今朝見た少し不思議な夢について

秋田健次郎

不思議な夢について

 その日私が見た夢は始めはありふれたものだった。しかし、あまりにありふれているせいで夢特有の質感というものを感じなかった。その夢の中で私は強い日差しの下、踏切の前に立っていた。蜃気楼が見えていたからあれはきっと真夏だったはずだがまるで暑さを感じなかった。実際、私が寝ていた部屋はクーラーによって冷やされていたわけだから当然なのだが。

 ともかくそこには私以外に大量の学生がいた。踏切が上がると私を含めた大勢が歩き出し、ぼやけた視界の中と朱色に満たされた一本道をぞろぞろと行進していた。次第に駅と思われる建物が見えてきた。それは妙に派手な建物でヤシの木も見えたのでおそらく南国をイメージして最近建てられたショッピングモールと併設されたような建物だった。それは一見駅のようには見えなかったのだが(この夢において電車はおろか駅のホームすら登場せずむしろ大型商業施設としての姿のみを見せるのだが)その時は間違いなくこれは駅だと認識していた。

 驚いたのはこの直後であり、中学時代少し仲が良かった友人が声をかけてきたのだ。この人物が夢に出てくるのは初めてだったし、むしろ顔を見た瞬間にその存在を思い出したほどだ。そしてその隣には同じ中学に通っていたということくらいしか知らない本当に一度も会話をしたことがなければ名前も声も知らない青年が立っていた。その後についてはまず私と友人は出会うや否や気分が高揚し歌い出し、駅の構内(といってもそこはイオンモールだったりそういう風でしかなかった)で昔出演した(という設定になっていた)“逃走中”というテレビ番組ついて話していたがここから先はあまりに夢的で面白みもないため割愛する。一般に他人の夢の話はつまらないものであり、この夢においても後半部分は間違いなくそれに分類されるためである。

 朝、目覚めた時は6時45分ほどであった。その日は祝日の月曜日だったので二度寝しようとも思ったがそのような気にはなれなかった。起きてからこの文章を書こうと思った最大の要因は夢の中で出会った二人の顔についてである。中学時代の友人は客観的に見てもかなり特徴的であり、端的に言えばねずみ男のような顔をしていた。当然夢の中でもそんな顔をしていたはずだし、成長した彼の姿を想像することは容易いはずだったが私は夢の中で見た彼の顔を全く覚えていない。どういうわけかその隣にいた一度くらいしか顔を見たことのないような人物の顔の方がはっきりと覚えているのだ。短髪で肌は浅黒く、目元には彫があり日本男児といったような風貌だ。

 夢から覚めてもなおどうして彼の顔のみがはっきりと見えたのか不思議でならない。もう数年間も脳裏をよぎったことさえなかった、もうとっくの昔に処分されたと思っていた誰かの顔面のデータがこの脳のどこかに保存されていたのだと考えると少しワクワクする。もしかすると人間の脳は引き出す能力が不足しているだけで圧倒的な情報をため込んでいるのではないだろうか。そんな気を起こさせてくれるような夢であった。

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