本を閉じる

 Fはぱらぱらと本を捲った。

 ページを開いてぼうっと見ていると、この本に書いてあった登場人物の様子が薄ぼんやりと思い出された。

 もし仮に今この本をちぎれば、登場人物たちはどうなってしまうのか。今ここにある作品世界はどうなってしまうのかとFは考えた。

 びりびりに破けてなくなってしまうのだろうか。それとも、なんの影響も受けないのだろうか。

 今同時間に存在するこれと同じ本の全てがひとつの世界を共有しており、一冊の本はそれにアクセスする媒体にすぎないとすれば、一冊破いたところで影響は微々たるものだろう。

 Fは本を閉じ、本棚にしまった。

「さて、行きましょう」


 本棚には本が残った。

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