トイストーリー4を観終えて。

T_K

トイストーリーだけでなく、現代社会を比喩したアンチテーゼ

まず観終えて思ったこと。


「トイストーリーにこんな重いメッセージを持たせる必要が本当にあったのか」


これが一番初めに浮かんだ言葉でした。


レビューを書き始めて、段々と整理がつき、最終的に出た僕の結論。



「トイストーリーだけでなく、現代社会へのアンチテーゼ。

それを表現出来る最良のコンテンツがトイストーリー4なんだ」





トイストーリー4(以下4)は今までのトイストーリーとは全く違います。


作品全体に漂う違和感。

この違和感の正体はなんだろうか。


それぞれの作品が描いてきたものはなんだろうかと考えてみた。


初代トイストーリー(以下1)ではバズや仲間達との友情を。


トイストーリー2(以下2)では価値観や存在意義と言った脆くも強い内面を。


トイストーリー3(以下3)では別れと出会い、

そして信じるべきものは何かを描いています。


3作品全てに判り易く共通する事は、必ず悪者(以下ヴィラン)がいる事です。


1ではシド。これはもう判り易すぎる悪。

おもちゃ達に対して極悪非道な仕打ちをし続けています。

ご存知の通り、最後はおもちゃの掟を破ったウッディー達に懲らしめられます。


2ではプロスペクターとおもちゃ屋のアル。

プロスペクターは存在意義に囚われた悲しいおもちゃであり、

2最大のヴィランとして君臨します。

最後は自分が思っていたものとは違うカタチで存在意義を与えられますが、

結果として、救われたのではないかと僕は思います。


アルに関しては、単純にお金儲けしか考えていない為、

あくまでウッティー達とは間接的にしか関わり合いがありません。

因果応報で失業というカタチであっさりと片付けられます。


3ではロッツォ。トイストーリーシリーズ史上でも最悪のヴィランです。

結局最後まで更生する事はなく、トラックに張り付けられ去っていきます。

変わる事のなかった、悲しい悪役です。


では、4のヴィランは?

パッと思いつくでしょうか?


そうなんです。



4には明確なヴィランが存在しません。



作品をご覧になった方は判るかと思いますが、

アンティーク人形のギャビー・ギャビーはただ人に愛されたかっただけであり、

最終的には話し合いの結果、ウッディーからボイスレコードを貰っています。

ステレオタイプなヴィランであれば、

無理やりにでもウッディーからボイスレコードを奪いとっているはずです。

また、そのチャンスはいくらでもあったはずなのです。

ヴィランとしてはあまりにも弱い。

ただ、ギャビー・ギャビーに関しては後程考察を書きます。


では、本当に4にはヴィランが存在しないのでしょうか。


いいえ。


この作品には紛れもなくヴィランが存在しているのです。



しかも、恐ろしい程、大勢・・・存在しているのです。



順々に紐解いていきましょう。


まずは1人目は、現ウッディーの持ち主であり、

今作のキーパーソンでもあるフォーキーを作った、


ボニー。


何故彼女がヴィランに?


そう思う方もいらっしゃるかと思います。


しかし、3が好きな方ならすぐピンと来たかと思います。


このボニー、3からもその描写があったのですが、


「極度の人見知り」


なのです。


そもそも初登場も、保育園で母親と一緒にいるシーンから始まります。


3を見返してみると分かるのですが、

ボニーが友達と遊んでいるシーンはほぼ映っていません。


だからこそ、おもちゃととても仲良く遊んでくれます。


が、成長していくにつれ、

実はアンディーよりもおもちゃに対して無頓着なのも事実なのです。


3以降のスピンオフ作品にはその様子がきちんと描かれています。


「おもちゃを放置する」

基本的におもちゃの回収はボニーの母親がしています。

これはスピンオフほぼ全ての作品でその描写になっています。


「おもちゃをカバンごと投げ飛ばす」

3でも遊ぶシーンで頬り投げていますよね。

ベッドへ着地させる様に考えて遊んではいますが、

これもアンディーでは有り得なかった描写です。


スピンオフである、

トイストーリー謎の恐竜ワールドでは友達のメイソン宅に来た際、

メイソンからテレビゲームに誘われて、カバンを放り投げてしまいます。


4ではその無頓着な様子がかなり露骨に描かれていきます。


4の冒頭シーン。

ウッディーが部屋から居なくなった事にアンディーはすぐ気が付きます。

夜、強めの雨が降るなか、傘もささずにアンディーは家から飛び出し、

必死でウッディーを探します。


一方、ボニーは4になると、自分が作ったフォーキーだけは執拗に探しますが、

ウッディーは疎か、バズやその他のおもちゃに関しては完全に無関心です。


2や3でも同じ様に成長した子供とおもちゃの別れのシーンが描かれていますが、

それとは全く意味合いの違う描き方がされています。


2ではジェシーの持ち主であるエミリーが登場しますが、

エミリーは成長するまでは本当に大切にジェシーと遊んでいます。

手放した理由は、大人になってしまって、ファッションに興味を持ったから。


3ではアンディーの妹のモリーが、携帯ゲームや音楽に興味を持ち、

バービー人形を何のためらいもなく手放しています。


エミリーやモリーに共通するのは、他に興味を持つものが出来たからです。

これは人が成長する上で必ず通る道であり、避けられないものです。


これに関して、ウッディーやバズ、ボーピープだけでなく、

ほぼおもちゃ全員が理解したうえで、おもちゃとして生きています。


しかし、エミリーやモリーは、

成長するまで非常に大切におもちゃを扱っていた事も判ります。

ジェシーやバービーが全く劣化していない状態なのは、

それまでちゃんと愛されてきた証拠です。


一方、ボニーの場合、何か他のものに興味を持つものが出来た描写はありません。

単純に子供だから仕方ない、

そういうものだと片付けざるを得ない描写になっています。


「子供だから仕方ない」


果たして本当にそれで済ませていいのだろうか。



僕が子供の頃、おもちゃなんて滅多に買って貰えなかった。


だから、買って貰ったおもちゃは本当に大事にした。


すぐ遊ばなくなると遊ばなくなった事に対して親から怒られたりもした。


おもちゃの大切さや物の大切さを教えて貰っていた。


今は、何でもある時代。


手に入れようと思えば、中古品なら幾らでも安く手に入るし、

必要がなくなれば、また売ってしまえば良い。


”物理的には”満たされた時代とも呼ばれる程。


満たされているからこそ、

本当の価値を理解する必要がなくなっているのかもしれない。



ボニーを振り返ってみてください。


沢山のおもちゃに囲まれており、物理的にはかなり満たされている事が判ります。

おもちゃ自体の入手は母親が勤めるサニーサイド保育園にて、

恐らくボニーが気に入ったものを持って帰ってる様です。


その為なのか、ボニーには特にこのおもちゃがお気に入り!

と言う意思があまりありません。


4ではウッディー以外にも、遊んで貰えないおもちゃが多数登場しています。


ボニーにとっては、恐らくそれが日常茶飯事なのではないでしょうか。


勿論、アンディーも遊ばなくなったおもちゃを手放す場面が多数登場しますが、

アンディー自体はどのおもちゃも大切にしている様子が伺えます。


2でヤードセールに掛けられそうになったウィジーも、

壊れていたから母親に売られそうになっただけで、

壊れていなければまだまだ活躍していたでしょう。


3で兵隊のおもちゃ軍曹が言う様に、アンディー家では

壊れたり、掃除機に吸い込まれたりして処分される事が多かった様ですしね。


無くても変わりはいくらでもあるし・・・。

おもちゃに対して、ボニーはそんな印象なのかもしれません。



しかし4では、そんなボニーに初めて特別な存在が出来ます。



それが先割れスプーンで作られたフォーキーなのです。


ボニーにとって、フォーキーは今現在唯一の特別な存在です。


しかし、フォーキーが作られた経緯は複雑です。


そもそも初めての幼稚園で友達が出来ず、

それを紛らわす為に作られたのがフォーキーなのです。


フォーキーは身体の全てがゴミで作られています。


その為か、フォーキーは事ある毎に自分はゴミだからとゴミ箱へ突進していきます。


これは、悲しいかな、フォーキーの行く末を暗示しています。


何故なら、ボニーにとって、フォーキーはその場しのぎの存在でしかないからです。


メイソンの様な友達が幼稚園でも出来れば、

ボニーはきっとその友達が特別な存在へと変わり、

フォーキーはゴミとしてあっさりと捨てられる事でしょう。


おもちゃ達にも、ボニーにとっても予期せぬカタチではありますが、


結果的にボニーは


4の作品中、最悪のヴィラン役も担ってしまっています。




2人目はボニーの父親です。



トイストーリーに誰かしらの父親が姿を現すのは初めてではないでしょうか。


このボニーの父親。


おもちゃに対して恐ろしい程無関心です。


ウッディーの顔は踏むし、フォーキーはまた作れば良いと言い放つ等、


ボニーのおもちゃに対する無関心さは父親似だと断言したくなる程に無関心です。


作中ではおもちゃ達と直接的関わり合いはないものの、

非常に厄介な存在として描かれています。


バターカップがやたら刑務所に入れたがるのも分かる気がします。


また、作品の違和感に一役買っているのもこの父親だと僕は思います。


「無関心」


これ、現代には様々な要素に当てはまるのではないでしょうか。



そしてこの作品最後にして最大のヴィラン。



それは、トイストーリー4を観ている



「僕達・私達」です。



先程、僕は


「今は、何でもある時代。

満たされているからこそ、

本当の価値を理解する必要がなくなっているのかもしれない」


そう書きました。


これは間違いなく、自分自身にも当てはまっていると思います。


小さい頃は本当におもちゃを大切にしていました。


でも、今はどうだろう。


大人になって、欲しいものが頑張れば買える様になった。


確かに、物理的には満たされているかもしれない。


けれど。


本当に何かを大切にしているのだろうか。


本当の価値を理解しようとしているのだろうか。


本当は既に持っている大切なものを、


ただ直視せず、蔑ろにしているだけじゃないのだろうか。


ギャビー・ギャビーも、


そんな時代を比喩した存在なのではないかと僕は考えました。


ギャビー・ギャビーが表すもの、それは


「承認欲求」


ギャビー・ギャビーは自分が完ぺきな状態であれば、


きっとアンティークショップの孫娘、ハーモニーに愛されると思っていました。


ウッディーのボイスレコードを手に入れ、

完ぺきな状態になったギャビー・ギャビー。


しかし、悲しい事に、ハーモニーはギャビー・ギャビーを受け入れる所か、


完全に拒絶してしまいました。


理想の自分になったはずなのに。


これって、よくよく考えてみれば現在のSNSに近いのではないでしょうか。


つまり、見方を少し変えれば、


ボニーや


ボニーの父親や


ギャビー・ギャビーと同じ事を


僕はしているのではないだろうか。


そう思えて仕方ないのです。



では、


「トイストーリー4が現代社会を比喩したアンチテーゼ」


と提言した


”アンチテーゼ”とは何なのか。


それこそ、4の主役である、


ウッディーに他なりません。



もしかすると、4のウッディーに対して、

あまり良い印象を持ってない方もいらっしゃるのではないでしょうか。


今まであれだけおもちゃとしての誇りを持っていたはずなのに、

ボー・ピープと再会しただけで、ボニーを捨て、

ボーと共に旅立つ選択なんかしたんだ!と。


しかし、思い返してください。


この作品で、そして今までの作品でウッディーが何をしていたか。


1ではバズや仲間達を助ける為に、自分の身を犠牲にしてまで

ウッディーは様々な困難を乗り越えました。


2ではプレミア商品のウッディー人形と言う、

絶対的な価値を手に入れたにも関わらず、

ただの子供のおもちゃで居続け、

やがて子供は大人になっていくという運命すら受け入れる決断をしました。


3では、残された皆のリーダーとして、最愛のアンディーとすら別れてまで、

新しい旅立ちをする為に奮闘しました。


4のウッディーはどうだったでしょうか。


実は1~3、全ての要素が含まれていた事にお気付きでしょうか。


ギャビー・ギャビーに対して、

ウッディーは大切なボイスレコードを無償で提供しています。


フォーキーを助けるという目的があったのは勿論ですが、

ギャビー・ギャビーの話を聞いたうえで、自らボイスレコードを捧げています。


また、ジェシーに対しては保安官のバッジを譲り渡しています。


これらは2での「ウッディーはプレミア商品」という

絶対的な価値を得る為に欠かせないアイテムです。


ギャビー・ギャビーが言う通り、

アンティーク品のおもちゃがクリアな状態で喋る事は極めてレアなはずです。


ジェシーが劇中に紐を引っ張って喋るシーンがない為、

もしかするとジェシーすら正常なボイスレコードではなかったかもしれません。


また、保安官バッジはウッディーの大切なアイデンティティーである

「保安官」

を示す大切なアイテムです。


ウッディーは4で

「絶対的な価値」と「アイデンティティ」

の2つを分け与えるという、素晴らしい決断をしているのです。


これには1と2の要素が含まれていますね。


また、アンディーと別れたウッディーにとって、

ボニーは新たな最愛の人でありました。


だからこそ、ウッディーはフォーキーがボニーにとって

最も必要な存在であるとすぐに見抜き、

フォーキーの為に自ら危険を顧みず、率先して救出に向かっています。


フォーキーを救出し、ボニーが安心した事が判り、

また、バズからも「彼女はもう大丈夫」と伝えられた事で、

ボーと共に新たな旅へ出る決断をしました。


「最愛の人との別れ」これは3の要素ですね。


そして一番大事な事が、新たに表現された要素


それが今回追加されたテーマ曲である


「君のため」


これはトイストーリー全体の根幹にあるテーマだったと思います。


それは4でも変わりません。


ウッディーは1から4まで一貫して、


「アンディーのため」


「ボニーのため」


と言い続けてきました。


それはまるで、自分を奮い立たせるかの様に。


それは周りの仲間にも伝わり、影響を与えていました。


「ウッディーならどうするか」


バズを筆頭に仲間達が良く口にする言葉です。


しかし、


「君のため」


この言葉は、ウッディーにとって、


「弱さ」


でもありました。


「誰かのため」


もしそれが意味を為さなくなったら?


ただ自分のエゴではないのだろうか。


ボニーが大事にしているフォーキーを守る事は、


間接的に見れば、自分の為ではないだろうか。


ウッディーにはそんな葛藤がずっとあったのではないかと思います。


フォーキー救出作戦が1度失敗した時、ウッディーは思わず叫んでしまいます。


「俺にはこれしかないんだ!」


この言葉は、ウッディー自身を変える決定的な言葉にもなっています。


「君のため」


が、いつの間にか


「自分のため」


になってしまっていたと、ウッディーが気付く瞬間です。


ウッディーはこれ以降、


「ボニーのため」


と口にする事がなくなってきます。



これはウッディーがボーと再会し、新たな世界を知り、


新しい世界に生きる決断をする決意を固めつつある事を表していました。


久しぶりに出会ったボーは、


自分が見ていたものとは違う世界を見せてくれました。


1つの事に拘っていた自分が解放されていく。


ウッディーはそんな気持ちになれたのではないでしょうか。


ウッディーの変化に伴い、すぐ側にいたバズにも変化が現れていました。


今までバズは


「ウッディーならどうする」


に囚われており、ウッディーとは違うカタチで狭い世界を見ていました。


しかし、ウッディーに「内なる声を聞くんだ」と言われ、


意味の捉え方こそ違うものの、バズはバズで新しい世界が開けていました。


ウッディーとバズが別れる際、


「彼女はもう大丈夫」


とバズはウッディーに声を掛けます。


この言葉には様々な意味が込められていると僕は思います。


彼女=ボニー


な事は言うまでもないです。


大丈夫=バズも、ジェシーも、スリンキーも、他の皆も大丈夫だよ。


そんな意味合いがあると思いました。


今までウッディーに頼りっきりだった仲間達は、

誰一人、ウッディーを止めようとしませんでした。


3の様に


「また会おう」


とも言いませんでした。


そして、最後の最後に出てくるバズの決めセリフ。


「無限の彼方へ」


「さぁ行くぞ」


今までこの言葉はどちらか1人が言っていたはずです。


初めてお互いに離れた場所で言い合うカタチになりました。


会わなくても、仲間達は繋がっている。


だから、もっと自由に生きよう。


それぞれのカタチで。


それぞれの世界で。


あの一言は、トイストーリー4でなければ表現出来ない言葉だと思います。


今までの冒険が、生活があったからこそ、あの言葉には深みが加わります。



4のウッディーは現実世界に置き換えると、聖人の様な存在です。


他人の為に身を挺し、奉仕し、他人を思う心がある。


それは確かに理想かもしれません。


でも、ウッディーの様になる必要はありません。


それはバズ達が体現してくれています。


それぞれの世界、


それぞれの生活、


それぞれの考え方があります。


ただ、少し新しい世界を見てみるだけで良いんです。


何かをすれば、変わっていく。


それが皆の無限の彼方へと続いていく。


自分が行った事で何かが、誰かが変わる。


ギャビー・ギャビーみたいに一番初めは悪い事が起こるかもしれない。


拒絶されるかもしれない。


でも、世界には沢山の出会いがある。


もう1度動いてみれば良い。


そうすれば、無限の彼方へと続いていく。


ウッディーはそう教えてくれました。


おもちゃ達でさえ、自由に生きているんです。


人間達だって、もっと自由に生きてみませんか?


大切な事はすぐ近くにある。


それに気付ければ、無限の彼方はすぐそこだ。


「無限の彼方へ、さぁ行くぞ」

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