宇宙風邪はどう治すか?
宇宙風邪はどう治すか?1
はじめは、その違和感について、正しく認識することができませんでした。身体も心も元気である、にもかかわらず、なにかが違う。もちろん、ここは宇宙ですから、数ヶ月前までいた地球とは勝手が違いますので、慣れ不慣れの問題かと気にも止めていませんでした。
それでも、わたしの意識は次第に中へ中へと吸い込まれていくようでした。それはまるで、海底へゆっくりと沈んでいくような、あるいはブラックホールのようなある一点に吸い込まれていくような、うまく説明できないのですけれども、そんな感覚でした。
端的にいうと、以前と比べ内省的になった、ということだと思います。
いえ、ただ、一寸ばかり、といった程度ではないのです。毎日少しずつ、でも、劇的に、ということです。
何故わたしは宇宙に来たのか、どこへいくのか。何故、他の誰でもなく、わたしがこの仕事をするのか。何故わたしは生きているのか。
何故、何故、何故、何故。途方もない何故何故問答が、絶え間なくわたしに襲いかかってくるのです。頭はもうハテナだらけ。そのころになってはじめて自覚したのです。なにかがおかしい、と。
それらのような答えのない問題は、地球にいるときには考えたこともありませんでした。
それは、地球ほど、私たち人類の問題が煩雑ではないから、あるいは宇宙の器の大きさからそんな余裕ないし心の隙が出来てしまったからかもしれません。
つまり、地球は個々の関係性を重視するため問題が複雑化することに対して、宇宙は極力シンプルである、そのことに起因してその病を生み出したのだと考えます。いえ、正確に言いますと、一対一で形成されたネットワークで生きることに慣れすぎて、一対宇宙というスケールの違うものとの対峙で発生した畏怖のような感覚に近いのかもしれません。
あるいは、ホームシックの一種なんでしょうか。自国を離れることによって、自身のナショナリティが浮き彫りになっていくような、その自分の根源のようなものが宇宙によってゆるがされている、ノンカルチャーによるカルチャーショックのような、まさにそんな感じです。
きっと、この病に処方される薬はなく、経過観察が有効かと考えられます。
地球いたときのように対人と関係性を保つことにより、宇宙との対峙を極力避け、宇宙の狂暴性を薄めるのが一番かとおもいます。
ピクニック、とかがいいらしいと、どこかの雑誌で読みました。今のわたしなら、娯楽の重要性は身に染みてわかります。
でも、一度この感覚を知ってしまったら、知らないときには戻れません。やはり、時たま、宇宙風邪の症状は出てしまいます。
そんな時は、受け入れるしかありません。
そう、受容です。宇宙のような寛大な心で、すべてを許すのです。わたしも、宇宙も。
なにも、恐れることはありません。
わたしが穏やかであれば、宇宙も鏡のように穏やかでありつづけますから。
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