泳ぐ夏から浮かぶ秋、それらすべての即興小説

Wkumo

水平線で、待っている

「いい加減ここから出してもらいてえもんだぜ」

「まったくだ。しかし、こう見張りがいちゃあ」

「ああ、あの忌々しい見張りさえいなきゃなあ」

 岩陰に隠れた二人のひそひそ話。僕はそれを聞きながらあくびをした。

 ここには沢山の人々がいる。上に逆らって流されてきた人たちだ。逆らうの程度も種類もさまざまで、不敬罪から窃盗罪まで各種取り揃えている。

 初めはほんの数人だった人々も、時が経つにつれて増えてきた。このままのペースで人が来ると、いずれ人口過密になってしまうという予測も出ているらしい。

 僕は再びあくびをした。今は軽いものだ。でも、人がそんなに増えたら僕だって重たくて困ってしまう。

「なあ、あの人形劇はどうなったかな」

「俺が知るかよ。こっちに来てからテレビとは縁がねえんだ」

「それはこっちもそうさ。しかし、想像することはできる」

「はあ。想像で飯が食えるかよ」

 見張りが岩の近くまで歩いてきた。二人は口を閉じて固まる。見張りはしばらくきょろきょろしてたけど、異常がないと思ったのか、すぐにそこを離れていった。

「俺はさ、あの人形劇を毎日見るのが楽しみだったんだ」

「人形劇ってえと、アレか。どっこいきゅうり島か」

「知ってるんじゃないか」

「そらそうさ。一大人気人形劇だからな」

 どっこいきゅうり島のことなら、僕も知っている。漂流する島に乗った人々の人情ドラマを描いたものらしい。見張りがときどき話に出すので、あらすじを覚えてしまった。

「人形劇の話はともかくよ、お前聞いたか。近々、また大量に来るらしいぜ」

「ああ……人口過密も近いな。そんなことになったら、どうなってしまうんだろうか」

 二人組は話をしながら岩場を立ち去っていった。

 困ったことになったぞ。そんなに人に来られては。

 次の日、大きな船が僕の海岸に近付いてきた。あの話の通り、人々を乗せてきたらしい。

 見張りの人たちは小舟に乗って、大きな船を案内している。

 僕は以前からこっそり予定していた作戦を実行することにした。夢だ無理だと思っていたが、実行する段になると案外抵抗がないものだ。

「おい、ちゃんと操舵しているか」

「ぜんぜん近付いてこねえぞ」

「違う、船が悪いんじゃねえ、俺たちも……これは島が、」

「島が動いて……」

 さようなら、見張りの人。僕は、僕たちは、あの人形劇のように、旅に出る。

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