第9話 行商人


昨日、勇者達が晩飯を食いに来た時の話なんだが、


オークの集落から4人の女性が救出されたらしい・・・


不幸中の幸いなのだろうか・・・


その中に昨日の客様のパーティーメンバーはいたのだろうか・・・




ちなみに角煮はめっちゃ喜ばれた!


また作ってくれって言ったのでミートハンマーの催促もしておいた・・・


発注はしてあるから出来次第持って来ると焦って言ってたから、作らせる気満々だろう・・・


それはまぁいい・・・確かに美味かった・・・まだあるけど・・・


オーク退治で疲れたから自主休業って言ってたが・・・まぁ・・・来るだろうな・・・



さて、気を取り直して、今日はどんなお客様が来るだろう・・・


カランカラーン、扉の開くベルの音と同時に入ってくる勇者


「ハル~、お酒とつまみ~」


今は喫茶店営業なんだがな・・・まぁいいか・・・


「了解、酒は何にする?」


「とりあえず生?俺にはジョッキで出してくれよ・・・」


当店セレクトの生ビールは『エビスマイスター樽生』だ


「ジョッキは使わないから置いてないんだが・・・」


「中ジョッキでいい!今買え!すぐ買え!金は出す!!勇者カズキ様の財力で余裕だろ!」


はいはい・・・ って店の雰囲気に合う中ジョッキなんてねーよ!


仕方ないから適当にカートに入れて購入する・・・


そして今知った・・・彼の名前が『カズキだった事を・・・』


俺は自分から名乗られない限り名前を尋ねたりしない


隠したい人だっているかもしれないから・・・


聞かれなければ名乗らない、名前よりマスターとか店長の方が覚えてもらえるから・・・



しかし・・・ジョッキか・・・


この流れでどうしても必要になったらドワーフのガラス職人に凄いのを作ってもらうしかないな・・・


サーバーからビールを注いで勇者に出す・・・


つまみは枝豆、業務用の冷凍枝豆をレンチンして出す


「く~~~~っ、これこれ、昼間っから飲む酒は格別だな!」


「あのなぁ、日中は喫茶店なの!バーでジョッキってもう少しワビサビをだなぁ・・・」


「いいじゃねぇか!客いねーし」


言いにくいことをズケズケと言ってくれる


「安心しろって、ちゃんと金は置いていくから」


「そこは心配してねーよ!店の雰囲気を壊すなって言いたいの!」


「まぁまぁ、気にすんな!」


はぁ・・・言うだけ無駄と判断しよう・・・


「ほかの二人は?」


「あぁ、剣聖はデートって言ってたな、賢者はシラネ」


ほう、悲しくなるほど女っ気の無い俺の店なのに、自分はデートか・・・爆死しろ・・・


「やりたい放題ですな・・・」


「息抜きも必要だって、生おかわりね」


2杯目をカズキに出す・・・


「ほらよ、って勇者一行は普段何をしてるんだ?」


「ん?高ランクのクエストで魔物の間引きをしながらレベリング」


なるほど、資金調達と魔物の侵攻止めかぁ・・・


「この店の休日はハルのレベリングもしたいんだが・・・」


いや・・・俺を巻き込むな、一般人だ・・・


「アマゾンのレベルが上がったら伝説の武器も買えるんじゃね?って期待してる」


あったとして無茶苦茶高そうだな・・・


「ほら、割引が増えればこの店の利益率も上がるべ、生おかわり、枝豆追加、後冷ややっことダシ巻き卵」


それは助かる!って注文内容に殺意を覚えなくもない・・・バーじゃなくて居酒屋メニューだよね・・・出せるけど・・・


「ここから先SPはアマゾンに突っ込む感じでヨロシク!」


「わかった、そうするよ・・・っと、やっことダシ巻き、生追加な」


カズキとのやり取りをしてる時、カランカラーンとベルが鳴る。


「いらっしゃいませ、お好きな席にどうぞ、メニューは席にございます。」


見た感じ20代後半の男性がカズキから少し離れたカウンターに座りメニューを見る。


「では、サンドイッチのセットを冷たい紅茶でお願いします。」


「かしこまりました」


厨房に引っ込みインベントリから出す


うんうん、インベントリは便利だね、不良在庫が一切出ないところが素敵すぎる・・・


皿に盛り付け出すだけの簡単作業だ。


「お待たせしました」


昼食にうちの店を使える商人かぁ、稼いでるんだろうな・・・と


「久しぶりに保存食以外の物を口にします・・・やっぱり美味しいですね」


保存食・・・って事は行商人かな?


「そうですね、保存食は味気ないですよね・・・」


「行商してるとやっぱり保存食が多くなります」


「行商人でいらっしゃいましたか」


「はい、行商人のウォルトと申します。」


「これはご丁寧に、カフェ&バー、ミスルトウ店長のハルヒトです」


珍しく名乗る俺・・・


「立ち寄る街での食事が一番の楽しみなんです。」


「なるほど・・・」


「たまに大ハズレもあるんですけどね・・・」


思い出したのか・・・苦々しい表情のウォルト


「ハズレ・・・ですか?」


「南の地方の町なのですが、どの料理も辛いんですよ・・・」


四川系かインド系か・・・どんな辛さなのか気になるが・・・


「いや~、パンやサラダまで辛いってのは堪えました・・・ははは」


力無く笑うウォルト


「逆に興味をそそられますね、怖い物見たさでしょうか・・・」


「そちらの香辛料も何種類か取り扱ってますよ・・・お一ついかがでしょう?」


商売上手め・・・


「研究してみたいですね、それぞれ少量ずつ頂ましょうか・・・」


「はい、お取引ありがとうございます。現物をお持ちいたしますのでそれを見て値段をすり合わせましょうか」


嫌味の無い笑顔・・・これは手強そうだ・・・


胡椒が金と同じ価値って世界もあるし・・・同じ物がアマゾンで揃うかもしれない、


南の町ってのの味の方向性はわかると思う・・・


「ご馳走様でした、後程、品物をお持ちいたします」


そう言って会計を済ませる


「楽しみに待ってます。」


俺はウォルトを見送った・・・


「香辛料か、ずいぶん楽しそうだな」


カズキ、居たのか・・・


「香辛料自体が目的じゃないさ、行商人との横繫がりってのは商売してる上で重要だぜ」


「そんなもんかねぇ・・・」


「ウォルトもこの店で使うだろうと判断しての香辛料さ、

 実際は世界中の香辛料をアマゾンで買える俺にはあんまり必要ないってのも本音だ」 


そう、俺は今回ウォルトの持ちかけた商談に丸乗っかりしてあげただけだ


「ふ~ん、損して得取れって感じか?」


「ん~、商談自体も別に損ってわけにはならないと思うよ、後は、行商人の掘り出し物の入手ルートが1つできたって感じかな」


買った香辛料を全部転売しても他生の利益が出ると予測する俺


「ハル~、コーヒーくれ~」


・・・こいつは・・・


「ほいよ」


・・・KANコーヒーを渡す


喫茶店で缶かよ・・・カップに入れもしねぇ・・・


「微糖がよかったか?」


「そういう問題じゃねぇと思うがな・・・」


言いつつ飲むカズキはいい奴だと思う・・・


「ふぅ・・・んじゃそろそろ出るわ、ご馳走さん」


白金貨を投げてよこす


「わがまま言ってサンキュな、また頼むわ」


こんなとこがカッコイイんだよな・・・いや・・・BL展開はネェから


「OK、気を付けて」


手を振って出て行く


そしてボッチの店内に戻る・・・




時は流れ夕方頃



「ハルヒトさん、お持ちしましたよ!」


ウォルトの元気な声が響く


スーパーで無料配布してるロールのビニール袋と同じくらいの大きさの袋を8袋カウンターの上に乗せた


それぞれ中身を確認する・・・ん?見覚えがある感じだな・・・


元の世界で流通してる香辛料っぽい


匂いを嗅ぐ・・・


「ターメリックだね、他は・・・クミン、コリアンダー、カルダモン、クローブス、ナツメグかぁ、基本はそろってるんだな」


南の町はインド系で決まりだろ・・・、パンもスープも辛かったって事は、


カレーパンみたいなのかナンに香辛料入れてる感じなのか・・・興味が出てきた


「凄いですね、全部お知りでしたか」


「たまたま・・・かな」


「さて、ここからが商談です」


「うん、どれも使えるし最初の取引だから全部まとめて即決価格で出して」


「では、こちらも勉強させていただいて、銀貨5枚でいかがでしょう?」


「いいよ」


即決で財布から銀貨5枚を出す


ぶっちゃけアマゾンなら半額以下で買えるんだが、こっちの香辛料相場は今一わからない


「ありがとうございます。次に来る時の希望とかありますか?」


ん~そうだなぁ・・・


「珍しいお酒とかがあったら買うよ」


「わかりました、気を付けて探してみますね!」


「お願いします、今回は取引ありがとうございました。」


「いえいえ、こちらこそありがとうございました、今後とも末永くお付き合いいただけたら幸いです。」


「ところで、この町にはいつ頃まで滞在を?」


「仕入れの品物が全部そろうまで後2日という所でしょうか、仕入れたら次の町に行きますよ」


「そうですか、ゆっくり滞在してもいられないでしょうから」


「最終日の出発前にはもう一度食べに来ますね」


「はい、是非!お待ちしております」


ウォルトは町の方に戻っていった・・・



さて・・・今日は本格的にカレーを作ろうかな・・・


持って来てくれた香辛料を見て、そう呟く俺だった・・・



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