最終話・美しい時間
時はあっという間に過ぎていき、夏休みが終わろうとしていた。
夏祭りから一週間後のお昼過ぎ……
いつものお出かけ用の服で颯斗は杏奈と蜜奈の3人で喫茶店「チェッカー」に来ていたのだが、店の出入り口のドアに「本日休業」の看板がかかっていた。
・颯斗は語る
今日はまた「チェッカー」で勉強会のつもりだったのだが、まさかの休業……
予定は未定とよく言うけど、ここは予定を変更して2人に俺の家に遊びに来ることと相成った。
別に部屋に見られて困るようなモノは置いていないし、依吹は今日も友達のところへ遊びに行っているから問題ない。
嵐斗に至っては今日は家で過ごすようなことを言っていたから勉強会はリビングでやった方がいいかもしれないな。
一行は上森家宅につく頃……
嵐斗は自室の机の前でカーキ色のツナギ姿でサバゲーのメイン武器であるショットガンを机の備え付けてある万力に挟んでドライバーなどの工具で弄っていた。
「スライドは組み込んだ。ガスタンクとチューブを稼働部につなげた。あとはチューブマガジンのスプリングの長さ調整を……」
嵐斗は独り言を呟きながらエアガンを弄っていると、玄関から扉が開くと同時に「ただいまー!」と颯斗の声が聞こえた。
(あれ? 兄さん随分と帰ってくるが速いな)
そう思ったその時、続けざまに「お邪魔します!」と聞き覚えのある2人の声が聞こえる。
嵐斗は作業の手を止めて、部屋を出てリビングに向かった。
(あの2人か……客人はおもてなししないとな……)
すると、3人と鉢合い「おや? いらっしゃい!」と嵐斗は迎える。
「今、お茶淹れますね! 紅茶やコーヒーもありますけどどうしますか?」
嵐斗はリビングのエアコンと扇風機を回しながら台所に向かい、颯斗たちは食卓に座って勉強道具を広げた。
「いや違う違うそこはそうじゃなくて……」
颯斗が2人に勉強を教えているのを脇見しながら、嵐斗は残暑見舞いで頂いた缶ジュースの詰め合わせからぶどうジュースを3つ取り出し、耐熱ボウルと粉ゼラチンを取り出した。
数時間後……
そろそろ頭の処理能力が限界に来た2人は頭から湯気が立っていた。
「少し休憩いれようか?」
颯斗はそう言うと、颯斗のスマホのバイブレーションが唸る。
メールが入っており、内容は「冷蔵庫にゼリーが入ってる」と嵐斗から着ていた。
(嵐斗め、気が利くな)
颯斗は冷蔵庫から嵐斗が作ったぶどうゼリーを3つトレーに載せて2人に出す。
すると、嵐斗の部屋からガシャン! ガシャン! と何かが動く音がした。
「……嵐斗君は何をしてるの?」
謎の音に気になった杏奈は嵐斗に尋ねると、心当たりがあった颯斗は2階に続く階段を見ながら答える。
「エアガンを弄ってる音だと思う。一昨日だったかな? 練習中に壊れたとかで直すついでに改造しておこうとか言ってたから試運転してるんだろ」
蜜奈はそれを聞いて「里奈もやってますけどサバゲーって面白いんですかね?」と疑問を口に出す。
「さあ? 俺はやったことがないし、運動もそこまで得意じゃないから解らない」
そして、颯斗は本題を切り出した。
「それはともかくだ。2人とも学科は違えど俺と同じ大学目指してるならもう少し順位を上げないとダメだよ」
ちなみにこの3人の1学期の学年順位はこんな感じ……
颯斗・18位
杏奈・70位
蜜奈・68位
最下位は220位で、颯斗はかなり上であることが解る。
2人にとってこのままでは颯斗との関係が崩れる原因ともなりかねないため、2学期から巻き返しを図ることとなった。
「目標としては最低でも20位前半まで入らないと厳しいかもしれないね」
指定校を目指すには実績が必要になる何かしらの外的要因で落とされることもあるが、素行が良く。無遅刻無欠席で社会奉仕活動などに献身的であれば指定校推薦に入ることは出来る。
「というわけで順位上昇頑張るぞ!」
颯斗はそう意気込んで3人は「エイ! エイ! オー!」と気合を入れた。
・颯斗は語る
この恋が実を結んでも結ばなくてもその時はその時として受け入れよう。
俺の青春はこの2人のおかげで動き出した。
なら、これから過ごす時間を大事に過ごそう!
何も結ばれるのが恋とは言い切れないと言う人もいる。
だからこそ、自分が好きな人と過ごす時間はとても美しい記憶になるだろう。
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