最終章は託された
台所醤油
第◼️◼️◼️章
エピローグ
「これで……終わりだっ!」
勇者の持つ聖剣が魔王を穿つ。魔王は血を吹き出し、そのまま崩れ落ちる。
──遂に、魔王を倒した。
世界を滅ぼす元凶、絶望と災厄の具現。避けられぬ死を意味する魔王は遂に討たれたのだ。
これまでの犠牲は無駄じゃ無かったんだ。
助けられたであろう人々を失い、大切な人を見捨て、己の一部を代償としてようやく届いた魔王への王手。
──これで世界に平和が訪れる。これで、遂に──
「──なぁーんて、思っていないですかぁ?」
勇者への嘲りと共に現れた女神。その髪は七色に輝いており、人外の美貌が彼の全てを狂わせる。彼女の嘲り一つですら彼にとっては何者にも変え難い宝へと変貌する。光の失われた彼の眼を満足そうに見つめながら、滑稽だと嘲笑い女神は続ける。
「今までぇ、たぁっくさんの神託を与えてきましたけどぉ……これが最後の神託ですぅ。……もう貴方は死にますぅ。どう頑張っても貴方の存在はきえちゃいますぅ!おっ疲れ様でしたぁ!ふふふっ!」
彼女が勇者へと手をかざした瞬間、魔王から放たれた黒いモヤが勇者の身体を、魂を蝕む。
──自分が自分で無くなる。その恐怖すらも神の使徒である彼には心地よく感じてしまう。
──たっぷり十分、女神が消えた大広間で一人の青年が呟く。金色だったはずの髪の毛は白く染まり、真紅の瞳は世界を、人類を弄ぶ者への憎悪が溢れ出ていた。
「……これで条件は整った。嗤っていられるのもここまでだ。クソ女神。」
己が持っていた聖剣を叩き折り、木の棒を呼び出した青年は棒を地面に突き刺す。
──その瞬間に現れたのは大広間全てを埋め尽くす程に巨大で緻密な魔法陣。人類の限界を鼻で笑う程に濃密で膨大な魔力が青年の身体から放出され、それに同調して魔法陣が光り輝く。
「──ちっ。やはり魔法じゃ干渉されるか。召喚出来ても何時来るかがまるで見当がつかねえ。しかも召喚場所すらもズラされてる。……まぁいい。やらないよりはずっとマシか。後は死なないようにアイツらを送り込もう。何処か一箇所ぐらい当たるはずだ。」
光り輝く魔法陣が消失し、彼がこれまで得た全ての力が失われた。残されているのは一本の木の棒のみ。それでも彼は──魔王は諦めない。全てを失っても、禁忌を犯そうとも彼は戦い続ける。
──それが、彼に残された唯一。幾千幾万の死体とその中に眠るほんの少し──それでも決して壊れることの無い意志が彼を突き動かす。
「……さぁ、ここから先はてめぇの為の物語じゃねえぞ。ここから先は人類の為の物語だ。……人類に神は要らねえんだよ。」
──宣言は誰にも聞かれることが無く、虚空に溶けた。
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