第12話・嵐斗のルール
双方、無事にデートが終わって帰路についてのこと……
時刻は夕方の17時、嵐斗より先に帰宅した颯斗は風呂場で湯船の掃除をしていた。
理由としては数十分前……
「俺はこのまま夕飯の買い出しに行くから兄さんは先に帰って風呂の掃除しといて」
蜜奈たちと別れた後、嵐斗にそう頼まれたため、こうして一足先に帰宅して風呂の掃除をしているのである。
ゴム手袋をつけた手で洗剤を泡立てたスポンジを湯船に擦りつけていると、玄関の扉が開く音が聞こえ続くように「ただいまー」と依吹の声が聞こえた。
足音が風呂場に近づいてきているのに気づいた颯斗は「依吹、今風呂掃除中だぞ」と入ってくる前に言うと、依吹は「ちぇーっ、終わったら教えて!」と階段を上がっていく足音を鳴らしながら2階に上がっていった。
颯斗たちの両親は共働きでGW休暇はなく。土日も仕事でいないことも多い。
とはいえ、颯斗が高校に進学するまでは家事の代行は嵐斗がほとんどやっていた。
(改めて思えば嵐斗の奴は家の事で受験勉強の時間が削らてるのによく公立高校に進学できたな。更にバイトまでしてたってのに……)
シャワーで湯船の泡立った洗剤を洗い流しながら颯斗はふと思う。
自分は必死に勉強して第1志望校に落ちているのに、嵐斗は自分より少ない時間で自身の第2志望校に受かっているのである。
掃除が終わってすぐの事、着替えを手に持った嵐斗と風呂場の扉の前で鉢合った。
「嵐斗、随分と帰りが早かったな?」
嵐斗は風呂場の扉を開けながら「一昨日のスーパーのチラシを暗記してたからな。買うものにある程度目星をつけたからそんなに時間は掛かんなかったよ」と答えて脱衣所に入る。
「まあ、店出ようとした瞬間にソフトクリーム買ってもらってはしゃぐちびっ子にぶつかってズボンが汚れたのはここだけの話だけどな」
それはまた災難なと思った颯斗だったが「ちびっ子の方は転んだりしなかったか?」と尋ねると嵐斗は黒のタンクトップと黒のバスパンに着替えながら答えた。
「怪我は無かったけど泣きながら謝ってきたよ。最近のちびっ子は礼節をしっかり学んでいる子が多いらしい。その時の母親は俺をヤクザか何かと勘違いしていたみたいだけど、俺ってそんなに人相悪いか?」
その答えに颯斗はブフッと噴き出してから「顔の傷で勘違いされたんじゃないか? そもそも、ここG市に今日日ヤクザなんているわけないだろ?」と言うと、それを聞いた嵐斗は脱衣所を出た。
(まあ、祖父ちゃんの知り合いにいるけどな)
嵐斗はそう心の中で呟いて台所で赤の腰エプロンを巻き、夕食の支度を始めた。
普段ならここで自室に戻って勉強をする颯斗だったが、気になっていたことがあった颯斗は食卓に座って左肘で頬杖をつきながら嵐斗に尋ねた。
「そういえば嵐斗、依吹から聞いて知ったんだだけど「神無月プロダクション」からスカウト受けたってのは本当なのか?」
包丁で野菜を切りながら嵐斗はその時の事を話す。
「本当だよ。でも顔にこの怪我してルックス面で散々言われた挙句取り消しを受けたからあの日以降に縁を切った……2度と関わることは無いだろ? まあ、俺のルールに乗っ取ってのことだから確定は出来ないけど……」
嵐斗の言うルールに関しては颯斗も詳しく知りたかった。
「そのお前の言うルールってのは何だ? 自分に課した戒めか何かか?」
颯斗のその質問に嵐斗は一度手を止め、右手を軽く握った状態で肘を曲げて答えた。
「どう受け止めるかはそっちの勝手だけど、探偵として俺自身に課したルールだ」
ルール1・自身の善意で行った仕事では金銭的報酬を受け取らない。
ルール2・一度信頼を切った相手とは二度と関わらない。
ルール3・無関係の人間を巻き込まない。
人差し指から順番に広げてルールを述べた嵐斗は「とまあ、今のところはこんなところだな」と言って夕食の支度に戻った。
・颯斗は語る
なるほどね……神無月プロダクションとの一件はルール2が該当するということか。
なら麻衣ちゃんとの一件に関しては……恐らくさっき言った3つ以外のルールによるものだろう。
詮索はしないと決めたからには詮索はしないが、興味が無いと言ったら嘘になる。
そんな時、嵐斗のスマホに着信が入った。
「はい、もしもし?」
嵐斗は右手でスマホを持ち、左手でフライパンを持って具材を炒めながら電話に出る。
「はい……はい……明日ですか? 一応空いてます……はい……解りました。では明日そちらの事務所に伺います」
電話が済んだ嵐斗はスマホをしまいながら颯斗に声をかける。
「兄さん! 俺、明日依頼で朝からいないから朝食は適当に済ませてくれ」
それを聞いた颯斗は「警察からか?」と尋ねると嵐斗は「いや、中宮レコーディングから」と答えた。
・颯斗は語る
中宮レコーディングとは神無月プロダクションと同じこの街にあるアイドル事務所でここ最近、所属しているアイドルが人気を呼んでいる。
どう言った経緯で知り合ったかはともかくそんなところとコネクションを持っていることがすごい。
一方、中町宅にて……
自室で蜜奈は杏奈に今日の出来事を話していた。
「そういえば嵐斗君のいた場所に潰れて噴き出した缶ジュースが転がっていたのよね」
蜜奈がそう言うと、杏奈は顔を青くして「それ本当?」と尋ねてからこう言った。
「未開封の缶ジュースを握りつぶすには150kgの握力が必要になるって聞いたことがあるんだけど?」
蜜奈は「へえ」と興味が無さそうに言ったが、少し間を開けて理解した。
「え? それ本当?」
まさかの嵐斗怪力説が発覚した瞬間である。
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