第11話・5秒やるから……
映画上映中のシアタールームにて……
颯斗はポップコーンをつまみながらつまらなそうな顔で映画を観ていた。
・颯斗は語る。
今観ている映画「ローカルロマンチスト」だが……はっきり言って俺には理解できないものだった。
主人公のローカル線に対するファンタジーな視点も理解できないし、ヒロインに至っては主人公にルックスで惚れて距離を縮めるために相手を観察・分析しているような感じだ……
今の自分がそんな状態だと考えると何だか寒気がする。
俺はルックスに自信があるわけじゃないが、少なくとも杏奈と今右隣の席に座っている蜜奈も、初めて会った時からなぜか俺に付き纏うようになった。
他人が自分にどんな魅力を感じているのかは知らないが、この姉妹は俺にどんな魅力を感じているのだろう? 気になるところではある。
ようやく映画が終わり、颯斗と蜜奈は映画館を出た。
「颯斗さん! 今からお茶しませんか?」
蜜奈はキラキラと輝いた上目遣いでそう言うと、颯斗はこの後の予定も考えていなかったこともあり、2人は映画館の通りの向かいにあるコーヒーショップに入った。
2人がコーヒーショップに入ると同時に、通り側のガラス張りの席に座っていた依吹が2人に気づく。
(へえ、颯斗お兄ちゃんったら思ったよりかわいい人と付き合ってるじゃん)
硝子の反射に映る2人を見て、依吹はそう思いながらドーナツをかじり、観察を続ける。
偶然にもシキリ一枚を挟んだ。依吹の後ろにある席に颯斗たちは座ってすぐ、さっき見た映画の話題の話になった。
「面白かったですね! ローカルロマンチスト! ローカル線の知識がほとんど無いヒロインの最初の時の慌てっぷりがツボでした」
・颯斗は語る
さーてここで問題です。ここは話を合わせて相手をヨイショするべきかそれとも素直に好みの映画ではないと言うべきなのか?
嵐斗ならストレートに言うが、下手に相手を傷つけるのはどうも気が引ける。
依吹の場合は……色んな映画とかを見ているアイツなら他の作品と比較していい具合に話題を盛り上げそうな感じだが、勉強一筋でいた俺には無理な話だ。
颯斗は「あー……えーっと……そうだな……」と返答に困っており、2人の会話が聞こえていた依吹はじれったく感じていた。
(颯斗お兄ちゃん、そこでしっかり言わないと相手に不快な思いをさせちゃうよ?)
流石に映画の感想が思いつかなかった颯斗は蜜奈にこんなことを聞いた。
「蜜奈ってどうして俺と付き合おうと思ったの?」
まさかの質問に依吹はブッと思わずコーヒーを吹いてしまった。
(颯斗お兄ちゃん、今の状況でその質問はどうかと思うよ?)
依吹は心の中でそう思うのとは裏腹に蜜奈は特に気にした様子もなく答えた。
「うーん、颯斗さんそう言うの今聞いちゃいますか? そうですね……」
即答するわけでもなく蜜奈はそう言って一度間を開け、重要なところでもあったため、依吹も右腕で頬杖をつきながら聞き耳を立てるが、蜜奈は微笑みを浮かべ、こう言った。
「恥ずかしいのでここじゃ答えられませんね!」
蜜奈はそう答えると、颯斗は面を喰らったようにキョトンとなり、依吹はズルッと肘を滑らせた。
2人はコーヒーショップを出てすぐの事……
颯斗は映画館の入り口付近にある自販機の前に柄の悪い如何にも不良のような格好をした若者3人がいた。
遠めからだったが、誰かが囲まれているのが見えたため、こんな人の往来があるところでカツアゲでもしているのが解った。
(助けるべきだろうか?)
そう思った颯斗は喧嘩になった際に蜜奈を巻き込まないように「少しここで待ってて」と断って蜜奈を置いて、チンピラたちに絡まれている人を助けようとしたが、突然チンピラたちは顔を青くして颯斗から見て右の方へ走り去っていった。
そして、チンピラに絡まれていたのは自分達と歳の近いカップルで、紅の長袖Yシャツに赤と黒のチェック柄のプリーツスカートを穿いて黒のロングソックスと赤のパンプスを履いた右目に眼帯をつけた少女は誰なのか解らなかったが、袖を折った白の長袖Yシャツに黒のウエストベストに黒の長ズボンを穿いて黒のブーツを履いた青年は嵐斗だと解り「嵐斗!」と声をかける。
「兄さん? 今日蜜奈さんとデートだったんじゃないの?」
何事も無かったかのように尋ねる嵐斗に颯斗はチンピラたちについて尋ねた。
「さっきの人たちとなんかあったのか?」
颯斗の問いに嵐斗はうんざりしたように答えた。
「ああ、あれ? 単純に麻衣にナンパ吹っ掛けて俺に因縁つけてベストを掴んできたから「5秒やるからとっとと失せろ!」って脅したらバケモンでも見たかのように逃げてった」
そこへ、待つことが出来なかった蜜奈がその場へ駆けつけた。
「颯斗さん! 置いてかないでください!」
嵐斗は蜜奈を見て、思わず「あれ? 杏奈さん?」と蜜奈を杏奈と見間違えた。
やはり双子の姉妹ということもあり、間違われるのに慣れているのか
「蜜奈ですよ。面と向かっては初めましてですよね? 嵐斗君?」
そう、蜜奈は嵐斗のサバゲー部の先輩である里奈とクラスメイトであるため、嵐斗の事を少しは知っていたのである。
「双子とは聞いてはいましたけど、ここまでそっくりだとは知りませんでした」
そう言う嵐斗に颯斗は「お前も映画を観にか?」と尋ねると嵐斗は「ああ、麻衣と一緒に「ギャラクシーランナー」見てた」と答え、そんな和気藹々とした話をしている最中、蜜奈は地面に潰れて中身が噴き出した缶ジュースが落ちていることに気づいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます