1998年のハイテク人情回路
ブリモヤシ
プロローグ
サラリーマンは企業の奴隷と言われている。だが、それは違う。
奴隷以下だ。
奴隷なら反乱を起こし、支配者を殺して自由になれる。しかし、現代のサラリーマンにそれはない。
奴隷の反乱など不可能なこと……そう思うだろうか?
1839年に、カリブ海で起こったアミスタッド号事件。奴隷輸送船で運ばれていた黒人奴隷たちが、折れくぎで足枷の錠をはずし、船長を殺して船を乗っ取った。これはアメリカ史に記されている。
この反乱はアメリカ海軍に鎮圧され、奴隷たちは逮捕された。だが、海軍の包囲をすり抜けて脱出した数人が、無人島に泳ぎ着いたことは知られていない。
この奴隷たちは後に海賊となる。アウトロー集団である海賊の社会は、意外にも平等主義的であったことが、ジョージメイソン大学ピーター・リーソン教授の研究で明らかになっているが、海賊たちは黒人奴隷を差別せず、メンバーの一員として平等に受け入れた。こうして奴隷たちは自由を手に入れたのだった。
ある時、海賊仲間から宝飾彫金技術を学んだ一人の(元)奴隷が、自分の壊れた足枷に強奪品の宝石をふんだんにあしらって、今でいうオブジェのようなものを作った。グロテスクな美しさを放つその足枷は海賊たちの心を捉え、自由のシンボルとして彼らの船の操舵室に飾られ続けた。
後に船は嵐で沈んだが、1960年後半に発見され、引上げが行われた。積まれていた財宝は回収されたが、足枷だけは見つからなかった。船長の日誌には足枷の記述があるにもかかわらず、出てこなかったのだ。
それ以来、この足枷は、世界の歴史家と美術品収集家の垂涎の的となった。
さらに時は流れて、1998年の春……
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