― 考えたりも、したのだろうか。
でもわからない。すべては後付けの想像だ。とにかく姉は、最後はその、それほど強く彼女に縁があるとも言えない、季節も海水浴にはほど遠い、粉雪のちらつく冬の海辺で―― 最後はそこで、自分の命を終わらせた。
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神田坂の路地裏、ダイブカフェ「フィーリン・クーリン」。
フルダイブゲームをプレイするとき、わたしがいつも使う店だ。「プレイするとき」とか無難に冷静に書いているけど、要するに「一週間の半分以上は」と言いかえてもいい。コスプレカフェでバイトしてるとき以外と、低所得者向けの都営住宅の十六階で死んだように眠る時間以外は、わたしはほとんどの時をこのダイブカフェで過ごしている。個室ブースの中からオーダーすれば食事も飲み物も何でも届けてくれるし、追加で少し料金を払えばシャワーのブースも使える。やろうと思えば何日でもこもっていられる。それでいて滞在料金はホテルや旅館よりもはるかに安い。共用の廊下スペースがちょっぴり薄暗くて、いつ行ってもフライドポテトの臭いがこもってるのが好きじゃないけど。でも、まあ、この料金でわたしみたいな適当なやつを何時間でも何日でも受け入れてくれてる、そこの部分には感謝しかない。
「もう死んだはずのまりあ」から、あのダイレクト・メッセージが届いたその朝、わたしは始発のメトロで都内まで出て、神田坂駅前のコンビニで、もう飽きるくらい毎日食べているツナのおにぎりと鮭とゴマのおにぎりと、ホットのロイヤルミルクティーの缶を買い、店の前で立ったまま、いつものお決まりの朝食をすませた。霧みたいに細かい雨の降る朝で、空はまだ半分ぐらい夜で、光は弱く、九月にしては冷たい雨が、路上のあちこちに吹きだまったビニール袋やそのほかのゴミの上に音もなく降りかかっている。雨にぬれて毛がバサバサになった白黒の猫が物欲しそうにずっとこっちを見ていたから、鮭ゴマのおむすびを半分、そいつにあげた。猫はもう本気で必死でガツガツそれを食べていた。時刻は午前六時十二分。そこからまっすぐダイブカフェに足を向ける。
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ダイブカフェ「フィーリン・クーリン」の正面ドアが自動でひらく。中に入ると、もうすでにお友達のように慣れ親しんだ、フライドポテトのむわっとした臭いが一気にわたしを包んだ。メインカウンターで会員カードを提示。デビット機能付きのカードで、いちいち現金のやりとりをする必要もない。使用料は、自動でわたしの口座から引き落とされる。もちろん便利なわけだけど、でも前に、調子のって夜食におやつを注文しまくったら、そのあとの引き落とし金額がすごいことになってて気絶しそうになった。つまりお金が目に見えないって、気づかずに使いすぎるリスクもあるってこと。まあでもそれは、今、ここではあまり大事な話じゃない。
右奥の通路の突き当たり、D16番のブース。空いているときは、いつもここを使う。まあ、自分専用のブースと言うほどでもないけれど、なんとなく、いつもここが落ち着く。さいわい今朝もそこは空いていた。ひとまず六時間プラン、を選択する。その後、追加料金で必要に応じて時間を延長することも可能。
ブースに入り、中からスライドドアをロックすると、ほんのり明るいブース内照明がたちあがる。正面奥のディスプレイの中から、目的のゲームタイトルを探す。
ふだんわたしがプレイしてるのは「アッフルガルド」っていうRPG。ここ数年の最大人気タイトルで、メインメニューの一番上にでっかく表示されている。でも、今朝ここでログインするべきは、「ロード・オブ・ソウルズ」っていうゲームだ。めちゃくちゃポピュラーでもないけど、まあでも、そこそこの人気ゲームではあるらしく、「フィーリン・クーリン」の操作端末のメインリストの真ん中へんに、問題なく入っているのを発見した。
Xの形に交差した剣と槍、そのまわりをビビッドな青い炎がつつむ。
それが「ロード・オブ・ソウルズ」のゲームロゴのデザイン。
そのロゴを、まっすぐシンプルに指でタップ。
ブース内照明がフェイドアウトし、世界は一瞬、完全なる闇につつまれる。でもその闇の向こうから、かすかな青が少しずつ―― その青はやがて噴出する激しい青の炎となって視界のすべてを包み込む。青のスパークがクライマックスに達した時点で、クリスタルが砕けるような破壊音、青の炎は瞬時に霧散し、わたしの目の前に「ロード・オブ・ソウルズ」のタイトルが大きく表示された。
最初にログインネームの決定、ログインパスワード設定。
そのあと、キャラクター作成だ。
いちばん最初に「ジョブ」を選ぶ。このゲームで言う「ジョブ」とは、自分のキャラが属する「種族」と、剣士とか弓使い、魔獣使いや魔道士とかの「クラス」、その二つを一緒くたにしたような感じだ。全部で十一ある「ジョブ」の中から、攻撃特化型の魔法使い「メイジ」の女性を選択。そのあと髪型とか目の色とか身長や体格など、キャラビジュアルの詳細をつめていく。ほんとに本気でプレイするなら―― つまり、純粋に遊びとしてこれから何ヶ月も続けてプレイし続ける前提ならば、わたしはもっと、この最初のビジュアル設定にもとことんこだわって時間をかけるヒトだ。でも今は、どちらかというと非常事態というか。特にこのゲームをやりこむ目的でログインするわけじゃない。
なので、わりと適当、初期のデフォルトのキャラクタ―・ビジュアルをベースに、髪型と、目の色だけちょっぴり変えた。ここでの髪色は、燃えさかる炎のような赤。髪型は、長い長い髪を頭の上でまきまきっと高く編み上げ、編上げの端っこは頭の上におさまりきらずに六本のラインになってクルクルッとらせん状になって、そのうち一本は前方に、残り五本は後方の空中に優雅に舞っている。まあリアル世界では重力の問題があってどうやっても不可能なヘアスタイルだけど、ゲーム世界ではそれほど珍しくもないスタイルだろう。瞳の色は、オレンジと赤の中間色みたいなやつで、目の形も、目つきをちょっぴり鋭い感じに変更した。
あと、身長をだいぶ低めに設定。初期のバリバリの足が長すぎるモデル体型みたいなやつから、まあ、わりと穏当なティーンエイジャー体格、みたいな感じに補正する。まあわたしの好みと言えばそうなのだけど、どうもこの手の海外RPGは、デフォルトのキャラクタービジュアルがあまりにも異次元なくらいスーパーモデル体型になってて、わたしはあまり好きじゃない――
とか、なんとなく心の中で文句を言いつつも、キャラクター作成終了。
暗闇の中に浮かんだ等身大のキャラクタ―を、ぐるぐる回転させて、詳細を最終確認。なにか、初期装備としては、右手に、赤のオーブをはめこんだ魔法のワンドを装備。ボディには、ベージュっぽいカラーの軽装チュニックに、胸の部分に革製のプレート。足元は、編上げの革製ロングブーツ、って感じか。あとは、首のちょっと下の方の位置に、オレンジっぽく光る、いかにも魔法がかかってそうなメタル製のペンダント。ふむ、まあまあ穏当なビジュアルだな。ゲームによっては、やたらセクシーアピール過剰な露出度高すぎるコスチュームばかりでゲンナリすることもあるけど、このゲームは、まあ、自分的には許容範囲か。
空間の中央に浮かび上がった「ゲーム開始」の文字をタッチする。
なんだか壮大なオープニング音楽が鳴り響き、青の光がわたしを包み込みこむ。クリスタルが弾けるような効果音と同時に、わたし自身が、今そこで作成したキャラクタービジュアルにトランスフォーム。青の光がぐんぐん明るさを増し、まぶしくて、目が開けてられないレベルに達し―― そしてわたしは、「ロード・オブ・ソウルズ」の世界にダイブイン。ここから先は、自らログアウトを選ぶその時までは―― 視覚的にも、そのほか五感的にも、すべて完全に。このゲーム世界のキャラクターになりきって、このバーチャル世界の一住人となるのだ。
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【 北カディアナ大陸極東地方
城塞都市ディエト・マギト 】
「船が出せない??」
わたしの声は、ゲーム内のボリューム設定の最大値を、あるいはオーバーしていたかもしれない。島に渡る船の運航を請け負っている「マギト商船組合」の事務所。そこはアンティークな木材を組んで作られた古風な建物で、昼だというのに建物内はうす暗い。壁には白っぽい四つの魔法灯がともっているけれど、光量は低くて、事務所中央のカウンターまわりだけしか照らしだしていない。店の奥では何人かの組合員が何かの事務仕事をしているような気配があるが、わたしのところからは、そのシルエットがかろうじて見えるだけだ。
「そうなんだよ、お嬢ちゃん。このところ海況が悪くてね」
かすかに申し訳なさそうに、ごつい顎(あご)の無精ひげを左手でさすりながら答えたその大男。アタマは綺麗にそり上げてスキンヘッドにしている。そんなに年齢が高い感じでもない。肩幅は広くて手もやたら長くてゴツくて、いかにも「海の男」な空気を醸し出している。
「カイキョウ? カイキョウって何?」
わたしはデスクを両手で叩いた。『不適切なターゲット。非破壊オブジェクトです』のシステム表示が、赤字でさりげなく視界の左から右へと流れてゆく。
「ああ悪ぃ、言葉わかんねぇか。海況ってのはつまり、海の状況ってことだ」
「状況って何よ? こんな晴れてて天気は最高、帆船には申し分のない風だって吹いてるじゃない?」
「まあ、あれだ。天候は嬢ちゃんの言う通り、絶好の渡航日和なわけだが。まあでも、それ以外の要素が、だな。いまちょっと、海の上がキナ臭いんだ」
「はぁ? どういう意味よ、それは??」
「こないだの大潮の時期あたりから、グマの帝国の軍船団が出張ってきてな」アタマの禿げあがった大男が、胸の前で腕を組み、渋い表情を作ってみせる。「パフィン海の北部海域、一般商船の航行は、無期限に全面禁止。帝国の許可なく海に出た船は、警告なしに撃沈する、だとか」
「ええ?? なにそれ? 戦争とか、そういうの?」
「うーん、っていうわけでも、なさそうなんだがな」そう言って男は、左手の指でこめかみのあたりを掻く。「このところ隣国のシルアーヴィアとの外交関係も良好だって言うし、南方の竜族国家グィンガも、最近はめっきりおとなしくなったって噂を聞く。南の国境も異常なし」
「じゃあなんで? なんでそんな、非常事態令みたいなのが出ちゃってるのよ?」
「だから。それはな、俺らの方が知りたいっての。帝国政府の役人は、命令出すだけでこっちにはひとつも事情説明しやがらねぇからな。ったく。まあだが、おかげでこっちも商売あがったりだ。いつもなら一日に七便以上も出ているトルマリス行きの交易船が、のきなみ運休。組合員の来月の給料がどうなるのか。それすら今はわからん」
「給料とか、そんなのどうだっていいじゃない。どうせみんなNPCなんだし、失業して困るとかそういうの、リアルには全然ないわけで――」
「お嬢ちゃん、なんだか言ってることがよくわからんな。まあ、とにかくだ。うちとしては船は出せない。それはもう決まってる」
「でも――」
「だが、お嬢ちゃんがどうしても、その、メ・リフェ島に渡りたいって言うんなら――」
「え?? 船出してくれる? 出してくれるの??」
わたしは全力でカウンターに身をのりだしてその大男のゴツイ腕を両手で握りしめた。
「おいおいおい。出せないってば。うちは」
「なによ! 期待持たせないでよ!」
「まあ、だから。『うちは』って言っただろう。だが、『よそ』は、また事情が違うかもわからん」
「『よそ』? 『よそ』って何?」
そのあと十分ぐらいそこのカウンターでしつこく食い下がり、大男を問い詰めた結果―― なんでもこの街には、このメインの商船組合の他にも、中小の民間の船会社が十数社ほど、商売をしているらしい。その中には、怪しい荷物の荷運びや違法すれすれの危険な案件を専門に手掛ける裏の商船屋もあるとか、ないとか――
「ムリだなぁ」「今は時期が悪ぃよ」「ムリですね~」「あきらめた方がいいよ」「うちも無理だ」「どこも今は受け負わねぇよ」「……」「……」
そのあと港の近くの路地をかけずりまわって、全部で十二社まわった。でもどこも答えは同じ。海況不良。時期が悪い。無理、無理、無理。
太陽はすっかり海の向こうに傾いて、もう完全に心が折れそうになった頃、もうダメもとであと一社だけ。と思って飛びこんだ、港の隅のうらぶれた海事会社。表の看板は長年の雨風で塗装がはげて文字すら読みづらい。「イディハト商船」と。たぶん、書いてあるのだと思うのだけど。暗い店内には、ぽつんと隅に簡易なデスクと折りたたみ式のチェアがあるだけ。そこにひとりの男が座って居眠りをしていた。わたしが声をかけると、いかにもメンドクサそうに腕をのばしてあくびをし、行先は? ときいてきた。メ・リフェ島。わたしはまったく期待ゼロで島の名前を口にする。
「いくら出すんだ、あんた?」
目つきのやたら鋭い、痩せた長身の男がこっちに声を投げた。それは予想もしてなかった言葉だったので、一瞬、答えにつまる。
「えっと。つ、つまり、船、出してくれるの?」
おもわず声が、ちょっぴり裏返ってしまった。
「先に質問に答えろ。いくら出す?」
なんとなく殺気のこもった声。じろり、と男がこちらをにらみつける。アタマには黒いバンダナみたいなものを巻いて、肩のところに不思議な模様の入れ墨がある。商船会社の社員というよりは、むしろ海賊の組員の方が近い感じがする。
「え、えっと。いま、所持金的には、ゴールドが117とシルバーが322、ですね」
なんだか気おされて、急に敬語になってしまった。ゲームだけど、相手はNPCだけど。なにげに迫力ある「その筋」っぽい男に至近距離から睨まれると、さすがにわたしも、ちょっぴりビビっちゃうところはある。
「話にならん。それっぽっちでメ・リフェ島まで渡れると本気で思ってるのか? 帰れ帰れ。あんた、来る場所を間違えたな」
男が何か、野良犬を追い払うみたいにシッシッと右手を振った。
「な、なによ。じゃ、いくらなら請け負ってくれるのよ?」
「ふだんの相場は、ゴールドでひとり1600」
「高ッ!」
「これでも安く設定してる方だぞ?」
「どこがよ! むちゃくちゃ高いじゃない!」
「あそこはただでさえ海流が悪いし、しかも、とびきりたちの悪いシーサーペントがうようよしてる。そこを通るリスク料だ。それに――」
男はちらりと、壁のどこかに視線を投げた。そこには何かの、書類だかチラシのようなものが乱雑に貼り付けてある。でも、そこに何か書かれているか、わたしには読み取れない。その文字は、何だか妙な古代紋章のようにしか見えない。
「そして今は、非常事態だ。この街の港は完全に封鎖されている。沖にはグマ帝国の正規軍の軍船が封鎖線を張って目を光らせてる。そういう最低の状況の中、こっちは夜、闇にまぎれて隠密に渡航することになるわけだぞ。生半可なリスクではない」
壁の一点を睨んだまま、男が言った。いかにも海賊っぽい危険なビジュアルなのに、意外に律儀に説明してくれるあたりが、やはりゲームのNPCだ。
「したがって、そこの部分の臨時特別料金も加算――」
男が手元の、レトロで風変りな計算機を指ではじく。
「ゴールドで4200。それが最低料金だな」
「ななッ! って、ちょっと! そ、そんなお金あったら、まるごと船が一艘買えちゃうじゃない!」
「なら、買ってその船でひとりで渡れ」
冷たい声で男が言った。わたしは答えにつまる。
「もしできるなら、な。ったく。これだから素人さんは」いまいましそうに、男がチッと舌を鳴らす。「こっちとしては、今言った金額が最低条件。ま、あんたの財布じゃ、とても無理だろう。さ、わかったら帰れ」
「ぶ、分割払いは?? たとえば二年で二十四回払いとか――」
「うちは一括現金主義だ。おい嬢ちゃん、もう時間も遅い。さっさと家に帰った方がいい――」
「払います。4200」
いきなり声がした。
ふりかえると、店の入り口に女の子が立っている。
服装と装備品からして、彼女のジョブは「アーチャー」だろうと見当をつけた。まあ、およそリアルの戦場では無謀すぎるであろう、ホワイトの薄手のチュニックみたいな軽装に、背中にかけた背丈よりも長いシルバーのロングボウを見ればそれは簡単に誰でもわかる。
ピンと立った尖り耳、グレーとホワイトの中間色の、ドライでパサついた質感のボリュームある髪を、そのまま無造作に斜め後ろに流している。これもまたリアルには不可能なヘアスタイルだ(リアルだと、重力で垂直に落ちてくる)。背丈は小柄なわたしよりさらに低くて、見た目年齢は13歳ぐらい? とても整った顔立ちだけど、一番印象的なのはその目。たぶん色はゴールド? 目の外径はわりと細いのに瞳が大きいので、この距離で見るとまるで「目=(イコール)瞳」という感じ。そのせいでちょっぴり神秘的というか、なんだか人間じゃなく、「女神的」な神々しい感じになっている。鼻は小さく整っていて、口も、とてもサイズが小さく上品だ。
「払います。4200」
その子が同じ言葉をくりかえす。その声は、「わたし」にではなく、その向こうで腕を組む怪しい船会社の男に向けられたものだ。
「おいおいマジか、アーチャーのお嬢さん」
黒いバンダナの男が、まいったな、というように右手を頭にあてた。
「でも本当に、メ・リフェ島まで行ってくれるのですね?」
その子はわたしの横をスルーして、男と近距離で向き合った。
「まあ、本気で支払えるって言うなら、そりゃ、こっちとしては断る理由はない」
おほん、と男がひとつ咳をした。アーチャーの女の子のビジュアルが、何だかとっても可憐なので、NPC的にもちょっぴり照れているようだ。このあたりのエモーション表現が、このゲーム、意外によくできている。
「しかし大金だぞ。マジで払えるのか?」
「はい。こちらに――」
アーチャーの少女が、指先で空中に何かを描く。所持品ウィンドウを開いているのだろう。(でも、彼女のウィンドウはわたしからは不可視。)
「ちょ、ちょっと待ってよ。抜け駆けはダメよ。わたしが、この男と、今、交渉してたんだから」
わたしは慌てて声をあげた。なんだか、わたしを抜きで二人だけで交渉が進んでしまいそうな気配だ、これでは。
「あ、ごめんなさい。あの、特に抜け駆けとか、そういうつもりでは」
アーチャーの少女が振りかえり、きまり悪そうに少し視線を下げた。そういう仕草をすると、女のわたしから見てもおそろしく可憐だ。素直に可愛い。なんだかしかし、口調がやたらと丁寧だ。ただのプレイヤーにしては、日本語が流暢すぎる。って、もしかしてこの子もNPC?
そう思って彼女の頭の上で半透明表示されているステータスバーをさりげなくチェック。
リリア・ナーグ
LV3 HP42
どうやら普通のプレイヤーらしい。にしても、おどろいた。レベル3は低い。いかにメインのストーリークエストをスキップ・ショートカットして急ぎに急いでここまで来たにしても。ここ、『城塞都市ディエト・マギト』の推奨レベルは26以上。まあ、自分も戦闘とかクエストは最低限のみこなして、とにかく大至急で来たわけだけど、その自分でも、いま、レベル13だ。さすがにレベル3でHP42はヤバい。この街の外の敵と戦闘になったら、たぶん、攻撃一回か二回で即死するレベルだ。
「わたくしとしては、その、あなたも―― えっと、アレムさんも(そこでちらっと、わたしの頭の上に視線をむける。わたしのステータスバーを読んでいるのだ。)、一緒に船で渡れるのかなと。もちろん、船に同乗して頂くのは構いませんし――」
「え! ってことは、お金出してくれるの??」
がぜん、わたしの目の輝きが増し、声のトーンも上がった。
「は、はい。それはまったく、かまいませんし――」
「おいおい。話をそっちで進めるな」
海事会社の男が、むこうから話に割りこんできた。
「さっき4200って言ったのは、ありゃ、あくまで、ひとりあたりの料金だ」
「え?」「は? 何?」
わたしとリリア・ナーグが、同時に反応する。
「ふたりなら、倍額。と、言いたいところが。こっちもまあ、そこまで鬼ではないんで。ちょっぴりまけて、ふたりで8000だ。どうだ、払えるのか?」
「こら、あんた! ぜんぜんそれ、割引率、低すぎでしょ!」
「うるせえな。貧乏人は黙ってろ。おれはそっちの可愛い方のお嬢ちゃんと話をしてるんだ」
「なによそれ! NPCのくせにわたしをブス扱いとはいい度胸だ!」
わたしはそいつの胸ぐらをつかんだ。リアルだとたぶん勇気ないけど、しょせんはゲームだ。こっちをけっして攻撃できない街人キャラのNPCだからと、ちょっぴりわたしも舐めている。
「おいおい。手癖わるいな、あんた。おれは別に、ブスまでは言ってないだろう。言葉の解釈、ひろげんなよ」
「言ってるのも同じじゃない! だいたいあんたね、NPCのくせに――」
「8000。ええ。それでしたら、何とか大丈夫かと」
「ええ!! そんな持ってんの??」「マジか! 金持ち過ぎだろ!」
わたしと男が同時にふりかえる。
ゴールドで8000!
このゲームやってない人にはピンとこない数字かもしれないけれど、シルバーでさえ、1000単位で集めようとすればかなりのプレイ時間を要求される。ましてそれがゴールドともなれば、たぶん、数か月単位ログインし続けても、普通にやったら厳しいだろう。なんでこの子、そんな金額をいきなり持ってるわけ――?
「ん。すごいな。確かに―― ああ。8000。いま受け取った。文句なしのゴールド。ったく、まいるな。近頃の若手のアーチャー連中は、なんだ、王宮貴族とお友達、とかなのか? まったく。ありえねーな」
自分で値段をふっかけておいて、しっかり受け取っておきながら、男はその金額にしばらく唖然としている。まあでも、じっさいこの男も、本気で支払えるとは思わずに、仕事を断りたいのが90%で、高額ふっかけたわけだろう。それを実際その子があっさり支払ったので、男としてもとまどいを隠せない。
「それで、船は、いつ出るのでしょうか?」
金の瞳のアーチャー少女が、なにか切実な感じで男のそばにつめよった。
ちょっと待ってろ、と男は言って、いちど事務所の奥に引っ込んだ。そのままトンズラするんじゃないかと、ふと不安になった頃、またこちらに戻って来た。なにか奥で、上司か誰かと打ち合わせをしていたっぽい。
「明日未明。夜中の2時に、北の埠頭に来い」
男が、わたしとアーチャー少女に顔を近づけて、なにか密談っぽく声をひそめて言った。
「いいか、間違えるな。北埠頭、2時。そこに黒の帆を上げた小型のスクーナーが待っている。ああ、念のため言っとくと、スクーナーってのは4つの三角帆をつけた快速船だ。ほかの大型帆船の影になって見えにくい位置だが、決して間違えるな。そして時間には遅れるな。一分でも遅ければ、もうこの話はなし。時間厳守だ。いいか?」
「はい」「2時ね。ん。覚えた」
「あと、あらかじめ言っとくが、島への渡航には、少しばかり条件がある」
「条件?」
「ああ。途中の海上で、やばい事態になってそれ以上の進行がムリな場合には―― そのときは、船は島まで行かずに引き返す」
「え」「ちょっと。話が違うじゃない!」
「バカ。こっちも命かかってるんだ。相手がグマの軍船じゃ、慎重にならざるを得ない。まあ、そのかわりと言っちゃなんだが、もし島に着けなかった場合には、こっちの港に戻った時点で3500を返金する」
「なによ。そこは全額返しなさいよ」
「うるせーよ。おれはこっちのお嬢さんに話してる。おまえは1ゴールドすら出してねえだろ。文句言える立場か」
「返金は、その、どちらでもかまいません」
アーチャー少女が、ゴールドの瞳をきらめかせ、うつむき加減の姿勢で、どこか悲壮な声で言う。その悩ましげな横顔が、またこれ、かわいい。スクリーンショットにとって自宅のPCのデスクトップに貼りたいくらいだ。
「でも、わたしとしては、必ず、島まで行って欲しいと。お金のことよりも、そちらの方をお願いしたいのです」
「ったく。こっちもそりゃ、送るつもりでいるさ。だが、海況次第で、無理な場合もあるってことだ。これだから素人は困る」
「なによ。しょせんゲームだし、ちょっぴり海上でヘマして死んだって、あんたら普通に復活してまたここに戻れるでしょ。しょせんは街人NPC」
「おい。言ってることはわからんが、とにかく腹の立つ物言いだな。だったらあんただけ、途中の海上で捨てて行ってやろうか?」
「ふん、できるもんならやってみなさいよ。ゲーム仕様上、街人NPCは物理的にプレイヤーキャラに攻撃的干渉はできない。そんな基本もしらないのね、バカNPC」
「ああ?? なんだと、コラぁ!」
「ねえ、ちょっと、もう、ふたりとも。喧嘩はやめてください!」
その子がけなげに、とっくみあう二人の間に割って入る。ああごめん、NPC相手とは言え、ちょっと言い過ぎたわ。と、わたしは素直にあやまる。その男に、ではなく。可憐なアーチャーの彼女に。
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「ありがと。でもほんと、お金出してくれて助かった。まさかあんな高いとは」
その怪しい海事会社の外に出て、わたしはその子にお礼を言った。そして波止場の隅に丸太が積んであるところにわたしは腰かける。見た目は丸太だけど、実際ふれると角角した階段みたいな感触がある。このあたり、グラフィックと感覚処理の調整がちょっぴり雑だな、とか、余分なことをちらりと考えた。
そこからは、入り江に面した街の港が、ずっと遠くまで見わたせる。何十隻もの大型の帆船がそこに停泊している。カモメの鳴き声の効果音エフェクトと、やさしい海風がなかなかリアルに再現されている。悪くない演出だ。
「いいえ。お金のことでしたら、特には。あまり気になさらないでください」
その子は立ったままの姿勢で答え、ちょっぴり照れたように、左の手で、髪の毛を軽く後ろに流す動作をした。
「でもすごいね。ゴールドで8000って、普通にプレイしてたんじゃ手に入る金額じゃないでしょう。」わたしは率直に疑問を投げてみる。「しかもあなたレベル3って。あなた、いったいどういうチートを使ったの?」
「いえ。それほど難しい何かではありません。単純に、お金をお金で買いました」
「お金をお金で?」
「はい。一ゴールドいくら、とか、ネットワーク上のフリーマーケットのようなところで、売っているのを、家の者が見つけてくれたので」
「家の者?」
「あ、ええ。わたくし、あまりゲームには、その、もともと詳しくないものですから。家で働いている、その、運転手のひとりで―― ゲームに詳しい方が、その、いらしたものですから。その人が、わたしの代わりに、現実のお金を、そのゲーム内のお金に換金してくれたのです」
「げっ。『ゲムコニュ』の闇マーケットってこと?? けど、あそこでゴールド買うと、かなりの出費でしょう?? それを8000とかって―― しかも何、運転手?? ひょっとしてあなた、めちゃくちゃお金持ち??」
「いいえ、金額はたぶん、それほどでも、なかったですよ。というか、あまり金額のことまでは、わたくし詳しくは聞かなかったので――」
「あきれた。ほんとのお嬢様とか、本気でそういうの??」
わたしは素直にビビって、次の言葉がちょっと浮かんでこなかった。安めにみて、1ゴールドあたり200円だとしても、かける8000で―― えええ??? たかがゲームに、そんなお金ふつう、払うか?? とんでもないな、それは。。
「じゃ、あれか。レベル3なのに、なぜかここまで来れてるっていうのも――」
「それは、その―― なにか、特別な、レア・アイテム、というのでしたか。その、どこの大陸のどの街にも転移が可能だという、『エニグマ・クリスタル』というものを、やはりネット上のマーケットで――」
「って、めちゃめちゃレアじゃん、それ! このゲームのコアなプレイヤーでも、なかなか持ってるヒトいないっていう噂よ。わたしもぶっちゃけそれ買いたかったけど、オークションの最低相場が十二万とかで、あまりにもバカらしくて手が出なかったよ。それをあっさり買ってるとか――」
「えっと。あれはそんなに、その、高いもの、だったのですか?」
「ったく。呆れたお嬢様ね、あなた。まあでも、おかげでこっちは、お金、たてかえてもらえたわけですが――」
最後はちょっと、敬語になってしまった。すごい。この子。なんだか知らないけど、本気のお金持ちっぽい。お嬢さまとかって、ほんとリアルに、いるものんなんだなぁ。
「あの、アレムさん?」
その子が、わずかに首を右にかたむけてこっちにたずねた。そういう仕草も、なにか、さっきまでよりさらに、気品があって美しく見えちゃうのは、たぶんいま、リアルなお金の話をしちゃった後だから、だろう。なんだか自分が、ろくでもない使用人の娘、みたいな気持ちになってきている、自分がいる。
「えっと、そこはいちおう、アリームって、発音のつもりで登録したんだけどね、まあでも、呼びにくければ、アレムでも別にいいよ。あと、アリーとかでも。まあ、呼びやすければ、なんでも。」
なんだか今になって、ちょっぴり凝った発音を想定してアルファベットのキャラ名を自己満足で登録しちゃったことが恥ずかしくなった。明らかに失敗した、これ。もっと単純なストレートなカタカナの名前にしとけばよかったよ、とか。今さらながら後悔。
「えっと、では、ひとまずアリーさん、と。呼ばせて頂きます。あの、アリーさん、」
「何?」
「たしか、先ほどの話では、ゲーム内時間で明日の二時、ということでしたが――」
「ああ、そうね。リアル時間だと、あと一時間と40分とか、それくらいの話よね、たぶん。ね、それまでどうする? どこか近くで、モンスター狩りでもやって時間つぶす? っていっても、あなたあれか。レベル3だと、このへんで戦闘やると一発で死んじゃうか。わたしの方もたいがいなレベルだし―― とはいえ、あまりほかに、ここで時間つぶせる何かも思いつかないなぁ」
「わたし一度、ログアウト、しようかと思います。少し、食事とか、リアル世界で準備をして、それから」
「ああ、そうね。それが一番、賢いかもね。言われてみたら、わたしもちょっぴり、トイレ行きたくなってきちゃったわ」
「では、夜中の二時に。またここで、お会いしましょう」
その子は言って、自分の視線の前の空間で。腕を何か、左から右へと流れるように動かす動作をし―― こっちからは視覚的に見えないけれど、たぶん、ユーティリティのウィンドウを開いているんだろうと推定する。
「では、アリーさん。また後ほど、お目にかかりましょうね」
その子がそう言って、こちらを向いて、ニコリと上品に微笑んだ。ゲーム内のキャラだとわかっていても、そんな美形の女の子に、つぶらな金の瞳で見つめられてそんな言葉を言われてしまうと、なにか、自分も女だけど、キュンと、心が痛むレベルで見とれてしまった。海風のエフェクトが、その子の髪を右から左に綺麗に波立たせている。そのあとコインが床に散らばるみたいな効果音と、金色の光のエフェクトがはじけて、
その子の姿は、かき消すようにそこから消えた。
ログアウト、か。
わたしはひとり、城塞都市ディエト・マギトの港に残される。
カモメの声と、ちょっぴり哀愁あふれるストリングズ系のシンフォニーBGMが、この午後の港によく合っている。
あと、一時間と、40分。さてさて、何をして時間をつぶそうか―― まずはあれか。わたしもログアウトして、とりあえずトイレに。うんうん。まずはそれだな。わたしは短時間で決断し、左手で、視界の外からユーティリティーウィンドウを、目の前の空間までドラッグしてオープン。指でメニューを流し、一番下の、「ログアウト」を指でタッチした。
###################
【 北カディアナ大陸極東地方
城塞都市ディエト・マギト 】
そして午前二時の、少し前。
ふたたび街にログインすると日はすっかり暮れており、街の路地には霧が出ていた。オレンジの街路灯がぽつぽつともった狭い路地を抜け、港の入口まで来る。ここに来る間に霧は深さを増し、少し先の地面さえも見えにくくなっている。その霧の向こうに、いくつも並んだ巨大な帆船の影がぼんやり見えていた。ここの霧にうっすら海の匂いが混じっているのは、ゲームとしてはなかなかリアルな演出だと思う。気温は少し、肌寒いくらい。このへんの気温の体感度も、なかなかにリアルだと実感する。
北埠頭の先の方で、すでにアーチャーの女の子が待っていた。昼間見たときと違って、厚手の毛織のコートっぽいものをノーマルコスチュームの上から身につけている。そして背中には、銀色に輝くロングボウ。まあたぶんゲームだからそれほどの重量感は感じないのだとは思うけど、アーチャーの宿命というか。何を着てても、ぜったいその装備だけは外せないキャラビジュアルになっているのはちょっぴり気の毒だ。こっちに気がつくと、その子は「こんばんは。」と礼儀正しくこちらに手を振った。
「おい、乗れ。ぐずぐずすんな」
船の上から男の声が飛ぶ。黒い三角帆をつけた小型の帆船。ここの世界で言うところの「スクーナー」っていうやつだ。リアル世界で言うところの、競技用ヨットみたいなのをイメージすると、それなりに近いかもしれない。
わたしはハイジャンプで船のへりを超えてさっさと乗り込む。
「えっと、これ、どうやってジャンプすればいいんですか?」
アーチャーの女の子が、船の外から言った。
「さっきから地面を蹴ってるんですけど、うまく飛べなくて」
「え。その基本動作ができないとか??」
わたしはちょっぴりあきれてそっちを見下ろす。恐縮した感じで、ちょっぴり泣きそうな目をして彼女がこっちを見ている。
「その、わたし、初心者なもので」
「もう。しょうがないなー。えっと、体感的には、地面を蹴るだけじゃなくて、どこまでジャンプしたいか、視線で、そのジャンプの最高点をターゲットする、的な。そのターゲットをせずに蹴ってても、単なる蹴りだと判定される」
「はあ。視点を、ターゲット、ですか?」
そう言って少女が、ふたたび地面を――
「うぁあああ??」
飛んだ、のはいいけど。ちょっぴりそれは高すぎる。その子は大きく帆の高さを飛び越えて―― まあ、別にこのゲーム、高所落下ダメージ判定がほぼないに等しいから、特にプレイに支障はないけれど。まあただ視覚的に、あまり高くジャンプするとそこそこ恐怖感があるってのは、たしかに否定はできない。そのあとようやく降りてきたけど、ちょっぴり着地に失敗。その子はズダッと、船の上に崩れた。
「おい。なに遊んでる。こっちは急いでるんだ」
船の後方から、男の声が飛ぶ。視覚的には見えないけど、でも声の感じからして、たぶん、昼間のあいつと同じ男だろうと推定する。なにげに偉そうな、鋭い目をした黒のバンダナ男。なんだ、結局あいつか。あまり好印象はないなぁ。ほかの誰かが操船するかと思ってたけど。わたしはこっそり舌打ちする。
###################
周囲の視界はひたすらに霧。波を切って進むざぶざぶという波音が通底音としてそこにある。船の揺れは、それほどでもない。どこかのテーマパークのアトラクションの方が、よほどリアルな波揺れを再現しているような気もするけど。まあでも下手に船酔いとかも嫌だから、この程度のチープな揺れにとどめてくれてるのはかえって助かる。船の効果のBGMが、なんだかホラーな暗い音楽だったから、わたしは音をOFF設定に。あとは、ちゃぷちゃぷ、ざばざばっていう波音だけが、この夜の海で聞える唯一の音だ。
「ねえ、なんであなたは、メ・リフェ島に渡ろうってなったの?」
単調すぎる音と視界に退屈してきたわたしは、そばにいるその女の子に、適当に声をかけた。名前はたしか―― 彼女のアタマの少し上のステータスバーを再確認。えっと――
「えっと、あなた名前の呼び方は、『リリア』で良かったんだっけ?」
「はい。それで問題ありません。リリア・ナーグ。ナーグは、名字のつもりで登録したので。『リリア』で呼んでもらって結構ですよ」
リリアがこっちをふりむき、金色の瞳をわずかに細めて、ニコ、と気品あふれる感じで微笑んだ。むむ、これはゲームで、もちろんすべてはゲームビジュアルなのだけど―― なんだかすべての言動や仕草が、彼女の育ちの良さを表現している。まあじっさい、この子すっごいお金持ちのお嬢さん―― みたいな話だし。
「島には―― その――」
船の正面、霧に包まれた夜の海のどこかに視点を定めて、その子が少し、言いよどんだ。左手で、頭の上の髪留めに手をやる動作をした、けど、実際そこには髪留めはない。きっとリアルだと、ふだんそこには何かつけているのだろう。
「弟に。ええ、会いに行きます。面会、と、言えばいいのでしょうか」
「ふうん。弟さん。何、そこで会おうって、なにか二人で約束したわけ?」
「ええ。約束、と、言ってもいいと思います。正確にはメッセージ、ですね。弟から、メッセージメールが、おととい、わたしに届きました」
「なるほど。」
なんだかピンときた。話の先が、ちょっぴり見えてきた。
「じゃ、あれか。オチとしては、弟さん、実際もうリアルでは死んじゃってて、ほんとはメールとか、できないはずなのに。とか。そういう話?」
わたしは軽~く言ってみた。まあ、言ってる中身はけっこう重い気もするけど。
「…えっと。なぜ、それを?」
リリアが驚いて目を見開いてこっちを見た。そこには純粋な驚愕、サプライズがある。
「なぜって、そりゃ、わたしもだから。わたしの場合は姉貴、だね。お姉ちゃん。半年前に死んだのに、なぜか、メッセージ来た。島で待ってる。会いに来て。だってさ」
「……そうだったの、ですか」
沈痛な表情で、リリアが自分の足元を見た。
「わたしの場合は、その―― 三ヶ月前、ですね。弟が、もう、いなくなってしまったのは」
「なに? じゃ、やっぱりそっちも、自殺?」
「え、いえ、そこは――」
「あ、えっと。自殺じゃなかった?」
「えっと。その――」リリアはひたすらに、その、そこには今存在しない架空の髪留めを、左手で、何度も、触るしぐさを見せて――
「事故、ですね。あるいは事件――」
「ほう。じゃ、交通事故とか?」
直球で、すかさずきいてしまうわたし。よくまわりから、「おまえ空気読めなさすぎだろう」って言われたりもするけど、たぶんきっと、こういうところなんだろうなぁ。
「あの、三か月前に、タマサキの駅前で起きた事件、覚えてらっしゃいますか?」
「タマサキ? 事件? っていうと、ああ、あれか」
タマサキのキーワードでピンときた。
無差別殺傷。通り魔。多数の小学生が、犠牲に――
「あの、ごめん。ついうっかり、無神経にきいちゃって。それはたしかに、ん、キツい、事件、だったよね。そっかそっか。弟さん、それで、か。」
「はい。でも、事実ですから。特に、隠すような何かでも、ありませんし」
少女はこっちを向いて、ちらっと、弱弱しい感じで微笑した。
それから何を思ったのかはわからないけど、しずかに船首の方に移動して、船の先端に立って、前方の何かを見る姿勢をとった。わたしはそのあとは追わずに、ただ、その子の後ろ姿を見ていた。その、不釣り合いなくらい長いシルバーのロングボウを背中に背負った、リリアの小柄な立ち姿。海風が、彼女のシルバーグレイの髪を大きく横方向になびかせている。そのまま2分ほどが経過。あれ。やっぱあれか。空気読まなさすぎて、あれは触れてはダメなトピックだったのかな―― と、不安がこみあげてきた頃。
「ねえ、あれって、本当に本人からだと思いますか?」
その可憐なるアーチャー少女―― リリアが、船首からこっちを振りかえって言った。
「どうだろう」
わたしはその場で腕を組む。思考しながら、自分の三歩くらい前の甲板をながめる。でもそこには特に、答えは書いていなかった。
「でも、なんか、無視できないだけの、何かはあった。なんだかほんとに、ほんものっぽかった。そのメッセージ。書き方、というか。そこにある空気、みたいなのが。姉貴がいかにも書きそうな。えっと、うまく説明はできないけど――」
「わたしも同じ、でした」
「同じ?」
「ええ。その、空気感、ですか? 確証はないけれど、でも―― あれはたしかに、弟が書いたメッセージじゃないかって。少なくとも、無視することはできない。確かめてみなくては、って。その島に行って。そこで実際、確かめてみないと」
「…だね。その部分の認識は、じゃあ、二人とも同じってわけだ」
わたしは前方の床部分をターゲットしてゆっくりと歩行し、リリアの隣に立つ。船首に二人、肩をならべて、前方の深い霧の海に視線を固定する。
「なんかあれね。これはわたしの勘、みたいなものだけど――」
「はい?」
「なんかぜったい、その島には―― 何か普通じゃないものが、きっと、ぜったい、あると思う。それが何かは、行ってみないとわからないけれど――」
わたしのその言葉は、たぶん、隣に立ってるアーチャーの娘に言ったのではなく、たぶん、わたし自身の心の向けて。ひとりで、自分に、言ったのだと思う。
「そうですね。わたしもそう、思います。きっとそこで、何かが――」
その先の言葉を、リリアは飲み込んだ。
二人は無言で、前方に広がる霧の海をただ見つめた。
バーチャルな夜霧だとはわかっていたけど――
この霧の先には、何か、バーチャルやリアルを超えた、大事な何かが隠されている。そんな予感、あるいは胸騒ぎみたいなものが。そのときわたしにあったのは確かだ。そしてその予感は、まるごと当たっていたのだと。後になってわたしは、嫌というほど知ることになる。
###################
霧は突然、晴れた。
船が海域のあるポイントを超えると、急激に霧は薄まって、
そして。
見えた。
島だ。島が見える。
夜のむこうに、かすかに銀色に光り立つようにして、いまその島が。
「あれが――」「メ・リフェ島、か」
わたしとリリアは船首から身を乗り出した。
小島、と。わたしはあくまで想像していた。でも実際見えたそれは、想像よりもだいぶ大きい。雲に覆われて星を失った夜空の底に、さらに黒々とした陸塊が大きく横たわる。はるか先にそびえるボリュームのある山並みが、島の骨格をつくっている。その広大な裾野が、ゆるやかに傾斜しながら広がってゆき、やがては海に落ちていた。海に面した部分は、その多くが崖になっていて、そこから水が滝になって何本も海に流れ落ちている。まだ距離があるけれど、その低い水音がかすかに船まで届いていた。
「でも、見て。あれ」
わたしは船から身をのり出した。
「何です?」
「煙。」
「え?」
「ほら、あそこ。あそこにも。なにかあそこ、燃えているみたい」
「……本当ですね。火事、でしょうか?」
暗い島のあちこちから、灰色の煙が立ちのぼっている。
海岸に近い場所から、見えるだけでも三本。
さらに陸のもう少し奥でも、大きな煙の柱が四つほど上がっている。
「おい、まずいぞこれは。」
後ろから声を飛ばしたのは、痩せて背の高い、目つきの鋭い黒バンダナの男。ここまでの航海ではずっと操船室にこもっていて顔を見せなかったのだけど、そいつが今、はじめて甲板まで出てきた。
「戦闘、だな。見ろ。グマ帝国の軍船どもが、包囲どころか、上陸戦を始めやがった」
「ええ??」「上陸??」
「見ろ。あそこ。海上に火が、いくつも見えるだろう?」
男が指さした海上。島にかなり寄った暗い海の上に、揺れる炎が、横一列になっている。その炎の列は揺らめきながら、少しずつ、島にむかって接近しているようだ。
「あの火。おそらく揚陸艇だ。ひとつの船に、二十人、三十人の兵を満載してる」
「ええ?? 何それ? どういうこと?」
「あっちの大きな明かり、どうやらあれは本船だな。あのサイズ。おそらくイリアス級の戦艦だろう。バカでかいやつめ。同じクラスの船が、あっちにも二隻いる。ったく。やばいところだったな。念には念を入れてこっちの明かりをすべて消して潜航してきたが、その用心は、まったくもってムダじゃなかったってわけだ。あんなバケモノ戦艦と正面からぶつかったら、こっちには勝ち目はない」
「ねえ、ちょっと。いったいどういう状況よ、これは??」
わたしは入れ墨の入った男の肩を、ムリヤリに両手で揺さぶった。
「おい。気やすく触るな」
「ちょっと。説明しなさいよ!」
「だから。見ての通りだ。やつら、戦争をおっぱじめやがったんだ」
「戦争??」
「ああ。どうやら相当な人数を上陸させてる。上陸戦の目的が何だかは知らんが―― やつら相当、本気だってことはわかる。これから島を制圧する、って感じか。ったく。ダメだダメだ。引き返すぞ。これ以上進むのはムリだ」
「え! ちょっと! ここまで来てそれはないでしょ!」
「全速旋回! 180ターンだ。すぐにこの海域から離脱する!」
そいつが声を張り上げると、似たような黒いバンダナだかターバンだかを頭に巻いたマッチョな水夫たちが次々と甲板に飛び出してきて、マストの下で何かぐいぐいとロープの操作を始めた。黒の三角帆が、次々と角度を変える。たちまち船は大きく旋回をはじめた。
「待ってください!」
リリアが、いきなり声を張った。
「ここで戻るわけにはいきません!」
「くどいな、嬢ちゃん。海況不良の場合は引き返すと。最初の契約で言ったろう?」
「ですが――」
「ですが、も何もない。まさに海況不良だ。これより悪い海況はない。引き返す。当然の判断だ」
「で、でも、せっかく今、島が見えたのに――」
「わたしにまかして」
なおも食い下がるリリアの肩を、わたいは後ろから叩いた。
「アリーさん?」
「大丈夫よ、リリア。そんなにアツくなることない」
「でも、アリーさん、」
「大丈夫。これはゲームよ。忘れたの?」
「ゲーム…?」
「つまり遊びよ。つまりここで、プレイヤーをむざむざ引き返させるなんていうオプションは、ゲーム進行上、本来的にありえない」
「…どういう、ことですか?」
「必ず方法があるはず。たとえば――」
「おいこら! 黒黒ターバン男!」
わたしが叫ぶと、部下の男たちに指示を出していたその目つきの鋭い男が、ちょっぴり面倒そうにこちらを振り向いた。
「…グルイザだ。おれにも名前がある」
そいつが、少しイラッとした声でこちらに告げた。
「じゃあ、グルイザッ」
「なんだ、嬢ちゃん」
「あんたたちは、好きに港に戻ればいいわ。止めるつもりはない」
「ああ。言われるまでもないな」
「でも、わたしたちは戻らない」
「ほう?」
ザクッ! ザクッ!
「おいおまえ! な、何を?」
男が混乱したようにうめいて、その場でフリーズした。
ロープ。
今そこのロープを、所持品ウィンドウから引き出してきたダガーソードで――
一瞬で三本、たて続けに切り裂いた。
バシャッ!
船のへりから海側にせり出すように、四隻ほどの木製ボートがロープで吊るして固定してあるのを、わたしは航海の最初の時点からチェックしていた。ひとつのボートに、4、5人くらいは乗れる大きさだ。おそらく救命・上陸用の小ボート。そのひとつが、今、留めていたロープを失って、夜の海上にまっすぐに落ちてしぶきを上げた。
「行くよリリア!」
わたしは船のへりを乗りこえて、その、浪間に漂うその頼りなげな木造船を視線でターゲットし―― 船の手すりを蹴って飛び降りる。
直後に、きれいに着地。
しょせんはゲームだ。リアルだと、こんな離れ業のアクロバティックな動きは絶対できないけど―― ゲーム内なら、ターゲットさえしっかりしてれば、この程度のジャンプは特に難易度高くない。
「ほら、何してるのリリア! 視線でボートをターゲット! こっち! 飛び降りて!」
「は、はい!」
瞬時に空気を読んだリリアが、わたしに続いて飛びおりてくる。
ザンッ! 着地と同時にボートが大きく揺れた。
「おい待て! おまえら、自殺行為だぞ!」
船の上から、あの黒バンダナの男がまだ何か叫んでいたけど――
無視だ。
わたしは二本のオールをかかえあげ、
それを下げて海水にひたし、
漕ぐ。漕ぐ。漕ぐ。
ボートは気持ち良いくらいに加速をはじめ、
みるみる、黒のスクーナーから離れていく。
「すごい。アリーさん、ボート、漕げるんですね??」
リリアが感心しきったように言い、うるんだ瞳で尊敬の眼差しでわたしを見つめたから、わたしはちょっぴり照れた。
「えっと。これは、漕いでるっていうより、ボートの進行方向を視線でターゲットして、あとは、漕ぐっぽいモーションをくりかえすだけで、自動でボートが進んでくれる、っていう感じ? ぜんぜん筋力いらない。もちろんリアルじゃ、ボートなんて、漕いだこともない、けれどね」
わたしは笑って説明する。
ひと漕ぎするごとに、スクーナーとの距離は、どんどん気持ち良いくらいに伸びてゆく。最後には、闇の中に溶けて、さっきまで乗っていたあのスクーナーは、もう見えなくなった。オールが跳ね上げた波のしぶきが四方に散り、顔にも少し降りかかったけれど、視覚的にそう見えるだけで、特に冷たい感触はなかった。あくまでゲームだ。ところどころ細部が適当に手抜きにできていることに、今はむしろ、安堵を覚える。大丈夫。島は危険とか言ってるけど―― あくまでこれはゲーム。ゲームの中のバーチャルな危険に過ぎないわけで―― いけるいける。問題ない。何もかもは、しょせんはゲームなんだから―― ちょっぴり内心ビビりそうになっていた自分の心を、わたしは自分でちょっぴり奮い立たせた。(エピソード2につづく)
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