14日目
母親が全ての段取りを終え、何もなくなった部屋へ帰ってくる。
本当はもう少し早く来たかったのだが、あまりの出来事で心に体が追いつかなくなってしまっていた。
十日ほど前に電話でした会話は、悪い意味でいつも通りだった。
「何もない」という近状報告を聞き、言葉に詰まり、つい謝って激昂させてしまい、電話が切れる。誕生日プレゼントの感想が聞きたかっただけなのに、それすらも上手くいかない。
誰の力も借りず自分一人で遮二無二に頑張っていたつもりだが、親として正しくあったのかという不安が、いつもあの子を怒らせてしまっていた。
35年間、いつもいつも。
何もなくなってしまっている部屋で、メロンソーダの缶をプシュっと開けた。
飲むこともなく、置くこともなく。
「晩御飯は何にしよう」
黒と茶色と白だけの部屋で、無意識にそう呟いた。
部屋に響いた自分の声でふと我に返り、部屋に唯一残された姿見で、少しだけ乱れた白髪を整え、ぬるくなったメロンソーダを一口飲む。
自分が贈ったその姿見には、息子と同じで歯並びの良くない、使い方の間違った笑顔だけが一瞬映った。
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