異世界で死体回収業・デットマンクリーナー

オルタナ

第一章 デットマン・クリーナー誕生

0話 特殊清掃人黒東涼

「はい、もう少しで到着しますので立ち会いの方だけよろしくお願いします」


 ブルートゥースを通じて依頼人と話ながらオレは白いハイエースを運転し、目的のアパートを目指す。案内された入り組んだ細い道を何とか通って到着する。


「いやー道狭かったでしょう。早速で悪いけど掃除頼んで良いかな」


「ええ、分かりました。書類にサインだけお願いします、あと合鍵は……確かに。部屋は2階の左角ですね」


 アパートに到着し車から降りると外からでも漂う異臭に腐敗度がかなり進んでいると仕事柄分かってしまう。そんな事を思っていると急かすように今回の依頼人でこのアパートの大家が合鍵を渡してきた。


「はい書類はこれで大丈夫です。じゃあ作業に取りかかりますね」


 手を振って臭いを散らしている大家から書類を受け取り作業開始の合図をする。すると大家が突然口を開いて今回処理する人のプライベートな事を喋り始めた。最近問題になっている孤独死、今回もその類いの案件だ。独り身で出どころ不明の奇怪な物をコレクションしている老人だったらしい。大家からしたら今回の件は愚痴の1つ2つ出ても仕方がない事だろう。オレは慣れた口ぶりで大家に合わせて話を何とか終わらせる。


「大変でしたね、出来るだけ早く終わらせますので終わったらまた声をかけますね」


「本当に頼むわぁー」


 大家と別れ階段を上る。閉められたドアの前に立つとマスク越しからでも臭ってくる腐敗臭にオレも慣れたものだなと苦笑いを溢し預かった鍵でドア開けた。


「よし、頑張るか」


 部屋の中で大量に湧いているコバエを処理しつつ異臭の元を見つける。黒く変色した布団に濁った水溜まりが出来ているのを見た。これらをオレは1人で手早く掃除していく。


「しっかしまぁーよくこんなヘンテコな物をコレクションしていたな」


 木材で作られた年季の入った棚には顔が彫られた壺、謎の文字が書かれている本、ヘンテコな仮面等統一性のない物達がズラリと並べられていた。


「引き取り手も居ないしこの収集品捨てられるのかな」


 そんな独り言を呟いていると立て掛けていたモップにぶつかり滑らせてしまう。棒の部分が運悪く先程見ていた壺に向かって落ちていくのが嫌でも分かる。そう思い何とか腕を伸ばしてモップを掴もうとした瞬間壺が光を発し何か見えない力に吸い込まれていくのを感じた。


「――――は?」


 気づくと辺り一面に広がる草原に突っ立ていた。


「いやいや、何だよ」


 パニックになって辺りを見てもこの状況を解決してくれる様な事起きなかった。記憶を辿っても何がどうなってこうなったのか全く分からない。項垂れて下を見ると謎の壺とモップ。そして棚に飾られていた奇妙な収集品が幾つか散らばっていたのを見つけた。


「この壺……だよな、多分こんな事になったのって」


 一瞬躊躇ったが手を壺の中に突っ込んでみるが何も起きない。苛立ち紛れに壺を投げ捨てる、そうすれば軽快な破壊音が聞こえてきて多少は気が収まるってものだ。


「―――痛いじゃないか乱暴者め」


「―――は?」


 聞こえてきたのは割れる音ではなく人の声だった。声が聞こえた方に行くとあったのは先程投げた壺、その壺が語りかけてくる。


「ふふふ。混乱しているな?まぁいい―――異世界へようこそ、私がお前をここに呼んだんだ。何故かって?話してやろう、さて何処から……」


「――――よし」


 頭の中で津波の様に押し寄せる情報をシャットアウトし、一先ず思い立った事を行動に移す事した。


「そぉっい!!」


 雲ひとつない晴天目掛けてオレは壺を投げた。

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