私は昔から、笑わない子だったらしいよ。だから怖いなんてよく言われてね、色々といじめられたりもしたよ。でもさ、笑う必要なんてどこにあるのかな? そんなに笑顔がなきゃ駄目なのかな? 嫌われるのは怖くなかったけど、無視されても寂しくなかったけど、いじめられるのは辛かったよ。

 だんだん成長してっても私が笑わないから、親まで私を怖がっていじめるようになってね、私はたとえ誰でも、人間に顔を合わせれば、笑われるか、怯えられるか、叩かれるかのどれかになってた。

 だから、理由なんて何でもいいからとりあえず笑わなくちゃなあ……って思って、他の子の笑顔をよく見て、いろんな人の笑顔をよく見て、鏡の前で真似して、毎日毎日笑う練習したんだ。だんだん笑えるようになってね……。

 私は笑わないからいじめられてたんだ、最初はね。だからこれで大丈夫って思ったよ……だけど、間違いだった。私が笑うようになったらみんな、お前が笑うなんてって言って、今までよりもっと気味悪がっちゃったんだよ。いじめが酷くなってね。父は私を殴るし、母はおかしくなるし、学校の子達は相変わらずいじめてきてさ……いつのまにかね、今度は私が怯える番になった。

 蔑まれるのも、笑われるのも、怖がられるのも、無視も、仲間外れも、遠ざけられるのも、もう慣れてたんだ。けど、私も体が痛いのはやっぱり駄目だったみたいで。怖くて、怖くてね。怖くて……。

 それで、叩かないで……って親に言ってみたらさ、……次言ったら殺すぞなんて言われたんだ。まったく理不尽だよ。すごい迫力で、剣幕でね、本気なのか勢いなのかわかんないんだ……。そっからはもう、もっともっと怖くて、毎日毎日、怒らせたら死んじゃうんだ、私はいつ死ぬんだろうって親の機嫌とか伺って、頑張って笑ってたよ。本当に泣き言言ってる暇もないくらい辛かったんだ。明日、下手したら今日には自分が死ぬかもしれないんだから。死ぬのが怖くて、痛いのが嫌だったんだよ。

 でもね、思ったんだ。

 私が本当に死んでやったら、あいつらはどんな顔するだろうって。あいつらのやったこと全部遺書に遺してさ、本当に死んでやったら、さぞびっくりして間抜けな面晒してくれるんだろうなって……! 上手く行ったら捕まってさ、嫌そうに眉毛下げて、私を恨むんだろうなって! 恨んで、恨みに縛られて生きるんだろうなって!

 これこそ一番の報復なんだって‼

 そう思ったらもう体が勝手に動いててね、止まらなかったよ。この橋の、そこ。そう、その辺に遺書縛り付けてね、この川に真っ逆さま。飛び降りてたんだ。

 ああ、本当に……気持ちよかったよ! 爽快だったよ! 痛くて苦しくて怖くて怖くて、それは川の中でも同じだったけどね……私は初めて、私のやりたいことができた。痛みに縛られないで、仕返しができたんだ。あいつらへの報復ができたんだ。

 そしたらわかったよ。私は自由だって、自由でよかったんだって。笑う必要もいじめられる必要も親の顔色伺う必要も、全部なんにもなかった。逃げたって誰も咎められはしないんだ。私は自由だった!

 ……それで気がついたら、いつもの鏡の前で笑っててね、ここに来てたよ。

 まさか私が川の中で味わった苦しいのが夢なわけないじゃんか。で、すぐにわかった、ここが死後の世界なんだなぁって。

 鏡は割ってゴミ箱に捨てて、家から出て、学校行って……授業受けてたら、死んだ魚みたいな顔してるキミがいきなり見えてね。ちょっと前までいなかったもんだからさ、キミも死んだんだってすぐにわかった。気になったから座席表で名前見て話しかけたんだよ。

 ああ、それと、なぜ天国か、だったかな?

 私、こっちに来てから一回も家に帰ってないんだ。だっていいじゃんか、あんな家、私は自由なんだからいなくたっていいじゃんか。だから……。

 だからここは、自由に生きられるここは、私の天国で、……二つ目の人生なんだ。


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