兄妹勇者の回想録

水管みく

第1章

第1話 プロローグ

 


 それは、突然起こった。


「お兄ちゃんー」


 と呼びながら手をふる妹、俺はそれを見て手をふり返した。

 どうやら俺の事を迎えに来てくれたらしい。

 俺は妹と合流するために、道路の反対側にいる妹に向かって歩きだした。


「遅いよ、もう!」


 とは妹の一言である、迎えを頼んだ覚えはないけどな。


「すまん、すまん、今日は人が足りなくてな、手伝っていたら遅くなった」


 一応謝った。

 俺、勇内秋嶺ゆうちあきみね、19歳。

 特にやりたいこともなく高校を卒業し、大学へいくも1年も立たずに中退、最近コンビニでバイトを始めたところだった。

 ちなみに、妹は10歳で名前は秋華あいかである。


「そんなんじゃ、毎回頼まれて帰れなくなるよ?」


 彼女は不満そうな顔をして言った、確かにそうかもしれない気を付けなければ。


「そうだな、次からは気を付けるよ」


 と、そんなやり取りをして帰路についた。


 家は3駅ほど隣にあり、駅から歩いて5分の所にあるアパートの2階1番奥の部屋で家族4人で住んでいる。

 今は、仕事で両親が出掛けているため秋華と2人で過ごしている。


 帰路の途中、俺は家に食材が何も無いことを思い出し、何か買って帰ろうと目線を彼女に向けた。


「秋華、適当に飯でも買って帰るか?」


 俺はそのままスーパーに目線をずらした、すると彼女は目を輝かせ嬉しそうにスーパーに入っていった。

 そんな彼女の後ろ姿を見てまだまだ子供だなと笑いながら後を追った。

 

 俺はスーパーに入り、買い物かごを片手に弁当が並んでいるコーナーへと足を運んだ。

 うーむ、どれにしようか? 焼き肉弁当か? それとも……

 なんて迷っていると後ろから声が聞こえた。


「……助け………………様……」


 驚き後ろを振り返った……しかし、俺と同じく迷っている秋華の姿しか見当たらなかった。


「どうしたの? お兄ちゃん?」


 彼女は首をかしげて聞いてきた。


「今、何か聞こえなかったか?」


 俺は彼女の質問に質問で返した、すると彼女はさらに首をかしげた。


「何も聞こえなかったけど、お兄ちゃんバイトのやり過ぎで疲れてるんじゃない?」


 うーん? 確かに何か聞こえた気がしたんだが……、疲れてるんだろうか? 秋華も聞こえなかったと言っているし気のせいだなきっと。

 俺はそのまま気にせず買い物かごに弁当を入れレジへと向い、会計を済ませた。


「先に行ってるね、お兄ちゃん」


 と彼女は走りながら駅へと向かって行った、俺もビニール袋に弁当を詰め、駅へ向かった。


 駅へ向かう途中、「キー」と電車のブレーキ音とアナウンスが聞こえたため、小走りでホームへと急いだ。


「駆け込み乗車はダメだよ? お兄ちゃん」


 俺は彼女に怒られた、恥ずかしい。


「ごめんなさい」


 と、一言。

 これじゃあどっちが年上か分からんなと思い席に腰かけた。

 

 その時だった、俺は周りを見渡し違和感を覚えた、車内には俺と秋華しかいないのである。

 同じ車両だけならまだあり得るかもしれないが、隣の車両もその隣車両にも誰一人乗って居なかったのである……時間も18時を少し回ったぐらいであり、この辺は都会である。

 どう考えてもおかしい、そんなことを考えている時だった。


「停止信号です、しばらくお待ちください」  


 電車のアナウンスが入った、嫌な予感がした。


 それから10分も電車は止まったままだった。

 俺はやっぱり何かがおかしいと思いつつも何が出来る訳でもないので、電車が動くのを窓の外の住宅街を見ながら待っていた、彼女は疲れたのか眠ってしまっていた。


「にしても、動くの遅いな」


 そんなことを言った矢先だった。

 窓の外の住宅街が一瞬で消え暗闇となったのだ、俺は直ぐに彼女を起こそうとしたが急激な睡魔に襲われ、その場に倒れた。

 

「っ! 体が動かねえ、意識が…………」


 俺は意識が遠のいていく中、秋華に手を伸ばしたがその途中で意識を失った。


 

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