雨のち晴れ

ひろ

第1話 いろは

8月31日。

やっと休みが取れた。

実家に帰ったところで特にする事はないのだけれど、うつ病の母が心配で未だに年末と夏には帰省する事にしている。

母は私が心配している事を伝えるといつもこう言う。

「うつって言ったって、私はパートに出たりもしてるし、心配ないわよ」

そして笑うのだった。

「今日は休みなの?」

「そうよ」

だからずっと横になってるのねとは口に出さなかった。

父は10年前にリストラされてからはずっと無職で、それからは不特定多数の女性と遊んでいる。

母はその頃からおかしくなった。

家事は私と姉で分担していたが、私は次第に家が嫌になり、マッチングアプリで男を探し、家を出てその男と同棲した。

姉には散々責められたがそんなの知った事ではない。

母の部屋を出てリビングで1人アイスコーヒーを飲んでいると、姉が介護の仕事から帰ってきた。

手には買い物袋をさげていた。

「何、アンタ帰ってたの。何の用もないくせに」

「用はないけど……ダメなの?」

「今年はいつまでいるの?」

「明日には帰る。あんまり休めなくて」

「ただのコンビニなのに?あんな仕事いつでも休めるでしょうが。1ヶ月くらいいてアンタが家事だの全部やんなさいってのよ」

「……」

「何も言い返さないの?つまんない女」

「お姉ちゃん」

「私ちょっと出掛けてくる。あとよろしくね」

姉のちょっと出掛けてくるは男に会いに行く事だ。

「今度はどんな人なの?」

「アンタに関係ないでしょ。いきなり家出ていって。アンタはもう家族でも何でもないの。いい加減分かって」

姉はそう言うと買い物袋をダイニングテーブルに置いたまま出ていった。

「私だって、家がこんなんじゃなければ……」

私はぽろぽろと涙を零しながら買い物袋の中身を冷蔵庫にしまった。

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