無限の文字使い~スキルを作って異世界無双
ただみかえで
第1章 異世界転移して世界を救えとか、裏があるとしか思えない
第1話 ほらな、言ったとおりだろう?
なんで、こんなことになったんだったか……。
馬乗りになって自分をめった刺しにする女を見上げ、朦朧とした頭で考える。
「なんで!? なんでわかってくれないの!?
私はあなたのことを、こんなにも! こんなにも思っているのに!」
女は、さっきから同じ言葉を繰り返している。
わかってくれない、って言われてもな……そもそもほとんど接点なんてなかったじゃないか。
交わした言葉なんて、一言か二言くらいしかなかったはずだぞ?
はぁ、我が親友に初めて彼女ができた、というから素直に喜んだというのに。
結局、お前も俺の『金』と『地位』が目当てだったってことか。
痛みは既に感じなくなっていた。
ああ、死ぬのか……
ろくな人生ではなかったが……終わり方までろくなものじゃなかったな……。
もし生まれ変わりなどというものがあるのなら、次こそはまっとうな人生を送らせてもらいたいものだ。
そう思いながら、俺はゆっくりと目を閉じた……。
◆
俺の名前は
なかなかに大仰な名前ではあるが、うちの家はいわゆる名家と言われる類のものであるらしく、跡継ぎとしての期待が多分に込められているのだそうだ。
実に迷惑な話だ。
跡継ぎという立場上、躾・教育も非常に厳しく、小さい頃から色んな習い事をさせられた。
ピアノ・習字・茶道などの芸術系、乗馬や柔道・剣道・合気道といった武道などの運動系、語学・数学・哲学などの勉強系。
そういえば帝王学の時間なんてのもあった。
今にして思えば、あんなもの何に使うんだ、って感じだが。
幼いころの自由時間と言えば、風呂と飯の時間しかない程の過密スケジュール。
高校に通う時分になって『ようやくいつの時代の話だよ!』って事に気づいたが、小さい頃はそれが普通だったのでその異常性に気付かなかった。
我が幼馴染にして唯一の友人が
「あとは性格さえなんとかなれば無敵なんだけどなー」
と言っていたが……余計なお世話だ。
「俺としては、この容姿もなんとかしたい所だが」
「ああ、お前
でもその方がむしろモテるんだからいいじゃん?」
「別に俺はモテたいわけじゃねぇよ。
それに――」
モテる、と言っても、結局は上辺しか見ていないやつばかりだ。
告白してくる女子は『俺というステータスを侍らせたい』としか思っていないような連中ばかりだったし、男は男で『金』か『武力』を目当てにしている連中しかいなかった。
「いやいや、いくらなんでも全員が全員そんなわけないべ」
と友人は言うが、そんなやつはお前以外いるわけがない。
親ですら、俺を道具としてしか見ていないのだから。
そして今。
馬乗りになってナイフでめった刺しにしている女を見て、その考えが間違っていないことを確信した。
「なんで!? なんでわかってくれないの!?
私はあなたのことを、こんなにも! こんなにも思っているのに!」
ほらな、言ったとおりだろう?
ああ、しかし。
このまま死ぬのは嫌だなぁ。
ついこのあいだ、ようやく大学を出て起業したばかりだっていうのに。
うちの親の会社を潰す計画が水の泡じゃないか。
手塩にかけて育てた
それに。
あいつ、なんて顔するかな。
我が幼馴染にして唯一の友人で、生涯のパートナーたるべきあいつ。
ついに初めての彼女ができた! といって喜んでいた気の置けない友人。
今度お祝いにいい肉をおごれ、と言っていたが、うーん、この姿は見られたくないな。
なにより。
その『初めてできた彼女』が実は俺に近づくためだけに告白してきたとか、それがうまく行かなかったから逆上して俺を刺した、とか、返り血で真っ赤になってるところ、とか。
ヤツのトラウマになるような最期は嫌だなぁ。
まぁ、そんなこと言った所でどうしようもないか。
ほんと、ろくでもない人生は最後までろくでもなかったな。
もし生まれ変わりなどというものがあるのなら、次こそはまっとうな人生を送らせてもらいたいものだ。
……って、ちょっと待て。
いくらなんでも、死の間際が長過ぎないか?
ゆっくりと目を開ける。
……ここはどこだ?
さっきまで部屋でめった刺しにされている所だった気がしたが、なんでこんな何もない真っ白な部屋に立ってるんだ?
壁は……見当たら、ない??
なんだこのやたらでかい空間は……。
その時。
「あなたは、あやうく死ぬところげふぅっ!!!」
突然、後ろから声がかかり……つい条件反射で後ろ回し蹴りを決めてしまった。
うん、我ながらキレイな蹴りだ。
……まさか放物線を描いて飛んでいくとは思わなかったが。
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