第1話 月に住んだウサギの話

 満月の静かな夜のことでした。


 先ほどまで聞こえていたにぎやかな虫の声も嘘のようになくなり、聞こえるのは、遠くで話しかけるように鳴くフクロウの声くらいです。


 森の中にある大きな池のほとりで、1匹のうさぎがじっと夜空を見上げていました。

 どうしてお月さんはあんなに大きくて美しいんだろう……うさぎはいつもそればかり考えていました。


「お月さん、聞こえますかー? どうしてお月さんはそんなに大きくて美しいんですか、教えてくださーい」


 どうしても知りたかったうさぎは、無理だとわかっていながらも、両手で口を囲み、大きな声で聞いてみました。


 すると、かすかに声が聞こえた気がしました。ところが目の前には大きな池があるだけで誰もいるはずがありません。山に跳ね返った自分の声かもしれないと思い、もう1度大きな声で叫びました。そして、今度は長い耳に手をあてて声を待ちます。

「こんばんは、うさぎさん」

 まちがいありません。小さな声で誰かが返事をしてくれています。

「どこにいるのですかー?」


 うさぎは大きな声で一生懸命に探します。


「ここよ、ここ。あなたの目の前よ」


 そういわれても誰の姿もないのです。


「ほら、あなたの目の前の池を見てごらんなさい。大きな私の姿が映ってるでしょ」


 うさぎがあわてて水面に目をやると、確かに金色にかがやく大きな月が波に揺られて、ぷかりと浮かんでいました。


「ここだと大きな声で話さなくてもいいでしょ。だから池に映った私と話したらいいわ」


 お月さんは優しい声で話しかけます。


「こんばんは、お月さん」


「こんばんは。うさぎさんはいつも私を見てくれてるのね」

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