第18話 妖狐、再び

「ルンルルン~。」

 カロヤカさんたちは、鼻歌を歌いながら気持ちよく歩いて、富士山を目指している。

「喉が渇いた。水面、何か飲み物をちょうだい。」

「はい。どうぞ、冷たい飲み物です。カロヤカさん。」

 水花の水の鎧の力で、飲み物を好きなだけ出すことができる。

「水面だって。カロヤカさん、みなもって、ちゃんど呼んであげなさいよ。」

「いいのよ。みなもは私のパシリよ。いじめて、いじめて、いじめ抜いてやる。」

 カロヤカさんは、先輩風を吹かして調子に乗っていた。

「カロヤカさん、その飲み物は・・・マーメイド・ティーだ!?」

 最強のドリンク、その名をマーメイド・ティー。別名、下剤入りの飲み物。

「な、なんですって!? う、うう!? お、お腹が痛い!? ウギャアー!?」

 カロヤカさんは、茂みに隠れた。

「私のご主人様は、いじめなんかには負けません。」

「え? マーメイド・ティーに下剤が入ってる? 私、知りませんでした。本当ですよ。」

 カロヤカさんたちは、水花と水の精霊を仲間に加えて、楽しい旅を続けていた。


「ルンルルン~。うん? 何かしら?」

 カロヤカさんたちが歩いていると小動物が飛び出してきた。

「コンコン。」

「コンコン!?」

 現れたのは、妖狐の子供のコンコンであった。

「コン~。」

「コンコンじゃない? 元気だった? どうしたのよ? こんな所に。」

「カロヤカさんに会いたくなって、会いに来たんだ。」

 コンコンは、助けてくれた命の恩人のカロヤカさんに会いに来たのだった。

「あれ? コンコン一人? お母さんは?」

「いないよ。僕一人で来たんだ。」

「なにー!?」

 コンコンが一人で来たと聞いて、カロヤカさんと妖精と小人の様子が激変する。

「戦闘配備ー!!!」

「周囲を警戒せよー!!!」

「穴を掘れ! 穴を!」

 カロヤカさんたちは、防空頭巾を被り非常事態に備えた。

「どうしたんですか?」

「まったく意味が分からないわ。まるで魔王がやってくるみたいな。」

 水花と水の精霊は知らなかった。

「来るのよ! 魔王が!」

「ほえ?」

「魔王以上の保護者のおばさんが!」

「保護者のおばさん? モンスターペアレンツ?」

 コンコンの保護者のおばさんは、魔王以上の存在であり、日本三大妖怪の化け物だった。

「コンコン。どうしてお母さんと一緒に来ないのよ? お母さんは遊びに来たことを知ってるの?」

「知らない。言ったら遊びに行かせてくれないと思ったから、お母さんに黙ってきちゃった。それだけカロヤカさんに会いたかったんだ。」

「ん~、なんも言えない。」

 カロヤカさんは悪意がないので、コンコンに何も言えなかった。

「ギャアー!?」

「どうした!?」

「青い炎がこっちに向かってくるわ!?」

「なんですとー!? 来る!? おばさんが来るんだわ!?」

 カロヤカさんは、近づいてくる青い炎に恐怖した。


「カ、エ、セ! ワ、タ、シ、ノ、ボ、ウ、ヤ!」

 青い炎の正体は、九尾の化身で、コンコンの母親の玉藻前であった。


「いいこと思いついたわ! いでよ! 小人の鎧! 装着!」

 カロヤカさんは小人の鎧を身にまとい、小人の鎧の特殊能力で小さくなる。

「水花! 後は任せた!」

「その手があったか!?」

「さすがカロヤカさんだ。隠れよう。」

 カロヤカさんと妖精、小人は、コンコンの毛の中に隠れた。

「どうしたのかしら? ん? んん!? ギャア!? 化け狐!?」

「あれが!? 魔王以上の保護者のおばさん!?」

 水花と水の精霊は、初めて恐ろしい化け物を見た。

「オ、マ、エ、カ!? ワ、タ、シ、ノ、ボ、ウ、ヤ、ヲ、サ、ラ、ッ、タ、ノ、ワ!?」

 狂気に満ちた玉藻前が現れた。

「ええー!? 違います!? 私じゃありません!? カロヤカさんです!」

「どこにカロヤカさんがいるというのだ?」

「しまった!? 図られたんだわ!?」

「嘘つきは誘拐の始まりってね。私の坊やをさらった罪は、命で償ってもらうよ。」

「ギャアー!?」

 やっと水花と水の精霊は、カロヤカさんに誘拐犯の罪を擦り付けられたことに気づいた。

「坊や、お母さんが来たから、もう大丈夫だよ。」

「お母さん、ありがとう。」

「帰りに坊やの好きな油揚げを買って帰ろうね。」

「やったー! お母さん、大好き!」

 親子の九尾は感動の再会を果たした。

「その前に犯罪者には死刑を執行しないとね。いでよ! 狐火!」

「ギャア!?」 

 玉藻前は、青い狐火を2つ出す。

「最後に何か言い残すことはないかい?」

「はい! はい! カロヤカさんは、息子さんの毛の中に隠れています!」

 水花は、カロヤカさんの隠れ場所をチクった。

「なにー!? こらー!? 私を売るな!?」

 カロヤカさんは、コンコンの毛の中で叫んだ。

「何をバカなことを。まるでカロヤカさんが妖術か何かで体を小さくしているみたいじゃないか?」

 玉藻前は、水花の言うことを信じていなかった。

「本当だよ。カロヤカさんは僕の毛の中に、かくれんぼしてるのさ。お母さんが鬼だよ。」

「なんだって!?」

 コンコンが玉藻前にカロヤカさんの居場所を言ってしまった。

「ああ、言っちゃった。」

「ただでさえ怖いのに、鬼婆になってるわよ。」

「自分以外は滅ぼす人だから、相手したくないな。」

 カロヤカさんは、観念して小人の鎧を脱いで、玉藻前の前に姿を現した。

「お久しぶりです。お母さま。」

「カロヤカさん!? あなた、妖術が使えたのね!?」

「え? まあ、そんなものです。アハハ。」

「素晴らしい!」

「ええ!?」

「それでこそ、うちの坊やの花嫁候補だわ!」

「は、花嫁候補!?」

 カロヤカさんは、玉藻前の息子の花嫁候補になっていた。

「うちの坊やと結婚するために、妖術まで習得するなんて、なんて、頑張り屋さんなのかしら。私は感動した。ウルウル。」

「誰も花嫁候補になったつもりはありませんが。」

「聞いてないし。」

 玉藻前は、人の話を聞くような妖狐ではなかった。

「あの、カロヤカさん。」

「なに? 水面。」

「私たち二人で力を合わせて、この迷惑おばさんを退治してしまえばいいんじゃないですか?」

 水花は、無謀な計画をカロヤカさんに提案する。

「みなも! あなたにおばさんと戦うことを許可するわ! 一度、戦ってみなさい!」

「はい! 私! 戦います! やったー! カロヤカさんが私のことを名前で呼んでくれた! がんばって、カロヤカさんの期待に応えなくっちゃ!」

 水花は、嬉しくて戦う気力に満ち溢れていた。

「いでよ! 水の鎧! 装着! 私の刀は水の刀です!」

 水花は、水の鎧を装着する。

「水が潤い、水が弾ける! 明鏡止水! 生き物のように激しく流れ溢れろ! 私の水! 必殺! お花水斬り!」

 水花は、玉藻前に必殺技を放つ。

「あれ? カロヤカさん!?」

 水花は、カロヤカさんと一緒に今世紀最大の化け物おばさんと戦うと思っていた。

「私は、義理のお母さまになるかもしれない方に歯向かいません。」

「カロヤカさんの裏切り者!」

 水花は、またしてもカロヤカさんに騙されたのである。

「私の坊やに近づく、水妖怪の小娘よ! 蒸発して息絶えるがいい! ブルー・フォックス・ファイア!」

「なぜ!? 横文字!?」

 玉藻前は、狐火で水花を攻撃した。

「ギャアー!?」

 狐火は、ブルー・インパルスの衝撃で水花を吹き飛ばす。

「ああ~スッキリした。坊や、帰ろうか。」

「うん。油揚げを買うの忘れないでよ。」

 妖狐の親子は笑って仲良く帰って行った。

「水花、あなたの死は無駄にはしないわ。」

「ウンディーネ、安らかに眠れ。」

「絶対に勝てない自分より強い人っているんだな。」

 カロヤカさんたちは、水花の散った方向に手を合わせて供養する。

「勝手に殺さないでください!?」

「まだ生きてます!?」

 水花たちは、かろうじて生きていた。

「さあ! 富士山を目指して、レッツ・ゴー!」

「おお!」

 カロヤカさんは富士山を目指す。

「ルンルルン~。」

 カロヤカにお任せあれ。

 つづく。

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