Act7.ビジネスホテル
ツアー初日、刹那はスマホにセットした目覚ましよりも三時間早く眼が覚めてしまった。もう一度寝ようとしたが、眼がドンドン冴えていき、あきらめてイベント内容の確認をして時間を潰すことにした。
今日から始まるイベントは、これまで経験して来たものとは全然違う。声優になってファンレターの数、ホームページへの書き込みが増えていた。
娑羯羅様さまよね。
『鬼霊戦記』は異世界から来た主人公鳳羅須が、敵対勢力の鬼霊と呼ばれる異能力者と戦いながら、女神である姉の彩香の命を狙うというストーリーだ。
刹那の演じる娑羯羅は、鳳羅須と同様に神の血を引く鬼霊で、物語の重要な役割を担っている。
補足すると、舞桜の演じる光奈は、彩香の親友で鳳羅須の閉ざされた心を開くヒロイン。
小岸が演じる徳叉迦は、いわゆるオネエキャラだが、ユーモアだけではなく底知れない恐ろしさを感じさせる。娑羯羅との絡みが一番多いのも彼だ。
芝居の経験が無い刹那に、よく娑羯羅を任せてくれたと思う。実際、周りにとても迷惑をかけた。
それでも、監督を含めたスタッフや声優陣が我慢強く導いてくれた。他の作品ではこうは行かなかったかもしれない。
声優、続けたいな。
アイドルも拝み屋も自ら進んでやりたいと思った事はない。ただ、自分で選択した義務感と責任感から続けてきた。それに対し、声優は初めてやり甲斐と喜びを感じている。
そのためにも、『鬼霊戦記』は何としても人気作品になって欲しい。今、自分に出来ることは、このツアーイベントを成功させるために頑張ることだ。
ふと気付くと予定の時間が近づいていた。
昨夜買っておいた朝食を準備する。
早紀と舞桜に勧められた郡山発祥の菓子パン、クリームボックス。これは面積は小さいが分厚い食パンにミルククリームが乗っている。クリームの表面は固まっているので、入っているプラスチック袋にも付着せず食べやすい。
そして、飲み物は福島の牛乳メーカー酪王のカフェオレだ。
舞桜は最強タッグと言っていたが、たしかに美味しかった。帰りがけに叔母のお土産にしても良いかもしれない。
朝食を終えると、寝間着にしているTシャツとハーフパンツを脱いでシャワールームに入った。
入念に身体を洗い、最後に水を浴びた。
「よし!」
パンッ、パンッ、と両手で自分の頬とお尻を叩いて気合いを入れる。
身支度を調えると刹那は部屋を後にした。
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