無限の文字使い~スキルを作って異世界無双

ただみかえで

第1章 異世界転移して世界を救えとか、裏があるとしか思えない

第1話 ほらな、言ったとおりだろう?

 なんで、こんなことになったんだったか……。

 馬乗りになって自分をめった刺しにする女を見上げ、朦朧とした頭で考える。


「なんで!? なんでわかってくれないの!?

 私はあなたのことを、こんなにも! こんなにも思っているのに!」


 女は、さっきから同じ言葉を繰り返している。

 わかってくれない、って言われてもな……そもそもほとんど接点なんてなかったじゃないか。

 交わした言葉なんて、一言か二言くらいしかなかったはずだぞ?


 はぁ、我が親友に初めて彼女ができた、というから素直に喜んだというのに。

 結局、お前も俺の『金』と『地位』が目当てだったってことか。


 痛みは既に感じなくなっていた。

 ああ、死ぬのか……

 ろくな人生ではなかったが……終わり方までろくなものじゃなかったな……。

 もし生まれ変わりなどというものがあるのなら、次こそはまっとうな人生を送らせてもらいたいものだ。


 そう思いながら、俺はゆっくりと目を閉じた……。





 俺の名前は大神おおかみ 天照あきてる

 なかなかに大仰な名前ではあるが、うちの家はいわゆる名家と言われる類のものであるらしく、跡継ぎとしての期待が多分に込められているのだそうだ。

 実に迷惑な話だ。


 跡継ぎという立場上、躾・教育も非常に厳しく、小さい頃から色んな習い事をさせられた。

 ピアノ・習字・茶道などの芸術系、乗馬や柔道・剣道・合気道といった武道などの運動系、語学・数学・哲学などの勉強系。

 そういえば帝王学の時間なんてのもあった。

 今にして思えば、あんなもの何に使うんだ、って感じだが。

 幼いころの自由時間と言えば、風呂と飯の時間しかない程の過密スケジュール。

 高校に通う時分になって『ようやくいつの時代の話だよ!』って事に気づいたが、小さい頃はそれが普通だったのでその異常性に気付かなかった。


 我が幼馴染にして唯一の友人が

「あとは性格さえなんとかなれば無敵なんだけどなー」

と言っていたが……余計なお世話だ。

「俺としては、この容姿もなんとかしたい所だが」

「ああ、お前童顔ベビーフェイスだもんなぁ。

 でもその方がむしろモテるんだからいいじゃん?」

「別に俺はモテたいわけじゃねぇよ。

 それに――」


 モテる、と言っても、結局は上辺しか見ていないやつばかりだ。

 告白してくる女子は『俺というステータスを侍らせたい』としか思っていないような連中ばかりだったし、男は男で『金』か『武力』を目当てにしている連中しかいなかった。

「いやいや、いくらなんでも全員が全員そんなわけないべ」

と友人は言うが、そんなやつはお前以外いるわけがない。

 親ですら、俺を道具としてしか見ていないのだから。


 そして今。

 馬乗りになってナイフでめった刺しにしている女を見て、その考えが間違っていないことを確信した。

「なんで!? なんでわかってくれないの!?

 私はあなたのことを、こんなにも! こんなにも思っているのに!」

 ほらな、言ったとおりだろう?


 ああ、しかし。

 このまま死ぬのは嫌だなぁ。

 ついこのあいだ、ようやく大学を出て起業したばかりだっていうのに。

 うちの親の会社を潰す計画が水の泡じゃないか。

 手塩にかけて育てた跡継ぎどうぐに裏切られた時の顔を拝みたかった。


 それに。

 あいつ、なんて顔するかな。

 我が幼馴染にして唯一の友人で、生涯のパートナーたるべきあいつ。

 ついに初めての彼女ができた! といって喜んでいた気の置けない友人。

 今度お祝いにいい肉をおごれ、と言っていたが、うーん、この姿は見られたくないな。


 なにより。

 その『初めてできた彼女』が実は俺に近づくためだけに告白してきたとか、それがうまく行かなかったから逆上して俺を刺した、とか、返り血で真っ赤になってるところ、とか。

 ヤツのトラウマになるような最期は嫌だなぁ。


 まぁ、そんなこと言った所でどうしようもないか。

 ほんと、ろくでもない人生は最後までろくでもなかったな。

 もし生まれ変わりなどというものがあるのなら、次こそはまっとうな人生を送らせてもらいたいものだ。


 ……って、ちょっと待て。

 いくらなんでも、死の間際が長過ぎないか?

 ゆっくりと目を開ける。

 ……ここはどこだ?

 さっきまで部屋でめった刺しにされている所だった気がしたが、なんでこんな何もない真っ白な部屋に立ってるんだ?

 壁は……見当たら、ない??

 なんだこのやたらでかい空間は……。


 その時。

「あなたは、あやうく死ぬところげふぅっ!!!」

 突然、後ろから声がかかり……つい条件反射で後ろ回し蹴りを決めてしまった。

 うん、我ながらキレイな蹴りだ。

 ……まさか放物線を描いて飛んでいくとは思わなかったが。

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