第3話

「コレが、きぃくんの好きだった景色……」境内は山の中腹で、丁度住んでいる街が一望できた。

「ヘァ…正確には……違うか、な……アイツはァハァ…夜景がァ好きだった…。から…ヒュー…ゼェ…ヒュゥ……」

汗ひとつない彼女に訂正するけれど、喘ぐ息に上手く声にならない。ここまで疲弊したのはいつぶりだろう。

「先輩なんでそんな体力ないんですか、キモすぎ。息も絶え絶えじゃん…」

冷たい呆れたような視線が胸に刺さるようだ。

罵倒が飛ぶのは何度目だったろう。最初は大丈夫ですかと優しい声をかけてくれていたような気もするが、もう既に朧気な記憶で陽炎のようにあやふやだった。


彼女はヒカリの後輩で、恋人だ。

ヒカリを追って大学に進学した彼女が、きぃくんと一緒だね!なんて弾んだ声で笑う姿を見て、彼女持ちの事実を隠していた親友を、裏で締め上げたのは言うまでもない。


漸く着いたとばかりにへたり込んでいた私に声が聞こえた。


先輩と呼ばれた

鈴の鳴るような声

こちらを振り向く顔に

遅れて髪が舞った

陽の光で煌めく彼女に

私はただ

見蕩れるしかないのだ


何処までも朗らかで

何よりも美しい

そんな歳下の後輩が

私を見詰めて頼むのだ


きぃくんの

好きだった全て

私の親友の

経験した全て

彼女の知らぬ総てを

教えて下さいと


嗚呼、この胸の高鳴りようは何だ。

なんと罰当たりなことだろうか。

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還らぬ光に照らされて。 真文 紗天 @shaten

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