無名達の瞬き

白山基史

 こんにちは。俺はディンク・ダックワースだ。

 ……知らねえよ、だって? 無理もないね。俺はゴミ捨て場生まれゴミ捨て場育ちの凡夫だ。学も無ければ凄い技もないし、何処かの古代王国の末裔だったとか、そういうドラマチックな裏話もきっとない。

 君達が知らなくて当然の、悲しくなるぐらい替えが利く存在だ。

 

 突然だけど、君達には何か譲れない物はあるかい? 

 一応俺にはある。大した物じゃないけれどね。

 今からする話は、その譲れない物を掲げた馬鹿な話だ。血肉湧き踊る大冒険や、世界を震撼させる策謀劇はない。

 多分、賢明な君達は失笑するような話だ。「凡人が下らない意地を張って、無駄な事に命を賭すな」とも言われるだろうね。

 でも、冷静で賢明な外側の連中に何を言われようと、当事者にとっては大切な物はある。それを失ってしまえば、ヒトは肉体が生きていたって死んだも同じ状態になるんだろう。

 俺がディンク・ダックワースであれるのは一度きり。だから、今から話す出鱈目の道を選んで、身に余る苦しい出来事にぶち当たった。でも、その選択に世論のジャッジは必要ない。そういうものだろう、生きるってことは。

 それじゃ始めようか、無名共の馬鹿話を。


 

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